2017年11月19日(日)

AIによる飛行革命 世界で40のプロジェクト

コラム(ビジネス)
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AI
2017/11/4 6:30
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 人工知能(AI)のフィールドは空にこそある。世界の有力企業やベンチャーが空飛ぶタクシーなどの開発を始めた。大都市の交通渋滞を和らげ、航空機のパイロット不足を解消する。見上げればアルゴリズムの飛び交う時代が到来しようとしている。

 欧州エアバスは11月、米国オレゴン州にあるイースタン・オレゴン地域空港で、空飛ぶタクシー「バハナ」の実験を始める。1人乗りのプロペラ機で、乗ることを想定しているのはパイロットではなく乗客だ。

 バハナはAIによって自律飛行する。電動で、プロペラは8つ。プロジェクトを担当するマティアス・トムソンゼネラル・マネージャーは電話取材に「技術的には5~7年間で実現できるだろう」と話した。

■メガシティの渋滞解消

 エアバスの狙いは新しい都市交通網の構築だ。とくに人口1000万人を超えるメガシティの交通渋滞を解決したいという。ブラジルのサンパウロなどですでに問題になっているとして、空飛ぶタクシーが実現できれば、新しい交通手段としてグローバルにニーズが高まると信じている。

 トムソン氏は「市の端から端までとか、空港から中心部までというような中距離のタクシーになる」と語った。

 オレゴンでの実験は6カ月間。トムソン氏はセンサーメーカーと協力していると説明した。バハナの試作機にカメラやレーザーセンサーを取り付けてAIのアルゴリズムでデータを分析する。

 バハナのような乗り物の実現には様々な課題があり、特に安全性の確保は今まで以上に重要なものになる。空飛ぶタクシーの乗客が操縦かんを握らなくても済むためには、機械学習などAIが、目の前で起こる事象に対応できるように大量のデータを学んでいくことが欠かせない。

 AIの詳細に言及しなかったが、膨大な学習が必要なのは地上の自動運転と同じ。ただ、空の分野に特有の高度、気圧、地形、風速・風向をとらえ、鳥を認識するデータなどを学ぶことも必要になる。

「フライング・チェア」の制御ノウハウを生かす(愛知県豊田市のガレージ)

「フライング・チェア」の制御ノウハウを生かす(愛知県豊田市のガレージ)

 「将来の航空管制にもAIが必要だ」とトムソン氏は語った。例えば、どの機体がどこをどんなスピードで飛んでいるか、といったデータを統合する役割を担う。空の交通網を守るAIネットワークも築かれなければならない。

■世界に40のプロジェクト

 エアバスによると、世界にはバハナのような「空飛ぶタクシー」「空飛ぶ車」「個人ドローン」といった研究開発プロジェクトがおよそ40ある。米ジョビー・アビエーション、ドイツのe―volo、中国のイーハンなどベンチャーが目立っている。

 ライドシェア(相乗り)大手の米ウーバーテクノロジーズも今年4月に、ブラジル旅客機メーカーのエンブラエルなどと組んで開発することを発表している。3年以内の試験飛行というスケジュールだ。

 エアバスのプロジェクトも、バハナで終わりではない。今月3日、4人乗りの空飛ぶタクシー「シティエアバス」の最初の試験飛行を18年末に行うと発表した。

 各地で進むプロジェクトの技術レベルは様々で、決まったルートでしか飛べない場合もあれば、バハナのように障害物の回避を目指している場合もある。

 ただ、多くは人を介さずに運航できる機能を目指してAIが搭載される見込みだ。滑走路が要らない垂直離着陸の機能「VTOL(バーティカル・テイク・オフ・ランディング)」の技術を競う側面もある。

■草の根からも革命を

カーティベーターは草の根集団だが、自動車や航空機の技術者ら80人が集まっている

カーティベーターは草の根集団だが、自動車や航空機の技術者ら80人が集まっている

 日本の有志団体、カーティベーターの中村翼代表はエアバスの動きに注目している。空飛ぶ車「スカイドライブ」の開発を目指しているからだ。

 垂直に離着陸し、毎時100キロメートルで10キロメートル飛べる1人乗りタイプを目標にしている。タイヤは前輪が2つ、後輪が1つ。電動などの点はエアバスと似ている。長く稼働させるため軽量化が必要で、炭素繊維強化プラスチックや樹脂をつかう。軽自動車より小さな設計で、世界最小の垂直離着陸機を目指している。

