2017年11月21日(火)

情緒の広重 奇抜な北斎 展覧会で違い堪能(もっと関西)
アート

コラム(地域)
関西
2017/11/10 17:00
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 江戸期の浮世絵師、歌川広重と葛飾北斎の展覧会が関西で開催中だ。親しみやすく情緒に満ちた広重の作品に対し、北斎は奇抜な構図で驚きを与える。風景版画の双璧とされる両者だが、作品の印象も絵師としての姿勢も全く異なっていたことが分かる。

歌川広重「保永堂版東海道五拾三次之内 沼津 黄昏図」

歌川広重「保永堂版東海道五拾三次之内 沼津 黄昏図」


 芦屋市立美術博物館(兵庫県芦屋市)で開かれている「生誕220年 広重展」(26日まで)。広重の代名詞というべき「東海道五十三次」を中心に「江戸名所絵」「木曽街道六十九次」など、全国の名所を描いた風景版画が並ぶ。

 広重の特徴は自然をめでる日本人の感性に寄り添うような親しみやすさ。「保永堂版東海道五拾三次之内 沼津 黄昏図」を見てみよう。夕闇の中、宿へ急ぐ巡礼の親子。その後ろに、日本神話に登場する神、猿田彦の面を背負った金毘羅詣(もうで)の旅人が続く。くの字に曲がる川沿いの並木の間に月が浮かぶ。何とも風情ある光景。どんな気持ちで旅路を行くのか。画中の人物に感情移入したくなる。

 同じく東海道五十三次で東海道の起点を描いた「日本橋 朝之景」は橋のたもとに魚売り、奥に大名行列を配し、活気ある旅の始まりを感じさせる。「蒲原 夜之雪」は雪景色の中、「庄野 白雨」はにわか雨の坂道を行き交う人々。同館の清水和彦学芸員は「画中の人物の息遣いが聞こえてきそう。見る人の心に響きやすい」と話す。

 一方、あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)では「北斎 富士を超えて」展が開かれている(19日まで)。全国の名瀑(めいばく)を題材にした風景版画の連作「諸国滝廻(めぐ)り」を眺めると、広重との違いは一目瞭然だ。

 この連作の「木曾海道小野ノ瀑布」は、勢いよく落下する滝の水のデフォルメされた描写が緊張感と神秘性を生み出している。見上げる人々の存在はいかにも小さい。情緒よりも奇抜さが前面に出る。安心感よりも驚きが先に立つ。

 大胆な構図と単純な配色の「富嶽三十六景 凱風快晴」、躍動感にあふれる「同 神奈川沖浪裏」など、北斎の作品はいずれも人を驚かさずにはいられない。

葛飾北斎「諸国滝廻り 木曾海道小野ノ瀑布」(天保4年=1833年ごろ、大英博物館蔵(C)The Trustees of the British Museum.)

葛飾北斎「諸国滝廻り 木曾海道小野ノ瀑布」(天保4年=1833年ごろ、大英博物館蔵(C)The Trustees of the British Museum.)

 浮世絵において風景画のジャンルが確立したのは北斎が70歳を過ぎて世に出した「富嶽三十六景」において。その2年後、広重は「東海道五十三次」で爆発的な人気を博し、風景版画の第一人者として北斎をしのぐ名声を確立した。浮世絵は庶民が部屋に飾ったり、見たりして楽しむもの。奇抜で大胆な北斎に比べ、画面の隅々まで叙情が満たす広重の方が幅広い人気を得たのは当然だろう。

 広重は37歳年上の北斎を強く意識していたとされるが、北斎が向き合ったのは常に作品だけだった。北斎は「富嶽三十六景」の後、版画から肉筆画へと傾倒。「北斎展」は晩年の肉筆画が数多く並ぶ。同館の浅野秀剛館長は「順に見ていけば北斎の絵師としての生きざまが伝わってくる」と話すように「雪中虎図」「雲龍図」など傑作からは、自らの芸術の領域をひたすら高めようとした気概が伝わってくる。

 広く人々の要望に応えようとした広重と、自己の道を追求し続けた北斎。作品を前に絵師たちがどう生きたかを考えてみるのも浮世絵を見る楽しみの一つだ。

 佐川美術館(滋賀県守山市)で開催中の「百花繚乱(ひゃっかりょうらん) 浮世絵十人絵師展」(26日まで)は広重と北斎に加え、東洲斎写楽や喜多川歌麿、歌川国芳ら江戸期の主な絵師10人の約170点を紹介する。風景画に美人画や役者絵、そして戯画とジャンルも多様だ。浮世絵の歴史を振り返りながら、絵師たちの生きざまに思いを巡らせてみたい。

(大阪・文化担当 田村広済)

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