2017年11月20日(月)

遺族の喪失感を疑似体験 震災、わが事と考えて 

社会
2017/11/10 20:00
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 東日本大震災で両親を亡くした遺族の語りを聞きながら、家族や親友など大切なものを記入した紙を破いていく――。そんな作業を通じて、遺族の喪失感を疑似体験するプログラムに、東北学院大(仙台市)の金菱清教授(社会学)が取り組んでいる。11日で震災から6年8カ月。記憶の風化が指摘される中、震災を「わが事」として考えてもらうのが狙いだ。

亡くなった両親の写真を見せながら、震災当時の出来事を話す高橋さん(10月、仙台市)

 10月下旬、大学の教室に学生や社会人ら約40人が集まった。「大切な人」「形のある大切なもの」「大切な活動」「形のない大切なもの」を3つずつ、計12枚の紙に書き込むよう指示された。

 語り部の高橋匡美さん(52)=宮城県塩釜市=がゆっくりと震災当時の出来事を語り始める。何とかたどり着いた同県石巻市の実家で泥まみれの母を見つけたこと、びっしりと遺体が並ぶ安置所で対面した父の顔は赤黒く腫れて乾燥し、頬が硬かったこと……。

 語りの合間に金菱教授が参加者へ告げる。「目の前にある大切な人や物とお別れをしなければなりません」。家族の名前やわが家などと書かれた紙を前に「何を残すのか」と葛藤し、自分なりの判断で順に破っては涙ぐむ参加者の姿も。

 最後の1枚がなくなった後、金菱教授は静かにこう説いた。「失うとはそういうことです。大切な何かと決別をしなければならないのです」

 高橋さんは癒えることのない苦しみや悲しみから死を望んだ経験を打ち明け、生きる意味を語った。「みんな一緒に明日を迎えられる保証はありません。だからこそ今この瞬間を、はいつくばってでも生きていかなければと言い聞かせています」

 プログラムは、震災の伝承が課題となる中で金菱教授が死生学の手法を取り入れて考案した。5月から始め、依頼に応じて高校生や一般向けにも実施。「すぐに母親へ電話した」といった感想も寄せられ、家族のつながりを再認識する機会にもなっているという。

 高橋さんも「普通に語り部の話を聞く時よりも、疑似喪失体験の方が、泣くとか感情を表に出す人が多い。震災を自分のことに置き換えて考えているからだろう」と取り組みに共感。「震災学習だけでなく、命の学習という観点でも貢献できれば」と話している。〔共同〕

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