 2017年9月に愛知県豊田市で開いたガレージが研究開発拠点だ。当面目指すのは20年の東京五輪・パラリンピックの演出に組み込んでもらうことで、18年には成果を出そうとしている。

 カーティベーターとして実際にできたことは、1人乗りの機体「フライング・チェア」をある程度浮かせるところまで。スカイドライブとは別の開発プロジェクトではあるが、制御などのノウハウが生きる機体だ。

「フライング・チェア」の制御ノウハウを生かす(愛知県豊田市のガレージ)

「フライング・チェア」の制御ノウハウを生かす(愛知県豊田市のガレージ)

 スカイドライブの実験のため突き詰めるべきなのはまず安定して浮かせ、進める技術。まだAIは要らない。だが、中村氏は「すぐにでもAIに詳しい技術者に参加してほしい」と話す。猛スピードで進み始めた新しい交通手段を巡る開発競争に乗り遅れるわけにいかないからだ。操縦かんをつけるとしても「いずれAIがフル稼働する」

 中村氏は、米国を中心に競合プロジェクトが最近増えている理由について「センサーが安くなったり制御技術が上がったりしている。陸の自動運転の技術を応用できることもある」とみる。

 電動の距離を伸ばすほかに騒音を抑えるといった技術的課題がありそうだ。安全規制の議論も欠かせないが、参入が増える公算が大きい。

■ガレージからの出発

 飛行革命の担い手の一角に加わろうとするカーティベーター。中村氏はトヨタ自動車の技術者だ。仕事とは別に何かをやりたいエネルギーを持った人間が集まり、団体を発足させた。

 最初から空飛ぶ車をやると決めていたわけではなく、皆でテーマを話し合った。13年春ごろ、鳥人間コンテストへの出場経験があるメンバーが「空飛ぶ車はどうだろう」と言った。「じゃあ、空飛ぶバイクはどうだ」。他のメンバーが言う。

 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見た体験を共有していたうえ、団体を発足させた頃すでにドローンが話題になっていた。車を飛ばすという発想に、他のメンバーがあり得ないと考えたわけではなかった。

 15年、1人乗りの実物大の設計に着手。まずは垂直に安定して浮上できる機体を目指していった。現在、コンピューターのモデルで開発を進め、性能をシミュレーションしている。

 そうした技術チームのメンバーは約50人。さらに事業企画チームの約30人と力を合わせ、本業を持ちながら、平日の夜や休日に手弁当でプロジェクトを進めている。

 だが、有志で進めることは簡単ではない。例えば、航空当局に飛行を認めてもらう調整は航空分野に詳しいメンバーが当たっているが、平日にしかできない。

 「問題はメンバーがいかに時間を割けるか」と中村氏。所属企業に対し、給料はそのままで、出向扱いで空飛ぶ車の開発に取り組めないかと交渉している。

 資金は十分とは言えないなかでも有志がこれだけ集まった。当面100人程度で活動していく。米アップルや米グーグルも最初は小さなガレージから始まり、世界を変えた。トヨタグループはカーティベーターへの資金提供を決めており、他企業もこれに続きそうだ。

 大企業であれベンチャーであれ、空の世界でAIを使いこなすまでには時間を要する。だがテクノロジーを知り、野心を持つ技術者たちは新しい産業の姿を思い描き、一歩を踏み出している。

■ハドソン川の奇跡

AIがハドソン川の奇跡を起こす日が来るかもしれない=ロイター

AIがハドソン川の奇跡を起こす日が来るかもしれない=ロイター

 2009年1月15日、米ニューヨーク市で起きたUSエアウェイズ1549便の不時着水事故では、乗客乗員の全155人が無事に帰還し、ハドソン川の奇跡と言われた。両エンジンが鳥を吸い込んで停止するというまれな事態に見舞われたが、40年を超す経験を持っていたチェスリー・サレンバーガー機長の冷静な判断がこれを救った。

 人工知能(AI)によってハドソン川の奇跡のような操縦が可能になる日が、やがて来るかもしれない――。

 航空機メーカー世界大手の米ボーイングで民間航空機部門を担当するマイク・シネット副社長は17年6月、パリで開かれた国際航空ショーで、自律飛行の技術開発を進めていると説明した。

 「現在の航空機と同じような安全性、統合性のレベルを保っていくために研究する」とシネット氏は語っている。まず年内にゲートと滑走路を行き来する地上走行の自動化シミュレーションを開始。18年からは貨物用の777型機の実機で試験する。

