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大リーグ、現代の監督に求められる条件

スポーツライター 杉浦大介

今オフ、ヤンキースを10年にわたって率いたジョー・ジラルディ氏、メッツの指揮官を7年務めたテリー・コリンズ氏というニューヨークの2人のベテラン監督がユニホームを脱いだ。どちらも満了した契約が更新されなかったという形だが、事実上は解雇も同然。この2人がその座を追われた背景から米大リーグのチームが現代の監督に求めるものが見えてくる。

過去2年はプレーオフに進んだメッツが今季は70勝92敗に終わったのだから、コリンズ氏の退任は仕方なかったのかもしれない。2007、08年には日本でオリックスの監督を務めた同氏も、もう68歳。今年のシーズン中に一応は「まだ監督を続けたい」と述べてはいたが、"そろそろ潮時"という雰囲気はチーム、本人の両方から漂っていた。

残留濃厚とみられていたが…

一方、ジラルディ監督の契約が更新されなかったことはファン、関係者を少なからず驚かせたといっていい。17年のヤンキースは91勝71敗で、ワイルドカードながらプレーオフに進出。地区シリーズでは本命のインディアンスを破り、ア・リーグ優勝決定シリーズではアストロズに3勝4敗で惜敗したものの、ワールドシリーズにあと一歩まで迫った。

08年からチームを率いてきたジラルディ氏は通算910勝710敗という好成績を残し、10年間で6度もポストシーズンに進出。まだ53歳と老け込む年齢ではない。今年、12年以来のプレーオフ勝利にチームを導いた時点で、残留は濃厚とみられていたのだ。しかし――。

10月26日、ヤンキースはジラルディ氏の退任を発表。通算27度の優勝回数を誇る名門は、ここで新しい方向に進むことになった。

「今は心が沈んでいるが、オーナーやスタッフ、選手、ファンに感謝したい。プレーオフに入ってから、特に最後の6試合でみせてくれたファンの熱意と興奮は自分の胸に生涯刻まれるだろう」

退任決定後に発表された声明でジラルディ氏は感謝の言葉を繰り返したが、その一方で隠しきれない悔恨ものぞいた。アーロン・ジャッジ、ゲーリー・サンチェス、ルイス・セベリーノといった生え抜きの若手が次々と芽を出し、ヤンキースは再び上り調子。ジラルディ氏の声明にある通り、地元ファンもプレーオフではこのフレッシュなチームを熱狂的にサポートした。

マイナー組織にも好素材がそろっているだけに、ヤンキースが近い将来、再び黄金期を迎えるとみる関係者は少なくない。「やりかけの仕事を果たしたい」という強い情熱はジラルディ氏の中に間違いなくあったはずである。

しかし、球団の考えは違った。前述の通り、今のチームはジャッジ、サンチェス、グレッグ・バード、ディディ・グレゴリアス、セベリーノ、ソニー・グレイといった28歳以下の選手たちが主軸になっている。さらにマイナー組織には20歳のグレイバー・トーレス、23歳のチャンス・アダムスといったトップ級のプロスペクト(有望株)が出番を待っている。これほど若く将来性のあるメンバーがそろったからこそ、チーム側は指揮官交代の引き金を引いたのだろう。

「選手との対話能力を懸念」

「懸念されたのは選手たちとコミュニケーションをとる能力だった」

ヤンキースのゼネラルマネジャー(GM)、ブライアン・キャッシュマン氏は11月6日に電話会見を開き、ジラルディ氏とたもとを分かった理由をそう説明している。その後に続いた言葉は、ジラルディ氏に足りなかった部分と、後任に求める要素をわかりやすく表しているようだった。

「実績あるベテランが多いチームから、エナジーと才能に満ちた若いグループへとこの1年で大きく変化した。多くのベテランが去ったあと、(若手たちと)より深く関わり合い、気軽にコミュニケーションができるチームになるチャンスがあった。しかし今後、前に進むために十分なレベルに達しなかった。だからこそ(監督交代をオーナーの)ハル・スタインブレナーに進言したんだ」

