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レース間をどうつなぐか 華やかな練習に固執せず

ランニングインストラクター 斉藤太郎

台風が接近していた10月29日、雨の中で水戸黄門漫遊マラソンを走りました。この時期にフルマラソンを走り、その4~5週間後に次のフルマラソンに出場という方はたくさんいらっしゃると思います。私自身は今回の水戸が、大会のにぎやかさを借りてレース想定ペースで長く距離を踏む練習という位置づけ。そして12月3日の福岡国際マラソンにつなげるプランです。今回はレースとレースの間の過ごし方についてアドバイスさせていただきます。

水戸黄門漫遊マラソンのスタート地点。レース当日はあいにくの雨だった

何をすべきか

・疲れ、ダメージをとる
・コンディションを整える
・ペース感覚を取り戻す
・ゆとりがあれば、さらなる走力向上

取り組むべき要素は大きくこのように絞られてくるのではないでしょうか。

レースで体を酷使した後は練習を休むことになります。42キロを走るという運動は非日常的な運動強度ですので、元に戻すには2、3日といった短期間ではなく、それなりの日数がかかります。

練習を休むと疲れから回復して体はフレッシュさを取り戻します。一方で走力と総合的な体力は低下してしまいます。ここが長距離ランナーのジレンマです。

仮に次のレースまでの1カ月を休んでしまったら、42キロを走り抜くスタミナは欠如することでしょう。練習計画を立てる上では次のレースまでの日数を考慮した上で、どのあたりまでを休養期間とし、どのあたりから本格的な練習を再開していくのかというバランスを考えなくてはなりません。走り幅跳びのジャンパーが踏切板に合わせて助走するように、私たち長距離ランナーもレース当日という踏切板でぴたっと跳べるような配分を見定めなくてはなりません。

そのためにはキャリア、走力、前大会での疲弊度、年齢と、さまざまな要素を踏まえることになります。

練習を休む・休養期間のメニュー

ランナーにとっての理想的な休み方は、何もせずに横たわっていることではありません。レース後2~3日はそれでも構いませんが、それ以降は極力脚を使いながらの休養期間のトレーニングと位置づけます。

レース後の体は筋肉の繊維が摩耗していて、血液循環を滞らせるように老廃物がつかえている状態にあると思ってください。節々の違和感や痛みがあり、筋肉がこわばっている感覚を伴います。この状況から脱却するには、無理のない範囲で筋肉を伸縮させること、血液循環を促進させることが大切です。

いつもより幾分小さな動きで構いません。散歩をしたり、歩幅を狭めてゆっくりとしたペースでランニングをしたりしてみましょう。はじめは固くて重かった脚が時間の経過とともに少しずつ緩み出し、ほぐれてくるはずです。路面はできれば土や芝生が理想的です。足の指先まで柔らかく使って走りましょう。

練習メニュー

<レース後3日>

散歩、ストレッチ、軽めのジョギング、水泳、温泉などで血液循環を促進させるような過ごし方をします。

<レース4~7日後>

低負荷長時間持続運動練習を取り入れましょう。ビギナーの方でしたら30~45分を目標に歩いたり走ったりします。フルマラソン4~5時間台の方でしたら60~90分のゆっくりラン。4時間を切るランナーでしたら120分を目標にゆっくり、長く走ってみてください。

まとめて長く走ることが苦痛なら「朝30分」と「夕方30分」というように1日2回に分けて取り組んでもよいでしょう。長時間の持続は無理でも、血液循環の頻度が増えるので疲労回復には効果的かと思います。

休養に充てる期間と練習再開の日程とをバランスよく考える必要がある

こういった手法は「積極的休養」と呼ばれます。外側からのマッサージなどとは分けて考えられ、自分自身で主体的に生み出す運動、筋肉の伸縮によって疲労が抜けやすくなるのです。また、練習を休むことで低下しかけている走力を最低限維持できるとも考えてください。