 同社は、今以上に自動操縦できることを増やすために機械学習の活用方法を探ると説明している。パイロットが担っている離陸や、予定外の出来事への対処といったことを可能にすることが挑戦の内容になるという。

 ボーイングは防衛や宇宙の分野で自動化技術を培ってきた。民間航空機でも推力管理などフライトに使われているが、自動化の範囲を広げる。

 ボーイングは今月19日に米カーネギーメロン大学発で自律飛行システム開発のベンチャー、米ニアアースオートノミーへの投資を発表した。発表の際、投資したボーイングホライゾンXのスティーブ・ノードランド副社長は「自律飛行の成長市場の鍵になる技術の開発を加速させる」とコメントしており、都市交通分野などで協力していく。

 欧州エアバスやカーティベーターとはAIを活用する理由が違い、ボーイングは世界のパイロット不足への解決策の一つと考えている。グローバルの人口増加と移動の拡大に伴い、30年に必要なパイロット数は10年の2倍にあたる約100万人との数字がある。

 AIはビジネスを自動化する力が強いため、人間の仕事を奪うと警戒する議論がある。シネット氏は「コックピットからパイロットを排除しようとしているわけではない」と語っている。

 ボーイングは自律飛行実現の道は長いと考えている。ただパイロット不足は世界共通の問題。いわばAI操縦士の研究開発は加速する見通しだ。

■グーグル本社を警備

 中東のヨルダン政府は3月、死海沿岸で開いたアラブ連盟の首脳会議で、テロを警戒してドローンを使った。

 カメラに映る映像を人間が遠くで観察するあいだ、障害物にぶつからないよう自ら避けて飛び続ける。着陸するときは、ぐるりと周囲を見渡して離陸地点を見つけ、戻っていく。

 このドローンの機体は一般品だが、頭脳に特徴がある。米ベンチャー、ケープ・プロダクションズ(カリフォルニア州)の機械学習が使われている。ドローンを1万回飛ばし、気候条件や障害物の画像のデータを覚えた。クラウドに大量にため込んでおり、自律飛行に生かしている。

 ルイス・グレシャム最高経営責任者(CEO)はヨルダンのケースを引き合いに、自動警備のドローン需要が世界で盛り上がると話す。「米グーグルからは、米国本社とデータセンターの警備を受注する見込みだ」

 カリフォルニア州のグーグル本社は敷地面積が4万7千平方メートルで、2万人近くが働いており、自動車で回りながら警備している。データセンターも巨大な規模で、警戒コストは膨大だ。

 グレシャムCEOは「ヘリコプターの市場を取っていきたい」と強気で、5年以内に売上高百億円の事業にしようともくろんでいる。ドローン本体を含めたシステム利用料が1回5千ドル程度のヘリコプターより安く、勝負できるという。

 同社が警察署の警備を請け負う大型プロジェクトがあり、カリフォルニア州ではサンディエゴ警察向けの実証実験を準備している。グーグルのAI特化ファンドなどから計1600万ドル(19億円)の出資を受けた。ドローンの遠隔操作システムは他にも開発されているが、AIで自律飛行できる仕組みは珍しい。

 ケープには三井物産も17年6月、200万ドルを出資した。世界中に持つ石油やガスなど資源の監視に使える。

 石油精製施設や発電所を点検するには1~2日間、稼働を止めなければならない。点検に伴う危険から作業員を守るためだ。だが、施設を止めるとコストがかかる。ドローンなら稼働を止める必要がなく、大規模な施設の場合、百万ドル単位の収益改善効果が生まれる。

 機械・輸送システム第一・第二本部の梅木恵介室長補佐は日本の自治体にも需要はあるはずだと語る。「地震など災害時の救助活動に役立つ」。ケープの技術があれば現場でドローンを飛ばすオペレーターが不要で、遠隔からリアルタイムで状況を確認できる。

 ドローンは、建物などに衝突する恐れがあるため他の種類の機体が容易に入り込めない高さ200メートル以下を飛ぶ。人類がこれまで活用し切れていなかった空間を新しいビジネスの場として切り開くのはAIだ。

 ドローンの20年の世界市場規模は、軍事用も含めて15年の2倍近い2兆3000億円になるとの試算がある。需要が増えるにつれてオペレーター不足が課題となりそうで、その分、AIの舞台は広がる。

(企業報道部 湯沢維久、渡辺伸、緒方竹虎)

[日経産業新聞2017年10月30日付]

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