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ラミレス監督に勝負師を見た 妙手が熱戦生む

日本シリーズで敗れはしたものの、DeNAのアレックス・ラミレス監督がポストシーズンで見せた采配には驚かされることばかりだった。終盤の独走でパ・リーグを制したソフトバンクがセ・リーグ3位のDeNAを相手に4勝2敗と、ある意味順当な結果に終わった日本シリーズが印象深いものになったのも、ラミレス監督が次々に妙手を繰り出したためだろう。

投手起用を振り返ると…

広島とのファイナルステージでは今永を中継ぎで起用した=共同

まず驚いたのが、阪神とのクライマックスシリーズ(CS)・ファーストステージ第1戦の先発投手。レギュラーシーズンで2桁勝利を挙げた今永昇太(11勝)、浜口遥大(10勝)、ジョー・ウィーランド(10勝)のいずれでもなく、6勝10敗に終わった井納翔一だった。2016年に巨人とのCSファーストステージ初戦で7回2失点と好投、ファイナルステージ第3戦も広島を7回無失点に抑えたイメージがラミレス監督の頭にあったのだろう。井納は6回2失点で敗戦投手になったが、六回に福留孝介に2ランを浴びるまでは申し分のない投球だった。

広島とのファイナルステージでは、それまで先発の経験しかなかった今永と浜口を中継ぎで起用した。投手を惜しみなくつぎ込まないと試合を落とすかもしれない、という恐れが生んだスクランブル登板。今永はファーストステージ第2戦で先発した際、3回3失点で降板している。挽回のチャンスを中継ぎという形で与えられた結果は2回を被安打ゼロ、奪三振3、無失点。広島に必勝の覚悟を見せつけるとともに、今永を生き返らせる点でも絶妙な起用だった。

ファイナルステージ突破を決めた第5戦では先発の石田健大を、2点を失った一回のみで降板させた。シーズンを通して頑張った投手には長く投げてもらおうと考えるのが普通で、なかなかできないこと。だが、早く見切りを付けて後の投手が傷口をふさいだことで、負けゲームを勝ちゲームに変えることができた。何日もかけて準備してきた投手をわずか1イニングで代えるのは勇気が要るが、あの試合、さらにはステージ全体の流れを広島に渡さないためには必要な決断だった。

ファーストステージでの井納の先発は、レギュラーシーズンと違って予告先発制がなかったことでインパクトを伴った。これに味をしめたラミレス監督は日本シリーズでも一勝負打った。戦前の監督会議で、ソフトバンクの工藤公康監督と達川光男ヘッドコーチが手を替え品を替え予告先発制の採用を持ちかけてきたのに対し、頑として首を縦に振らなかった。ソフトバンクの先発陣が和田毅を除けば右投手ばかりなのに対し、DeNAは右が2人(井納、ウィーランド)に左が3人(今永、浜口、石田)。先発を隠すことで相手をかく乱できる、との思いが働いたのはいうまでもない。

「右か、左か」とソフトバンクが気をもんだ中、第1戦の先発に抜てきされたのは、またも井納だった。日本シリーズの初戦は、制球のいい投手を先発させて相手打者が得意とするコースを探り、集めたデータを第2戦以降に生かすというのがよくある手法。ただ、井納はコントロールがいい方ではなく、この点では適任とはいえない。それでもポストシーズンの実績を買って井納に任せた異能ぶりには恐れ入るばかりだ。

ラミレス監督との付き合いは長い。原点は、彼が来日してヤクルトに入った2001年に遡る。2月のキャンプで打撃を見たとき、その年見た外国人選手の中でピカ一だと思った。「あなたが一番いいよ。活躍できる」と本人にも伝えた。それから球場に行くたびに話をするようになり、遠征先では通訳を交えて食事にいく仲になった。いつしか「ラミちゃん」の愛称で呼ぶようにも。

ラミレス氏は非常にスマートで優秀な監督=共同

現役時代のラミちゃんで「すごい」と思ったのは、走者がいる打席で見逃しストライクがほとんどなかったこと。普通は2ストライクに追い込まれるまでは狙った球しか振りにいかないが、ストライクであればどんな球種でも振っていた。打球を飛ばす方向と待ち構える球種の組み合わせが何種類もあって初めてできる芸当。好球を仕留めるという徹底した姿勢があったからこそ、外国人選手初の通算2000安打を達成できたのだと思う。

08年に巨人に移籍した後だろうか、「将来的には監督になりたい」と話していた。DeNAを経て、独立リーグのチームやオリックスでアドバイザー的な立場を務めたほどだから、思いは一筋だったのだろう。

ひたすら選手の長所を見る

監督になってからのラミちゃんは選手の短所には目をつぶり、ひたすら長所を見るようにしていた。「あの選手はここがいい」「この選手はここ」と褒めて、開幕前には先発投手候補として10人前後もの名前を挙げていた。選手の特徴に加えて、その時々の状態をしっかり見極められるから、ポストシーズンでの柔軟な投手起用も可能だったのだろう。

ラミちゃんといえば、私が05年に楽天の監督を務めるにあたり、獲得寸前までいったことがあった。最終的には縁は結ばれず、ヤクルトに残留。創設されたばかりの楽天は外国人頼みの面が大きかっただけに「ラミちゃんが加入していたら……」と今でも思うことがある。

よく打撃論を交わし、ウマが合うラミちゃんは以前、監督に就いたときのことを夢想し「ヘッドコーチには田尾さんか古田(敦也)さんがいいな」と話したことがあった。その思いをかなえてくれていないことはまあいいとして、彼は非常にスマートで優秀な監督だ。

今季の出場がわずか34試合で本塁打ゼロだった白崎浩之を日本シリーズ第6戦で先発起用した(結果は本塁打を含む2安打)ほか、ストッパー山崎康晃の「回またぎ」での投入、思い切った外野の前進守備と、妙手はほかにもあった。そうして頭脳をフル回転させ、戦力差をものともせずにソフトバンクに立ち向かった姿はまさに勝負師で、その経験は必ずや糧になるはずだ。盟友の来季に注目したい。

(野球評論家)

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