<レース1~2週間後・次レース2週間前>

完全に疲労が抜けてくるまでにはだいぶ時間がかかります。レースまでの残り日数や走力低下に配慮して、体が重たく疲労感が残ってはいても、頃合いを見て練習のスピードを上げていく必要があります。快調なペースで走る練習を入れるタイミングです。

「400メートル×10本インターバル」や「30分ジョギング+1キロ×5本(徐々にペースアップ)」などがおすすめです。タイムはあまり気にしないこと。ゆっくりジョギング中心だった時期を卒業し、スピードを速い方へ数段階切り替える考えでやってみてください。

<次レースの1週間前>

レース想定ペースを基準に5キロを2本もしくは10キロなどがよいでしょう。体調を確認し、レース想定ペースの感覚を取り戻します。

ゆっくりランばかりが続くと…

動きをコンパクトに小さな筋肉の伸縮をイメージしたゆっくりランニングは筋肉をほぐすのに効果的です。一方で、こういった練習ばかりが続くと、ペースが落ち着いて時に腰の位置が落ちたフォームに陥るなどし、レースの想定スピードに戻しにくくなることがあります。

痛みの心配がないようでしたら、ジョギングの途中や締めくくりに100~200メートルを疾走する「流し」と呼ばれる快調ランを3~5本取り入れてみてください。大きくて速い動きの感覚が戻ってきます。心拍数が上昇し、呼吸が心地よく乱れる感じで体に刺激が入ります。スカッとします。上級者でしたら上り坂を利用して同じように取り入れてもよいでしょう。その際、下り坂はウオークまたはゆっくりジョギングでつないでください。

レースで快走した後

体が興奮し、疲れや関節の違和感を自覚しにくくなっている可能性があります。「うまくいきすぎているかな?」と冷静になり、はやる気持ちを抑えてみてください。

快走の背景には、直前数週間のスピードを上げて走る実戦練習、いわば華やかな練習がうまく積めたという要因がもちろんあります。ですが、その部分だけにとらわれないことが大事です。直前の走り込み練習をけがなく積めた背景には、それより前の時期に基礎力を高める地味な練習をこなしてきたことがあるはずです。

例えば、夏場に2~3時間の長時間ランやウオーキングなどを積んでいなかったでしょうか。その辺の「勝因」を振り返ってみてください。さらなる向上に向けた再スタートには、そうした地味な練習を盛り込むことを忘れないでください。華やかな練習をずっと続けることは困難であり、いつしか体は疲弊し、ひどい時には故障に陥るので注意してください。

フルマラソンシーズンは始まったばかりです。ここから4月あたりにかけて数本のレースを予定している方、これらのポイントを参考に、1本のレースに向けて丁寧に仕上げていってください。

<クールダウン>実施する責任と中止する勇気
 冒頭でも触れましたが、10月29日に水戸黄門漫遊マラソンを走りました。台風が接近していた中でも走ることができ、帰路でも台風の危険から逃れられたのは幸いでした。大会の運営は実行委員会スタッフやボランティアの皆さん、警察などの協力があって成り立ちます。悪天候にもかかわらず、交通誘導などさまざまな任務が安全への配慮の下に行われたことに感謝したいです。
 天候次第ではレースの実施に制限が設けられることがあります。例えば、ちばアクアラインマラソン。アクアラインは東京湾の上を進む高速道路で、レースでは千葉・木更津の陸地と海ほたるパーキングエリアの間を往復で計約10キロ走りますが、風速が12メートルを超えると通行できないルールになっています。過去3回の大会は全て予定通りのコースを走ることができましたが、通行できない場合は4分の3の距離の短縮レースになる見込みです。
 多くの地域が荒天になった10月29日は、短縮レースどころかレースそのものを中止にしたケースがありました。多くのランナーが何カ月もかけてピークを合わせてきたことを思えば天候が崩れても強行したい一方、ランナーや観客の安全などを考えれば取りやめざるを得ない場合もあります。大会運営という広い視野からどういう判断を下すべきか。レースを実施することの責任と、中止することの勇気を感じずにはいられませんでした。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「マラソンと栄養の科学」(新星出版社)など。

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