日米経済界、多国間協定の重要性共有も…「米国第一」なお懸念
【ワシントン=中村亮】経団連の榊原定征会長は2日、訪米日程を終えた。日米の経済界では多国間の通商協定の重要性を共有するが、米政府・与党内では2国間協定を重視するトランプ大統領の意向が色濃い。トランプ氏は6日の日米首脳会談で対日貿易赤字の削減を求める方針。米国第一主義にはなお懸念が残った。
「日本が環太平洋経済連携協定(TPP)の推進で主導的役割を果たすことを望む」。全米商工会議所のドナヒュー会長は2日、ワシントン市内で開いた日米財界人会議で米国を除く11カ国でのTPPの推進を求めた。東京海上日動火災保険の石原邦夫相談役も「貿易の自由化や拡大によって、人々はより安く高品質なモノを手に入れられる」と自由貿易の必要性を強調した。
会議では北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉に関しても米国が提案する5年後の協定を見直す「サンセット条項」に否定的な意見が相次いだ。関税をゼロにするための部材調達比率を定めた「原産地規則」の厳格化にも懸念が強い。
企業は海外生産を拡大し国際分業を進めており、多国間協定で関税や通商ルールを統一した方が利点は大きい。アジア諸国で製品をつくり米国に輸出するような貿易が増えている。経団連は07年に日米経済連携協定(EPA)の早期締結を求める提言をまとめたが「企業の生産体制が変わり日米の2国間協定のメリットは薄れた」(幹部)。
一方、米政府・与党ではTPPを公に支持する声は少ない。米日議員連盟のライカート共同議長は榊原氏らとの会談で「日米FTAに可能性がある」と言及した。ライカート氏はオバマ政権時代にTPPの超党派議連の発起人を務めたほどの推進派だっただけに、日本側の参加者は「FTAへの言及は驚きだった」という。
榊原氏も共和党の上院議員らとの会談ではTPPをあえて持ち出さなかった。トランプ米政権下ではTPPへの復帰のハードルが極めて高いとみるからだ。
「訪日と通商政策に関してトランプ大統領からホワイトハウスに来るよう指示があった」。米商務省幹部はロス商務長官が榊原氏らとの会談を直前でキャンセルした理由をこう説明した。ロス氏は対日貿易赤字を批判し、将来の日米FTAの必要性にたびたび触れてきた。訪日直前のロス氏の助言は日本にとって好ましくない内容なのかもしれない。