日本のゴルフ存続の危機 いま私たちにできること
公益財団法人日本ゴルフ協会専務理事 山中博史
今回はゴルフ界にとって大きな問題についてお話しします。
少子化とともに、年々ゴルフ人口が減っていることは皆さんもご存じのことと思います。ある調査によると、2016年にゴルフコースで1回以上プレーした人は15年に比べて210万人も少ない550万人だったそうです。実に27.6%の減少。ゴルフ人口はピーク時の2分の1以下になった計算です。
目を引くのは、ゴルフ人口の高齢化です。年代別の構成比は60代が23%、70代は30%。両方の年代を合わせた比率53%を上回るレジャーはゲートボール(63.5%)だけです。別の言い方をすると、ゴルフ人口の半数以上は60代以上だということです。そして25年には、ゴルファーの核をなす層である団塊の世代の人たちが75歳以上となってしまうことになります。

さらに問題なのが「ゴルフをやった」という参加率です。わずか5.5%で、前年から2.0ポイント減っています。特に前年は2ケタだった50代男性(15.8%→8.5%)と40代男性(11.0%→8.3%)が減少しています。これに加えて少子化問題があり、各競技では若い世代の取り込みを懸命に模索しています。このままでは「日本のゴルフ存続の危機」といっても過言ではありません。
日本ゴルフ協会(JGA)でもこうした事態を深刻に受け止めています。ゴルフという年齢・性別を問わず楽しめるゲームに親しんでもらうためには、どうしたらよいのかいろいろ知恵を絞っているところです。特に力を入れているのはどうやったら「若者がゴルフをやるようになるのか」「親が自分の子供にゴルフをさせようと思うのか」「ゴルフを始めた人が辞めずにプレーし続けるようになるのか」です。
■まずは世界で活躍する選手育成
そのためには世界で活躍する選手、スターを育てることが欠かせません。これはどの分野でもいえることです。テニスの錦織圭選手、将棋の藤井聡太四段、フィギュアスケートの羽生結弦選手ら傑出したスターが登場することで、その競技に注目が集まります。これを機に、その競技をやろうという人が増える→競技人口が増える→関連産業が活性化する――という好循環で回るようになります。
ゴルフでいえば、かつてのAON(青木功、尾崎将司、中嶋常幸)、丸山茂樹、宮里藍、石川遼、松山英樹や畑岡奈紗に続く、次の選手が育つ土壌を整備することが欠かせないのです。
そのためには日本のゴルフ界が団結しなければなりません。今まで「JGAはアマチュア、プロは男女のプロ協会に、トーナメントはツアー機構に」とすみ分けてきました。ジュニアのころからJGAナショナルチームで育成した選手も、プロ入りしたら「JGAの手を離れる」というのが慣例になっていました。「プロになったら、一人で頑張ってください」というスタイルです。
これでは日本のゴルフ界としてシームレス(継ぎ目なし)に選手を育てるのが難しくなります。ゴルフ存続の危機を前にしてアマチュア管轄団体とか、プロ協会とかいっている場合ではありません。日本のゴルフ界を挙げて、オールジャパンで選手を育てる態勢が必要なのです。
■よいコーチの助言欠かせず
そしてよい選手を育てるためには、よいコーチが必要です。世界トップクラスのゴルフ界は、きちんとした理論に基づいて勉強して資格を持ったコーチが教えるシステムが確立されています。ところが日本では、少しゴルフのうまいアマチュアが教えているケースが珍しくありませんでした。

JGAでは15年末からオーストラリアのヘッドコーチを務めていたガース・ジョーンズ氏を招き、コーチング専門職の立場から指導してもらっています。
たとえば自分のプレーとデータを関連づけて数値化することで目標を明確にし、自信を高めていく取り組みです。さらに試合開催コースでのゲームプランを考えるだけでなく、うまくいかなかった場合にどのような選択肢があるかを考えるなど、何よりも「書く」ということを徹底し、自分の長所短所を把握、記憶させる術はプレーヤーにとっては新しい訓練でした。合言葉は"Write, write, write"(書く、書く、書く)です。
この努力は16年の日本女子オープン選手権でアマチュア(当時)の畑岡選手が優勝という形で結実。しかも、プロに転向した畑岡選手が今年連覇するという快挙をやってのけました。新たな取り組みが実を結んだ一例といえるでしょう。また、今年の日本オープン選手権で活躍し、1打差の2位になった金谷拓実選手(東北福祉大1年)もジョーンズ氏の影響を強く受けている選手です。
我々としては、ジョーンズ氏のような優秀なコーチを全国各地区に配置できればよいのですが、そのためどうしてもコーチの養成と予算が必要です。
ところがJGAが強化やコーチの費用に回せるおカネは、情けないほど少ないのが実情です。お隣の韓国に比べるとかなり少ないのです。女子でアニカ・ソレンスタム、男子ではヘンリク・ステンソンらのメジャー優勝者を送り出しているスウェーデンや、今年のアジアチーム選手権で優勝したタイも日本の何倍もの予算をかけています。
■他団体と協力して寄付金募る
ゴルフは他のスポーツに比べお金もかかります。クラブやプレー代、練習、移動経費に加え、優秀なコーチを何人も雇おうとすれば大変な金額になります。そこで、JGAではプロ団体や、他のゴルフ団体と一緒になって寄付金を募ることにしました。JGAは公益法人なので、寄付した金額は所得税の控除になります。1万円以上協力していただいた方にはサポーターバッチをお贈りしています。また個人や企業の名前はホームページで公表していきます。ホームページや競技会場での紹介、日本オープンや女子オープンのテレビ中継でも取り上げてもらいました。
もう一つ考えたいのがジュニアのゴルフについてです。ゴルフ界の誰もがジュニアの育成、つまり競技を支える裾野を広げ、普及することが大切だと認識しています。実際、各団体や企業、個人がそれぞれお金や人を使い、全国で大会、イベントやスクールなどを開催しています。

その結果、ジュニアのスケジュールが過密になり、毎週のように大会に出場する状況になっています。トップクラスの選手になると、ジュニアの大会に加え、アマチュアの大会やプロの大会への出場機会もあります。このため学校に行く時間がなく、また基礎体力が足りないまま無理なスケジュールをこなすことになり、その結果、けがをしたり体を痛めたりするケースが多くなっています。
これらをまとめる組織や機関が必要であると考えています。各地区連盟、パブリックゴルフ協会、練習場連盟やプロ団体と調整し、早く取り組まなければいけないと思います。まずは統括団体であるJGAのジュニア普及委員会に各団体から入っていただき、調整に入りたいと考えています。
■重要なのは資金をどう使うか
寄付の話に戻りますが、すでにいくつかの地区連盟や都道府県連盟、何人かのプロゴルファー、テレビやホームページを見た方から寄付が集まり始めています。目標としては年間2億5000万円から3億円くらいを次世代ゴルファーの育成資金としてつくっていきたいと考えています。
そして本当に重要なのはその資金をどう使うかです。どの団体にどれだけ分配するのかを配分委員会で、公平にそして話し合いの内容をガラス張りにして決めていく必要があります。また第2、第3のガース・ジョーンズ氏を育てるため、日本プロゴルフ協会や日本女子プロゴルフ協会の協力も欠かせません。そして何より重要なのは一般ゴルファー、国民の盛り上がりであることは言うまでもありません。
ゴルフという素晴らしいゲームを次の世代に引き継ぐためにも、みなさんのご理解とご支援をお願いいたします。