2017年12月16日(土)

多種対応 世界唯一ズラリ 東海バネ工業(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
関西
2017/11/27 17:00
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 ジュッ、ジュー、という音とともに炎が立ち上がる。東海バネ工業(大阪市)の豊岡神美台工場(兵庫県豊岡市)では、熱を帯び赤くなった高さ60センチメートル、重さ100キログラムのバネ鋼が炉から取り出されていた。バネの温度はセ氏900度。炉の近くは人が近づけないほど熱く、大人3人がかりで扱うのがやっとだ。

熱したバネを油槽で冷やす。油に触れた瞬間、炎が上がる

熱したバネを油槽で冷やす。油に触れた瞬間、炎が上がる

 高温まで熱し、油槽で一気に冷却。再度熱することでバネの強度が決まる。「命を吹き込む」工程と言われ、性能を決めるのはタイミング次第だ。焼き具合や形状を見極め、判断するその瞬間が職人の腕の見せどころになる。

 同社は創業83年のバネ専業メーカー。約50人の職人が巻き付け、切る、焼く、磨くといった工程に黙々と取り組む。世界で唯一、最大で直径90ミリメートルに対応できる技術も持つ。数ミリのミスが許されない製品も多く、国家資格よりも難しいとされる社内検定の通過が必須。日本ばね工業会が表彰する全国56人の優良技師のうち17人が同社の職人だ。

 こうした技を頼りに、人工衛星用の直径3ミリのバネや、東京スカイツリーの振動を吸収する長さ1メートル超のバネまで、多種多様の注文が舞い込む。「世界で唯一の製品ばかり。こんなバネ屋はどこを探してもない」と渡辺良機社長は胸を張る。

 「10年前に注文したあのバネ、4つ作ってもらえませんか」「いいですよ」。汎用メーカーからするとびっくりするようなやりとりがあるのも、同社の特徴だ。23年前から、受注製品は材料から製造履歴まですべてデータベースに記録。鋼材の在庫の有無などを瞬時に割り出し、納期と価格を提示する。

 生産ロットは平均5個に過ぎない。「微量生産」を支えるのが、完全受注生産のビジネスモデルだ。在庫を圧縮できるほか、他社が作れないバネを提供するため、同社の提示価格が受け入れられやすいという。16年度の売上高は22億円。営業利益率は12%と同業他社に比べて高い。

 創業当時から少量多品種生産を貫く。渡辺社長は「潰れないために何をすればいいかを考えた結果」と語る。職人の技術とデータベースを擦り合わせてオンリーワン企業になった。化学プラントなどの安全弁を手がける福井製作所(大阪府枚方市)は「決して安くない東海バネの製品だが、信頼性が高い」と話す。

 2010年に豊岡の工場内に完成した啓匠館は、同社のミッションの1つである若手への技能継承を手掛ける。一方、バネの巻き取りと言われる工程を自動化するなど先端技術も取り入れており、技術の研磨に余念がない。高い技術力と高利益率を両立させ、あらゆるバネを作り続ける。

文 大阪経済部 赤間建哉

写真 淡嶋健人

 カメラマンひとこと 熱したバネを冷やす油槽。周囲の床は油でつるつるだ。足を滑らせないよう慎重に歩いて、縁にしゃがみ込む。もっと近づいて撮りたいが、これ以上は危険。偶然かばんに入っていた防寒用の手袋をはめて、カメラを持つ腕を懸命に伸ばした。炎が上がるのは油に触れる一瞬だけ。首筋に汗がにじむのを感じながらシャッターを切った。

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