2018年10月17日(水)

EV向け本命「全固体電池」5年で実用化へ
開発第一人者、大阪府立大・辰巳砂教授に聞く

科学&新技術
2017/10/30 6:30
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環境問題を背景に欧米を中心にガソリン車から電気自動車(EV)への移行が加速している。一方で走行距離や安全性では汎用性は遠いという現実もある。爆発的な普及には蓄電池の性能向上が鍵になる。現在のリチウムイオン電池よりも大容量で長寿命な次世代蓄電池である「全固体電池」開発の第一人者、大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授に電池やEVの展望を聞いた。

大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授

大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授

――全固体電池とはどういう電池でしょうか。

「現在普及しているリチウムイオン電池は電解質が液体であるのに対して、全固体電池は電解質を固体化したものだ。液体の電解質と違い、必要なイオンだけが正極と負極の間を移動するので、電極と液体が反応して劣化したり、液漏れなどの危険性が少ない」

――容量なども大幅に改善されるのでしょうか。

「エネルギーをためるエネルギー密度は、液体電解質のリチウムイオン電池よりも高くできる可能性がある。充電時間も分単位で、容量も大きくできるなど高速充電の可能性も高まるのが従来のリチウムイオン電池と違うところだ」

――用途としてはEV向けが有力なのでしょうか。

「EVに搭載されるリチウムイオン電池には寿命や充電時間での限界がある。これを改善しないとEVが圧倒的に普及するのは難しいだろう。スマートフォンと違って10年単位という長期間使うのが車だ。現在のリチウムイオン電池に変わるポテンシャルの高い蓄電池として自動車メーカーも開発に取り組んでいる」

「全固体電池の大きなメリットは安全性だ。液体電解質のリチウムイオン電池を積んだEVの中には安全性の問題が本質的にある。自動車には容量や充電時間もさることながら、安全性が第一に来る。燃えにくい、漏れない、副反応がおきにくいという観点から全固体はEVに最適といえる」

――固体電解質に硫化物を使う理由は。

「電解液並みのイオン伝導率と固体界面の接触性を高めるには、酸化物よりも硫化物の方が適していたからだ。液相から硫化物電解質を作ればコストも下がり量産化にも貢献できる」

――解決しなければいけない課題はなんでしょう。

「一つは製造法の確立が必要だ。硫化物の固体電解質は大気に対して不安定だ。水蒸気を含んだ空気に触れると硫化水素も発生するので、乾燥した状態で扱う必要がある。充放電時の電極の膨張・収縮に対する電解質の接触性の保持も簡単ではない。今解決を急いでいる」

――酸化物の固体電解質の実現は難しいですか。

「電極の中の界面で硫化物と同等程度のイオン伝導性を発揮できる物質が見つかっていない。酸化物電解質での全固体電池が車載用としてすぐに実現する可能性は低いが、酸化物の研究も加速しないといけない」

――世界の潮流と実用化へのめどをどう見ますか。

「全固体電池は日本が圧倒的にリードしているが、欧米でも開発はここ1、2年で急速に進んでいる。米国では現政権になって環境やエネルギー分野での予算投資がやや減る傾向にある。技術的にはドイツが脅威だ。中国は技術的には高いレベルではないが、国の政策によっては怖い存在だ」

「日本の車メーカーのレベルは高いので、車向けは5年で実用化できると考えている。とはいえ、その時点でのEV用電池のメインは液体電解質のリチウムイオン電池であろう。しかし一旦実用化されれば、全固体電池はポテンシャルが高いので、いずれ液体型電池を上回る可能性は高い」

 欧米を中心に電気自動車(EV)がブームになっている。各国政府はEV普及の誘導施策を打ち出したり、メーカーもガソリン車並みの性能のような宣伝活動をしたりと枚挙にいとまがない。
 しかし、このEVブームに乗せられるのは危険だ。EVの核の部分である蓄電池に、容量や充電時間、安全性といった本質的な問題が存在する。辰巳砂教授が「EVはまだセカンドカーにしかなりえない」と指摘するのはそういう理由からだ。
 全固体電池は本質的な問題を解決する一つの手段と言えそうだが、EVがガソリン車やハイブリッド車並みに使い勝手がいい乗り物になるにはまだまだ時間がかかるだろう。
(大阪経済部 川口健史)

[日経産業新聞 2017年10月30日付]

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