米有力VC、日本でスタートアップ育成始動
米有力ベンチャーキャピタル(VC)のプラグ・アンド・プレイが、創業間もないスタートアップ起業の育成プログラムを日本で本格的に始動させた。10日、起業の街・渋谷に開業したばかりのインキュベーション施設で、参加企業が事業モデルを披露するピッチイベントを開催。同社以外にもシリコンバレーの有力VCが続々と日本に上陸するなか、海外に目を向ける大型スタートアップの輩出を目指す。
■大型船と小型高速船の競演

「日本には革新的な企業がたくさんある。大型船(大企業)と小型高速船(スタートアップ)を融合させ、より大きなビジネスを生み出していきたい」。起業家育成プログラム「バッチゼロ」の開始イベントに出席するため来日したプラグ・アンド・プレイのサイード・アミディ最高経営責任者(CEO)は、国内外の起業家や投資家、大手企業関係者ら300人の前で抱負を語った。
プラグ・アンド・プレイはイラン系米国人の投資家であるアミディ氏らが2006年に創業した。これまで10年にわたり世界中で投資したスタートアップは700社超。クラウドサービス大手の米ドロップボックスや米決済大手ペイパルといった数々のスタートアップを創業当初から支えてきた実績を持つ。

この日、アミディ氏の「開会宣言」のあと、選定されたスタートアップが事業アイデアを披露。自動運転に欠かせない3次元(3D)地図の作製技術を紹介したのは米シリコンバレー拠点のアーティセンス。現在、日本法人の設立を検討している。日本責任者のティム・ミクシェ氏は「自動運転は多くの企業が続々と参入する注目分野。実現に必要不可欠なダイナミックマッピングを日本でも提供していく」とアピールした。
離れた場所や異なる時間で働くチームのコミュニケーションを円滑化するツール「A;(エー)」を紹介したのは、ラボラティック(東京・渋谷)。チャットサービス「スラック」の対話を分析し、メンバーがどれだけ積極的に参加しているか、ネガティブな感情を持っていないかなど情報をグラフ化する。三浦豊史CEOは「ネットさえあればどこでも仕事ができる時代。チームワークを自動で可視化する」と話した。
プラグ・アンド・プレイの起業家育成プログラムは、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」、金融とIT(情報技術)を融合したフィンテック、保険とITを融合したインシュアテックの3分野で、150社超の応募から国内外の21社を選抜。今後3カ月にわたり集中的に支援し、2月に成果を発表する。シリコンバレーから専門家を派遣し、「世界を視野に成長を後押しする」(アミディ氏)。
■SHIBUYAを世界のハブに

日本の起業家と海外の橋渡しを図ろうと、シリコンバレー発の有力VCが続々と上陸している。10年創業の500スタートアップスは昨年日本に進出し、今年から神戸市と起業家育成プログラムを本格的に実施した。フェノックスベンチャーキャピタルは昨年から起業家世界一を競うコンテスト「スタートアップワールドカップ」の日本予選を始めた。問題意識として共有するのは、投資予備軍の発掘だ。
プラグ・アンド・プレイもそんな有力VCの一つ。アミディ氏は日本経済新聞の取材に対し「日本にはイノベーティブな企業がたくさんある。人材も豊富で実行力を持つ国だ」と強調。ただ「日本のスタートアップには夢を持って世界に目を向けてほしい」と指摘した。選抜された21社のうち日本のスタートアップは7社。「将来的にはフィフティー・フィフティーにしたい」(アミディ氏)。
同社のインキュベーション施設は日本第1号で、同様の拠点は世界13カ国・25カ所で展開している。日本拠点は東急不動産のビルのワンフロアに整備され、プログラムに参加した企業は無料で入居できる。日本企業とは東急不動産のほか、三菱UFJフィナンシャル・グループ、電通、パナソニックなどと提携しており、大企業との交流を促す。
「渋谷を世界のスタートアップのハブ(拠点)にする」(日本法人のフィリップ・誠慈・ヴィンセント社長)。来年初めからは日本で年10社のスタートアップに投資する計画だ。スタートアップの聖地・渋谷で、大企業との新たな化学反応に期待が集まる。
(企業報道部 駿河翼)
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