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造船不況 免れぬ再編、川重、三井造が「台風の目」

焦点インタビュー

深刻な造船不況が続く中、国内の業界再編で「台風の目」とされるのが、2013年6月に経営統合が破談した三井造船川崎重工業の造船部門だ。単独で生き残ることが難しいなか、歴史ある総合重工系2社がどう動くのか。それぞれの造船部門トップである川重の餅田義典・船舶海洋カンパニープレジデントと、三井造の古賀哲郎取締役常務執行役員に今後の戦略を聞いた。

川重の餅田義典・船舶海洋カンパニープレジデントとの一問一答は以下の通り。

――主力の坂出工場(香川県坂出市)でドックを2つから1つにしてコスト体質を改善した。

「昨年12月から坂出工場に『KPS』という独自のカイゼン手法を導入した。構造改革実行会議を毎月開き、(コスト削減などの)目標を設定し効果は出ている」

川崎重工の造船トップ、餅田・船舶海洋カンパニープレジデント

――一方、商船の建造は中国海運大手、中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)との合弁2社への委託が増えている。

「商船は中国合弁2社で坂出工場の3倍を建造するイメージだ。技術力は国内と遜色なく、顧客からの評価も高い。好例は、合弁の南通中遠川崎船舶工程(浙江省、NACKS)が液化天然ガス(LNG)を燃料とした自動車運搬船を世界で初めて建造したことだ。実績を重ねれば(中国製を懸念する)船主の意識も変えることができる」

――中国の国有造船大手は政府支援もあり安値攻勢を仕掛けている。

「中国で造るコストメリットと日本発の高い建造技術を併せ持つのは川重だけ。大連市の造船合弁会社で18年度後半に新ドックが完成すれば、(価格競争の激しい)超大型タンカーやばら積み船などを効率良く建造できる。南通はLNG運搬船など高い技術力が必要な船を手掛ける。2社で役割を分担して競争力を高め中国勢に対抗する」

「中国2社を含めれば年40隻程度のボリュームだ。日本との共同調達も進めており、航海計器やプロペラなど高品質な日本製機器を一括購入しコスト下げられている。合弁相手のコスコ・グループは海運世界大手であり、NACKSで建造してきた船の約4割を納入してきた。(優先的な受注があるために)造船不況でも助かっている」

――ただ、中長期的に生き残るには他社との再編や提携が必要ではないか。

「一緒になるメリットがクリアにならないと非常に難しい。事業規模が2倍でも赤字なら意味がない。調達コストを下げられるとか、何かしら補完し合う部分が必要だ」

――三菱重工業のように造船専業他社と手を組む可能性はあるか。

「同じくメリットを見つけ出すことが先だと考えているが、可能性はゼロではない。現在の構造改革を進め、目標に達しなかったら(事業売却などの)『プランB』を検討するという流れだ」

 三井造の古賀哲郎取締役常務執行役員との一問一答は以下の通り。

――三井造船は18年4月、純粋持ち株会社制に移行し、船舶・艦艇事業を「三井E&S造船」として分社化する。新事業会社の社長として何に取り組むのか。

三井造船の古賀取締役常務執行役員

「事業子会社には予算や人事など一定の権限を与える。責任感を持ち迅速に採算改善に取り組める。事業本部制度だと『護送船団』になりがち。他本部がもうかれば、『造船は赤字でも』との甘えがあった。社員の意識改革にもつながる。今後2、3年が勝負。船価が低迷しても利益を出せる体制を作り上げたい」

――事業子会社にすれば他社との連携にも動きやすいはず。

「自前主義では生き残れない。造船業界は以前のような好況が二度と訪れない。だから市況が少し上向きつつある今がチャンスだと捉え、他社との連携の可能性について検討している。経営統合や資本提携という形にはこだわっていない。事業ごとに様々な連携があり得るはずだ」

――三菱重工業は今治造船など専業大手3社と提携したが。

「専業大手のコスト競争力は大きな魅力だ。一方で我々には設計・開発の技術力がある。重要なのは他社から組みたいと思ってもらえる魅力ある会社になることだ。技術力の強化やコストダウンの努力を進める」

――商船が主力の千葉事業所(千葉県市原市)は収益的に厳しい。

「確かに足元の商船事業は厳しい。でも首都圏に近い立地という利点は計り知れないほど大きい。内航船の修繕事業は引き合いが強く、さらに今後は環境規制の強化に対応するための修繕需要も立ち上がる」

「東京五輪に合わせて計画されている海底トンネルの主要部材『沈埋函(ちんまいかん)』を製造しているのも千葉事業所だ。(艦艇など)官公庁の船を手がける玉野事業所(岡山県玉野市)、商船と修繕などが主力の千葉事業所で役割分担できれば、さらに企業価値を高められる」

――中長期的に生き残るために何をするのか。

「新社名の『E』はエンジニアリング、『S』はシップビルディングの意味だ。我々はものづくりに徹底的にこだわり造船の旗は降ろさない。新型船開発にも取り組んでいく。業界は優秀な人材集めに苦労しているが、技術力をアピールし魅力ある造船会社にしたい」

聞き手から

日本の造船業界は大型の商船を手掛ける会社だけで15社近くもある。厳しさを増す収益環境を踏まえれば、再編は避けられそうにない。

日本船舶輸出組合の統計によると、2017年1~10月の累計受注量は795万930総トン。環境規制強化前の駆け込み需要の反動で落ち込んだ16年1~10月と比べれば2倍以上だ。それでも17年は通年で1000万総トンを下回る見通し。国内の主要メーカーの建造能力は1200万~1300万総トンあり、受注残を食いつぶす状況が続く。

今後も世界的な船腹の過剰が解消されず、受注の本格回復が見込みにくい。このため、三菱重工業は国内最大手の今治造船のほか、大島造船所、名村造船所との提携交渉で合意。18年1月に造船部門を2つの事業子会社に分社化する。設計技術や低コストの生産技術など強みを持ち寄ることが狙いだ。

三井造船と川崎重工業にしても船舶部門はいずれも赤字で、単独で生き残るのは簡単ではない。他社との提携に積極的なIHI系のジャパンマリンユナイテッド(JMU)を含めて総合重工系3社の動きが焦点だ。再編に動かなければ、生き残りが難しくなる。

というのも、世界の造船業界はこれから再び激動期を迎えるからだ。20年代前半に向けて環境など様々な規制が強化され次世代技術の実用化などに多額の開発費が必要となる。各社にとっては再編で高コスト体質の是正という構造改革を進めることが欠かせない。そして、設計技術者など経営資源を結集したり海外での生産拠点の展開を加速したりするなど攻めの戦略が同時に求められている。

(林英樹)

[日経産業新聞 11月21日付]

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