2019年9月20日(金)

昆布そぐ、包丁研ぐ 郷田商店の手すき技法(もっと関西)
ここに技あり

2017/10/30 17:00
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サーッ、サーッ、サーッ。ベテランの職人が小気味よい調子で分厚い昆布の表面を特殊な包丁で薄くそぎ取る。踊るようにして1枚、また1枚と寿司やうどんに使う「おぼろ昆布」ができあがる。

刃先の曲がった特殊な包丁で昆布を薄く均一に削る

堺市の昆布加工品製造卸、郷田商店。昔ながらの手すきの伝統技法が脈々と受け継がれる。地元育ちの長谷川優さん(37)は生鮮市場勤務を経て十数年前に入社した。「思いも寄らない仕事だったが、挑戦してみたらやりがいがあった」と振り返る。

初めは何遍やっても均等な厚さに削れなかった。失敗を繰り返すうちに力の入れ具合だけでなく、包丁の研ぎ方がコツだと気付いた。昆布包丁の刃は粘りがあり、砥石で研ぎながら少し曲げることができる。この刃先を「あきた」と呼ぶ。一説には秋田出身者が考案したためという。

6~7枚の昆布を加工すると切れ味が落ちる。昆布の品質や季節による湿度の差なども勘案しながら、頻繁に研ぎ直す必要がある。昆布の状態に合わせた研ぎ方や削り方を会得するには「最低でも3年かかる」。

江戸時代、旧堺港には日本海経由の北前船で北海道産の昆布が運ばれてきた。河内木綿など近畿の特産品を北海道に送った帰りの便に積み込まれた。堺は昆布の加工に不可欠な刃物の産地。大阪という大消費地を控えていたこともあって、最盛期の昭和初期には150以上の家内制工場が集積した。

入荷した昆布は浴槽のような桶(おけ)で穀物酢に10分ほど漬け、1日ほど寝かせてから加工する。桶の酢は毎日継ぎ足して使う。昆布の味が染みてまろやかな味になる。店の大切な財産だ。

近年は職人の高齢化が進み急速に減少しているのが悩みだ。堺でおぼろ昆布を手加工する職人は10人ほど。加工業者も3軒しか残っていない。

技術の伝承に危機感を抱いた郷田商店は2年前、おぼろ昆布を作る職人の無料養成所を開設した。これまでに5人が修業を終え、昆布職人などとして巣立った。郷田光伸社長は「若い後継者を育てなければ、長年培ってきた伝統技法が途絶えかねない」と力を込める。

今春入社した中村翔太さん(28)はものづくりに興味があって養成所の2期生に応募した。「まだ一人前には程遠いが、先輩が丁寧に教えてくれるので自信がついた」と目を輝かす。

原料の北海道産昆布の値上がりも大きな課題だ。温暖化に伴う海水温の上昇や漁師の減少で水揚げは落ちる一方。「産地価格は毎年1割のペースで上昇しているが、小売価格への転嫁は難しい」。郷田社長は少し表情を曇らせた。

文 堺支局長 小島基秀

写真  為広剛

〈カメラマンひとこと〉職人が包丁を動かすたびに、透けるようなおぼろ昆布が宙を舞う。よく見えるように腹ばいになって近づくと、酸っぱい匂いが鼻を刺す。目の前で繰り出される包丁さばきに圧倒されながら、円を描いてふわりと飛び出す瞬間を狙ってシャッターを切った。
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