異色の攻撃型セッター バレー・冨永こよみ(上)
巧みに攻撃陣を操り、時にはアタッカーの経験を生かして自らスパイクをたたき込む。冨永こよみ(上尾メディックス、28)は日本では異色の攻撃型のセッターだ。2020年東京五輪でメダル奪回を目指すバレーボール女子日本代表の司令塔候補は「今までで一番バレーボールに集中している」と力を込める。

9月8日に行われたワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)のブラジル戦。冨永はバックアタックを積極的に取り入れるなど巧みなトスワークを示し、前回大会優勝で今季のワールドグランプリ(WG)も制した相手を揺さぶった。フルセットの末、最後は15-6で強豪を撃破。ブラジルには7月に仙台で行われたWG予選に続く連勝で、同国相手の連勝は30年ぶりの快挙だった。
悔しい思いを糧にした。ブラジル戦に先立ち、世界5位のロシアに第4セットを26-28で落として競り負けた。中田監督は「最後に取りきれなかった原因はセッター」と分析、「スパイカーを生かし切るトスを上げないといけない」と課題をあげていた。
この大会は長岡望悠(久光製薬)、古賀紗理那(NEC)という攻撃の核となる選手を負傷で欠く苦しい陣容だった。アタッカー陣の打ちたい球だけを供給していては、身体能力に勝るライバルたちに対抗できない。セッターは人を使い、動かすことで、自らが生かされる。「自分が人を動かす」という意識の切り替えが功を奏した形だ。
残念ながら全日本は米国、中国に連敗を喫し、2勝3敗の5位という結果に終わった。それでも世界2位の米国ともフルセットの接戦に持ち込むなど、強豪と互角の戦いを演じたのは収穫だった。中国戦を除く4試合に先発した冨永もベストセッターに輝いた。
■五輪の司令塔候補に名のり
実は冨永が全日本入りし、試合に出場したのは09年以来のことだった。8年前といえばアタッカーから転向して間もない頃。「セッターのことが右も左も分からなかった」。アタッカー経験と176センチと日本のセッターとしては大型だったことを買われたが、セッターとしての能力は未知数だった。
今回の選出は「予想外」だったとはいえ、「Vリーグなどでの働きを評価してもらえた」という自信もあった。その自信は、WGやグラチャンで強豪と互角の戦いを演じ、アジア選手権では5大会ぶりの優勝を果たすなど結果を残したことで、世界で戦えるという手応えに変わりつつある。
「(東京)五輪に向け最初の年。足りないことばかりだったけれど、これは世界でも通用するというものもあった」。そう語る冨永の表情には充実感が漂う。
ただ、今大会で正セッターを競った佐藤美弥(日立)、膝の負傷の影響で選外となったリオデジャネイロ五輪代表の宮下遥(岡山シーガルズ)ら、東京五輪の正セッター候補には実力者がそろう。東京での全日本のセッターを巡る競争は始まったばかりだ。
〔日本経済新聞夕刊11月6日掲載〕