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サッカーの秋に思う 経験や立場が人をはぐくむ

10月はいろいろなカテゴリーのサッカーの試合が目白押しだった。インドで開かれた17歳以下のワールドカップ(U-17W杯)で未来の日本を背負う少年たちは決勝トーナメント1回戦で涙をのんだ。フル代表はニュージーランド、ハイチと不安が残る試合をしたけれど、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に目を転じるとJリーグの浦和が10年ぶりの決勝進出を果たしてくれた。

世界、アンダーエージ育成に注力

U-17W杯を通じて、世界はアンダーエージの育成の力を入れていることをあらためて痛感した。特に目を見張るのがイングランドの躍進だ。今年5月に韓国で行われたU-20W杯でイングランドは初優勝したけれど、U-17の方も決勝に進出した。フランスやドイツ、スペインのアンダーエージの充実に「サッカーの母国」としても大いなる刺激、競争心をあおられたに違いない。

イングランドといえば、プレミアリーグが隆盛を誇る一方で、代表チームは目を見張る成績を残せているわけではない。しかし、こうやって彼らがアンダーエージの強化に本腰を入れているさまを見れば、フル代表もきっと明るい未来が待っているのだろう。

そんなイングランドに、U-17W杯の日本代表は決勝トーナメント1回戦でPK戦によって敗れた。実に悔しい敗戦だった。前半こそ彼らに主導権を握られ、苦しい戦いを強いられたが、後半の途中から完全に盛り返し、あわやというチャンスと何度もつくった。大会規定により、90分終了時点で同点の場合、延長戦は行わず即PK戦に突入したが、体力を失い、青息吐息のイングランドに、日本は仮に延長戦が行われていたら完全に勝っていただろう。それほどの惜敗だった。

試合後のロッカールームで日本の選手たちは悔し涙にくれたと聞く。日本に勝ったイングランドが準決勝まで進んだとなれば「俺たちもPK戦に勝てていたら……」という悔しさは余計に募ることだろう。

私にいわせれば、その悔し涙は決して無駄にはならないと言い切れる。初めて出た世界大会で一敗地にまみれたとき、まだ少年だった中田英寿や松田直樹(故人)もワンワン泣いたものである。敗れたことは残念だが、仲間と固い絆で結ばれ、戦い、共有した涙はとても貴重なものだ。一つの大会は終わっても、フル代表としての未来は、その涙から始まるのである。

そういう経験を日本のアンダーエージの選手たちが積めるのは、やはりU-17やU-20のW杯しかない。日本ではひところ、「選手は代表で鍛えるものではなく、クラブで鍛えるものだ」というフル代表の論法を育成年代にも当てはめようとする意見が出回り、アンダーエージのW杯を軽視するような風潮まであった。が、背負うものが桁違いに大きいナショナルチームの戦いを他の何かに代替えさせることなど不可能なのである。

そういう意味で日本の未来は明るい。立て続けにU-20もU-17もW杯に出場した日本の少年たちは、うれし涙も悔し涙も流し、「負けた借りはこの先のステージで必ず返す」という覚悟を持てた。これはとても大事なことだ。

悔しい思い、屈辱を味わい、雪辱を誓うこと。それを次の幸せにどうつなげていくかに全知全能を傾けること。そういう刺激を受ける場がインドにはあった。感情に刺激を受けることが一番の財産であり、勝者のメンタリティーを獲得する第一歩にもなる。

そういう種が今年、まかれたことを日本のサッカーを愛する人たちにはしっかり覚えておいてもらいたいと思う。

日本の少年たちの次の大きな目標になる2020年東京五輪の監督にJリーグ広島の前監督だった森保一氏が就任することになった。早速、12月にタイで行われる国際大会で船出する。広島を3度の優勝に導いた名将がこれからどんなチームづくりをするのか楽しみで仕方ない。五輪のたびに問題になるオーバーエージの問題も含めて森保新監督なら、うまくマネジメントしてくれることだろう。

視野には既に24年パリ五輪も

ハイチと引き分けた日本代表。一つ歯車が狂うと自力修正がなかなかできない=共同

世間は東京五輪の心配をしているが、私の目は既に、ポスト東京五輪となる24年パリ五輪のことも見据えている。一般の人は「トーキョー」「トーキョー」と騒ぐけれど、今年のU-17W杯のメンバーには久保建英(FC東京U-18)のように、年齢資格としてパリを目指せるタレントもいる。ある意味、イングランド戦の敗北後のロッカールームにはパリを目指すエネルギーが充満していたともいえるのだ。

18年夏のW杯ロシア大会出場を決めているフル代表は、10月の親善試合をニュージーランドには2-1で勝ち、ハイチには3-3で引き分けた。マスメディアからは後者の不出来を特に非難されたようだ。