マーリンズの監督だった06年にはナ・リーグの最優秀監督賞を受賞し、ヤンキース監督としても優れた実績を残してきたジラルディ氏だが、コミュニケーションに秀でているという定評を勝ち得たことはなかった。昔気質の軍曹タイプだけに、若返ったチームの選手たちと心を通わせるのは今後も難しいと判断されたのだろう。さらにいえば、ジラルディ氏は型にはまった采配を好むがゆえに、データに裏打ちされたフロントの裁量が重視されるようになったメジャーの監督としては時代遅れと判断されたのかもしれない。

ジラルディ、そしてコリンズ両氏については、現代の大リーグにおける監督像の傾向を指し示しているようでもある。今年のワールドシリーズでは45歳のデーブ・ロバーツ氏が率いるドジャース、43歳のAJ・ヒンチ氏が指揮官だったアストロズが対戦。最終戦にもつれ込む死闘となり、最新鋭のデータを用いているとされるアストロズが初優勝を飾ったのは記憶に新しい。

この2チームに加え、パドレスは40歳のアンディ・グリーン氏、カージナルスは47歳のマイク・マシーニー、ブリュワーズは47歳のクレイグ・カウンセル氏、マリナーズも50歳のスコット・サービス氏を監督として登用。"若い監督"を重宝する傾向に倣うように今オフ、68歳のコリンズ氏、68歳のダスティ・ベイカー氏(ナショナルズ)、66歳のピート・マッカニン氏(フィリーズ)、55歳のジョン・ファレル氏(レッドソックス)が一斉に解雇された。

レッドソックスではアレックス・コーラ氏、メッツでもミッキー・キャロウェー氏というともに監督経験のない42歳の人材が後任に任命されたのは象徴的。中にはタイガースが60歳のロン・ガーデンハイヤー氏に3年契約を与えたような例外もあるが、それ以外の一連の動きは、もう「トレンド」と呼んでも過言ではない。

(1)若い選手たちと通じ合えるパーソナリティーを持っている(2)データ分析に精通し、戦術に応用できる――。スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」の有名記者、トム・バードゥッチ氏は現代の監督に必要とされる要素はこの2つであると指摘している。

もとをたどれば、すべては00年代前半から各チームがデータ分析の得意な若きGMを採用し始めたことに端を発する。02年オフにレッドソックスは当時28歳だったアイビーリーグ出身のセオ・エプスタイン氏をGMに起用し、04年に"世界一"に到達。その後、選手としての経験はなくとも、セイバーメトリクス(統計学を用いた選手の評価、分析手法)を駆使する若き秀才たちがGM、球団社長を務めるケースが増えていった。

彼らが重視したのがマイナー組織を充実させた上での生え抜き中心のチームづくりと、データの有効利用。そんな流れが、現代の監督の若返りをもたらしていることは容易に想像できる。

百戦錬磨の策士よりも…

フロントが大きな影響力を持った昨今のメジャーでは、百戦錬磨の策士より、若い選手と心を通わせるコミュニケーション能力、データを扱う聡明(そうめい)さを持った人物の方が監督に適しているということ。だとすれば、コリンズ氏はもちろん、いつの間にか50代も半ばに近づいたジラルディ氏が職を追われたのは当然だった。

今後、ヤンキースが後任監督に誰を選ぶかも興味深い。コミュニケーション能力を買われ、17年までベンチコーチを務めた54歳のロブ・トムソン氏、日本球界の経験がある50歳のヘンスリー・ミューレン氏らの名前が挙がっている。また、17年までドジャースの三塁コーチを務めた41歳のクリス・ウッドワード氏、引退後はスポーツ専門チャンネル「ESPN」の解説者を務めてきた44歳のアーロン・ブーン氏も有力候補とされる。

ウッドワード、ブーン両氏は今季成功したヒンチ氏、ロバーツ氏の系譜を継ぐ候補と言えよう。一方、大都会であるニューヨークでの監督業は他の球団以上にメディアへの対応能力も必要と思えるだけに、ジラルディ氏より年上でも対話の能力にたけたトムソン氏のような名前が出てくるのは理解できる。このうちの誰を選ぶかで、今のヤンキースの優先度が見えてくる。はっきりといえるのは、次の監督は厳格さと緊張感が特徴の指揮官だったジラルディ氏とは全く違うタイプになるだろうということだ。

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