2017年12月11日(月)

東レもはまった「特採」のワナ データ改ざん底なし

品質不正
環境エネ・素材
2017/11/28 14:32
保存
共有
印刷
その他

 日本の製造業が「データ改ざん」の底なし沼にはまっている。神戸製鋼所三菱マテリアルの子会社3社に続き、28日には東レが子会社で不正があったと発表した。素材や部品などの製造各社は「当社は大丈夫だろうか」と品質保証現場の調査を進めている。コンプライアンス(法令順守)の意識が今ほど高くなかった時代にさかのぼって調べるケースが多く、今後も不正発覚が続発する可能性がある。

「公表しないで済んだ案件」

 東レの日覚昭広社長は28日の会見で「神戸製鋼所や三菱マテリアルの問題で品質に関心が高まるなか、正確な内容を公表すべきだと考えた」と語った。社内調査で判明したのは、東レハイブリッドコード(愛知県西尾市)が主にタイヤ・自動車関連の繊維製品で犯した149件のデータ改ざん。2008年4月から16年7月までの4万件を調べた結果で、不正発生率は0.4%だ。

 件数の少なさに加えて、タイヤや自動車の安全性を揺るがすような重大な内容でもない。神戸製鋼所のような先例がなければ、取引先に納得してもらえさえすれば済む話だったとの認識が、日覚社長の発言からは読み取れる。

 東レハイブリッドコードの鈴木信博社長の弁明からも、従来なら内々で済ませてきた問題であることがうかがえる。「特別採用という慣習も(データ改ざんの)動機になった」――。

 特別採用とは不適格製品の取り扱いの手法だ。国内の素材・部品業界では一般的な商慣行で「特採(トクサイ)」と略される。品質マネジメント規格のISO9001にも、この概念に関連する規定がある。顧客が要求した品質ではないが不良品とまではいえない。納期や数量を勘案すれば、誤差の範囲として取り扱ったほうが得策だ。最終製品の品質に影響を与えないことを前提に、顧客に許可をもらい出荷する。

 ただ、トクサイはあくまで応急措置との位置づけで、できるだけ早く正規の品質基準に合わせるのが本来のルールだ。東レハイブリッドコードは、トクサイの趣旨を逸脱し、不適格製品の出荷を品質管理担当者の判断で「許可」した。また、三菱マテの3子会社もトクサイを悪用。「顧客からクレームがなければ問題ない」として、規格外の不正品を正規品として出荷していた。

聞こえてこない取引先の非難

 こうした安易な自己判断がまかり通る背景には「文句のつけようがない品質の製品をつくっている」とのおごりと、それを黙認してきた取引先の仲間意識がある。

 高度成長期から一貫して、相手の立場を推察し擦り合わせることが日本の製造業の流儀だった。完成品メーカーが品質水準50%でもいいところを、安心のために100%で部品メーカーに発注する。部品メーカーは余裕を持って200%の水準を素材メーカーに求める。素材メーカーは195%以上なら問題なしとして納品する――。お互いが相手のバッファーを知っているため、品質水準厳守より納期厳守やコスト抑制で報いた方が取引先に対して誠実と考える。

 過度な信頼関係の構図は、不正発覚後に極端な顧客離れが起きていないことからも明かだ。東レのライバル企業の幹部に、不正を好機として商権を奪う自信はあるかとたずねると「ありません」と即答された。神戸製鋼製のアルミ製品を使っていた自動車メーカーにリコールの動きはない。三菱マテの取引先の中堅社員は「不正があっても品質は世界最高」と話す。

 ただ、こうした日本企業を中心とした仲間内の論理は、もはや成立しない。取引の透明化やコンプライアンス重視は国際的な課題であり、日本でしか通用しない商慣行の余地はどんどん狭まっている。機関投資家の間では有望な投資先として、環境や社会的責任、企業統治を重視する企業を選ぶ「ESG投資」が潮流となっている。不正の底なし沼の広がりを本気で止めなければ、日本の製造業のブランドイメージは地に落ちる。

(石塚史人)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

企業・業界をもっと詳しく

企業がわかる。業界がみえる。ニュースとデータをまとめてチェック!



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報