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ソフトバンク、「スゴ技」製品 高速発射台

大企業とスタートアップが会社の規模や業種を超えて連携する動きが広がってきた。異質なものがつながり、化学反応を起こすコラボレーション(協業)が新市場を拓(ひら)く。ソフトバンクはクラウドファンディングの手法で、起業家たちの斬新な発想を形にする。オープンイノベーションの原点だ。

企画・資金・販路も支援

ハタプロの手のひらに乗るAI「ZUKKU」はユーザーの意見を反映した

「これって意外と店舗向けにいけるんじゃない? レストランならテーブルにも置けるしさ」。小型ロボットを開発するスタートアップ、ハタプロ(東京・港)の伊沢諒太社長は、ソフトバンクの営業マンの何気ないアイデアにハッとした。

ハタプロが開発した人工知能(AI)搭載の「ZUKKU」。手のひらに載るフクロウ型のアシスタントロボだ。構想段階ではクルマのドリンクホルダーに置いて、運転を手助けする目的だった。位置情報から街の観光スポットを音声で教えたり、事故など緊急時にボタン1つで通報したり。

だが、ソフトバンクの助言で軌道修正し、来年には小売店や外食店向けにも売り出す計画だ。顧客との対話や顔認証でお薦め商品を教えるなどマーケティングへの活用を見込んでいる。

西海岸流ものづくりをアレンジして取り入れた(ソフトバンクコマース&サービスの近藤IoT戦略室長)

伊沢氏に営業マンを紹介したのはソフトバンクコマース&サービスの近藤正充IoT戦略室長。スタートアップや個人のモノ作りを支援する新規事業「プラススタイル」の仕掛け人。そのビジネスモデルは独特だ。

商品企画の段階からアドバイスできる専門家を紹介したり、ネットを介して一般ユーザーから意見を募ったりする。アイデアが形になると資金をクラウドファンディングで個人から調達する。

技術面ではソフトバンクの提携先企業から選ばれた「技術メンター」が相談に乗る。多くのスタートアップが苦戦する製造委託先や販路も紹介。ソフトバンクはモノが売れた際に一定の手数料を受け取る仕組みだ。

ハタプロのZUKKUもユーザーから意見を募り、デザインや機能を磨いていった。ソフトバンクが展示会を紹介し、徐々に知名度を高めたことで商品化が見えてきた。

プラススタイルの発端は近藤氏が2013年に赴任した米シリコンバレー。そこで体験したブーム直前のクラウドファンディングの勢いだった。

個人や生まれたばかりの会社がネットで資金を集めてアイデア満載の商品を世に送り出す。近藤氏が出資したIT調理器具も一躍、大ヒット商品に。そのダイナミズムに魅せられ、個人主導のモノ作りの世界にはまっていく。「ハズレも多いけど、とにかくとがった商品が多くて面白い」

日本でも面白いモノを生み出す仕掛けができないか。米国流を移植するだけではつまらない。米国のクラウドファンディングも多くが「一発屋」だった。製造や販路でつまずくためだ。15年に帰国した近藤氏は資金調達だけでなく、製品の構想から生産、ユーザーに届くまでを一貫して支援できるプラットフォーム作りにまい進した。

ナンバー2が1発OK

「面白いね。年に1~2個のヒットを作れよ」。ソフトバンクで長年、孫正義会長兼社長を支えるナンバー2の宮内謙副社長に相談したところ一発でOK。孫氏の考えを熟知する宮内氏が首を縦に振ったのには訳がある。

あらゆるモノがネットにつながる「IoT」。孫氏は「次のパラダイムシフトだ」と言い、布石として16年に3兆3000億円を投じて半導体設計専業の英アーム・ホールディングスを買収した。「40年には1人あたり1000個の"つながるモノ"を持つようになる」と言う孫氏。そのビジョンと近藤氏のモノ作りの構想がピタリと一致した。"つながるモノ"を生み出すのが大企業だけとは限らない。

それでは、資金力があるソフトバンクがなぜ個人のカネに頼るのか。実は1981年の創業から情報革命をうたう孫氏は「製造には興味がない」と言い切る。90年代後半、米メモリーボード最大手のキングストン・テクノロジーの買収で巨額損失を出して以来、メーカーへの投資はない。この感性も近藤氏のモノ作りの考えに通じる。

プラススタイルは16年3月に事業をスタート。すでに約100件を手掛けた。

ロボット開発のスタートアップ、ミラ(横浜市)の松井健社長も評判を聞きつけた一人だ。スマホで戦車のような模型を操るボードゲーム「コード・ホライゾン」。米国ではクラウドファンディング大手を通じて資金を集めたが、日本ではプラススタイルを利用。すると資金だけでなく、専用サイトを通じて「一気に注目された」(松井氏)。すでに300個を出荷し、ゲーム好きの間でじわり人気が出ている。

 橋渡しするのはスタートアップだけではない。近藤氏がパートナー企業を募って金沢美術工芸大学で開いた3カ月間の授業でのことだ。

技術メンターとして講師に派遣されたダイキン工業の社員が驚いたのは、学生がデザインしたクッション。ダイキンが開発した特殊なチューブ「エアリトモ」を使い、座っている間に心拍数を計測する。まだアイデア段階だが、学生の柔軟な発想から新製品が生まれる期待を感じさせた。

あくまでスタートアップを主役と位置づけ、サポートに徹するソフトバンク流は、本来のコラボの形を世の中に提示している。

囲い込みから生態系作りへ

人工知能(AI)、自動運転、シェアエコノミー。IT(情報技術)の進化が産業地図を大きく塗り替えている。20世紀の工業化時代を支えた既存の産業が再定義を迫られる中、大企業が自力でカバーできる範囲は限られる。従来にない発想や技術で勝負するスタートアップに知恵を借りるのは自然な流れだ。

大企業とスタートアップの連携はこれまで、将来のグループ化や技術の取り込みを狙ったものが多かった。だが、近年は互いの立ち位置に変化が見られる。大企業による「囲い込み」式の連携から、新市場のエコシステム(生態系)を共に築く発想への転換だ。

例えば、創業者・本田宗一郎氏の信念から「自社開発」にこだわり続けたホンダ。米シリコンバレーで始めたスタートアップとの連携策をグローバルに広げる。日本ではAIをテーマに異業種にラブコールを送る。言うまでもなく、自動車メーカーにはない知見を得るためだ。

TBSホールディングスは2013年に始めた投資事業の第1号案件にフィンテックの旗手、マネーフォワードを選んだ。テレビとは全く関係のない業種を選んだのは、将来の飯のタネを探る狙いだろう。

日本は米国と比べて「スタートアップ後進国」と呼ばれて久しい。リスクマネーは動かず、いまだ新卒採用も大企業が人気を集める。だが、産業の構造変化がスタートアップにチャンスをもたらしている。優秀な若者の起業も相次ぐ。これまでの常識にとらわれないコラボが生まれる可能性が高まっている。

(企業報道部 杉本貴司)

[日経産業新聞 2017年11月16日付]

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