安易な筋肉増量は危険 自分の体、自分で理解せよ
プロ野球のオフシーズンは、春季キャンプに向けた大事な体づくりの時期。来季の戦力としてアピールするためにも、この間に基礎となる土台を築き、キャンプにスムーズに入っていくことが大切になります。現代野球にはウエートトレーニングに関する知識や理論が浸透していますが、若手選手に訴えたいのは「自分の体を自分自身でよく理解して、何が必要なのかを考えて鍛えてほしい」ということです。

シーズンが終わり、私は大阪・舞洲の2軍施設で指導に当たっていますが、高知市での秋季キャンプでは福良淳一監督から若手に「もっと食べろ」という指令が下ったそうです。豊富な練習量に耐えられる体力をつけるため、野球選手にとっては食べることも重要な仕事の一つ。2軍でも管理栄養士の指導の下、シーズン中から、室内練習場やクラブハウスなどに「おにぎり」を常備して、選手たちが練習の合間に必要なカロリーを補えるような態勢を整えています。
■野球の動きと連動しているか
さらに上のレベルを目指すため「体重を増やしたい」「もっと体を強くしたい」と考える選手は多いと思います。肉体強化に取り組む上で最も大事になってくるのが、野球の動作と連動した鍛え方をしているかということでしょう。よかれと思って厳しいウエートトレーニングに精を出しても、増やした筋肉が野球の動きをする上で邪魔になるのであれば、逆効果と言わざるを得ません。
2017年2月の宮崎キャンプでは、初の1軍メンバーに抜てきされた園部聡選手(22)が、明らかな「体重オーバー」と首脳陣に判断され、わずか1日で2軍に落とされました。園部選手はパワーが自慢の右の大砲候補です。飛距離アップなどを図ろうと自分なりに考え、オフシーズンの筋力トレーニングに励んだこととは思いますが、体が重くなり、動きに切れを失ってしまいました。目指す方向性を間違えてしまったがために、こうした結果を引き起こしてしまったのでしょう。
投球動作にさまざまな筋肉のしなりや柔らかさが求められる投手は、努力の方向性を間違えることでより深刻なスランプに陥るケースがあります。
■飛躍のための鍛錬のはずが
今季が高卒2年目だった佐藤世那投手(20)も、16年のオフにウエートトレーニングに重点的に取り組んだ一人でした。土台をつくり上げ、大きく飛躍するための鍛錬だったはずですが、皮肉なことに選手としての停滞期を招く要因となった側面もあります。
仙台育英高で15年夏の甲子園準優勝投手となった佐藤投手は、テークバックに特徴のある独特の投球フォームをしています。体の柔らかさを生かしたフォームとも呼べたのですが、筋力をつけて体が硬くなった結果、全体的な体の柔軟性が失われ、球速は上がらず、制球力も悪化してしまったのです。筋力トレーニングのし過ぎで肉体の構造が変わると、体の使い方も全く変わってきます。その影響で、今までできていた動作ができなくなり、投げられていたボールが思うように投げられなくなるという悪循環でした。彼は現在、徐々に状態を取り戻しつつありますが、投手にとって体の使い方が変化することがいかに怖いことなのか、身をもって味わったことと思います。

私は現役時代、重たいウエート器具を使った筋力トレーニングを好みませんでした。シーズン中に行うのも、軽い負荷で回数を重ねる筋トレがほとんど。むしろ、山林を駆け回る「トレイルランニング」をしたりすることのほうが好きで、高校生の頃からずっとやってきました。根底にあったのは、筋肉の柔軟性を保ちながら鍛えていかないと野球のプレーに生かせないとの考え方です。
■柔軟性、瞬発力を鍛えた現役時代
米大リーグでプレーした時も、体を大きくしようという考えは持っていませんでした。身長の足りない私が、大柄な外国人選手と張り合って体を大きくしようとしても、負けることは分かっています。同じ土俵で勝負して無理に増量を図れば、自分の持ち味であるスピードが奪われると考えたのです。それならば、むしろ小さいままでいいという思考でした。そもそもホームランバッターではない私には、必要以上のパワーは要らない。打席で最も重要になるのはバランスとタイミングで、それらにつながる柔軟性や瞬発力、反応速度などを重点的に鍛えたほうがよいと思ったのです。
このオフ、チームとして取り組んでいる「サイズアップ」ですが、ただ単に体を大きく、体重を増やせばよいというわけではありません。鍵を握るのは、今の自分にはどこに、どういう要素が必要なのかを考えてトレーニングできるかということ。方向性を間違えてせっかくの努力を水の泡にしないためにも、選手たちには「自分の体を知る」をキーワードにこのオフを過ごしてほしいと思っています。
(オリックス・バファローズ2軍監督)