前半、エンジンのかかりが悪かったハイチは体がなじんでくるにつれて選手間のプレーのタイミングが合ってすごくよくなった。プレーをしながら感情が高まり乗ってくると、いろんなものの質がナチュラルに上がって強度も上がり、自分たちの力をぐいぐい発揮するハイチ。その点、日本は教科書的なきれいな流れのプレーはできるのだが、一つ歯車が狂うと自力で修正することがなかなかできない。妙な言い方になるが、両者の戦いから浮き彫りになったものに「体育」と「スポーツ」の違いのようなものを感じた。

もっとも、ハリルホジッチ監督が率いる今の日本代表が「格下」とおぼしき相手に苦戦するのは想定済みだった。ボールを相手に持たせて、そのボールを奪回する鋭さを攻撃の鋭さに変換する今の代表チームは、自分たちがボールを持たされるとペースが乱れてしまう。そういう意味では11月にフランスで行う、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングはるか上位のブラジル、ベルギーとの強化試合の方が本領は発揮しやすいだろう。ロシアでの本大会を占う意味でもこの2試合は必見のカードといえる。

上海上港を破りACL決勝進出を決めた浦和イレブン=共同

浦和がACLの決勝に10年ぶりに進んだことは胸のすく快事だった。準決勝で戦った上海上港(中国)は3年前のW杯でブラジル代表だったオスカル、フッキらスーパーな外国人選手をそろえた「爆買い・金満クラブ」として知られる。そんな相手にアウェーは1-1で引き分け、ホームは1-0で競り勝って、追いすがる上海上港を振り切った。

見事だったのは、よく整った守りだった。日本代表の遠藤と槙野をサイドバックに、ベテランの阿部とマウリシオをCBに、ボランチに青木を置く布陣が見事に機能した。

また、ペトロビッチ前監督の時代は日陰に置かれたドイツ帰りのMF長沢の仕掛ける力も大いに武器になった。仕掛けながらパスかドリブルかの選択ができる長沢は、ややもすると足元から足元へのパスだけになってしまう浦和の攻撃を見事に活性化した。

ペトロビッチ前監督が解任された後、指揮を託された堀監督は実によくやっていると思う。このままACLを勝ち抜き、12月にアラブ首長国連邦(UAE)で行われるクラブW杯に出場できることになったら、ひのき舞台でさらにいろいろなものを吸収して、さらに一回り大きく成長してくれることだろう。

ペトロビッチ前監督は自チームがボールを持ったときの理想を語れる監督だった。堀監督はACLの1次リーグの段階でも激突した上海上港のストロングポイントとウイークポイントをよく分析し、相手にボールを持たれても少しも慌てることなく、持たせたボールを手際よく回収する戦術を準備した。

浦和の堀監督(右)もコーチ時代とは明らかに顔つきが変わった=共同

今季もJリーグは多くの監督交代があった。優勝を狙える戦力を集めながら、期待を裏切って責任を取らされた格好の監督もいれば、下位に低迷しJ1残留争いに巻き込まれる中でショック療法的に監督交代が行われたクラブもある。

今季のJリーグは大きく膨らんだ放送権料を元手に賞金額が高騰したから、ターゲットにした順位・目標が未達となれば、監督が代えられるのはやむを得ない。閉じたプロ野球にはない、下部リーグへの降格という制度が「今年はじっくり若手を育てて来年勝負」のような悠長な長期展望を許してくれないのである。

イキのいい日本人監督、仕事全う

そういう厳しい制約の中で、浦和の堀監督、ネルシーニョ氏から指揮を引き継いだ神戸の吉田監督、カリスマ性にあふれた風間監督が名古屋に去った後のチームを託された川崎の鬼木監督、その川崎とJリーグでデッドヒートを演じる鹿島の大岩監督ら、日本人のイキのいい監督がしっかり自分の仕事を全うしているのは頼もしい限りだ。

気のせいでも何でもなく、私の目には、彼らの顔がどんどん「監督の顔」になっているように映る。彼らは全員、前任者の下でアシスタントコーチを務めていたが、コーチ時代とは明らかに顔つきが変わった。そして、つくづく「人間、その立場になって追い込まれないと、すべての能力は出ないんだな」と思うのだ。監督という重い職務と責任が脳細胞を活性化させる。アシスタントコーチ時代は仕える監督に「俺はこう思います」と具申すれば済んでいた。監督になると、そこから先の決断が仕事になる。相手の力、チームの現状を踏まえて「賭け」に出ないといけないこともある。究極にして最善の選択は何かを七転八倒して決めなければならない。

会社組織の中では「社長と副社長の距離は、副社長と社員の距離より遠い」という言い方があると聞く。監督とアシスタントコーチと選手の関係もそれに似ているのだろう。最終決定者という立場は監督を時に恐ろしく孤独にする。しかし、その孤独な時間にどんどん彼らの力は伸びているともいえる。

今シーズン途中で起きた各クラブの監督交代がどれほどのスパンで実行に移されたのかは、私には知るよしもない。交代は急場しのぎ、暫定的な意味合いがあり、来季はもっと外国のビッグネームを連れてくる、というクラブもあるのだろう。

そういうバトンタッチが熟慮の末になされるのであれば、何ら心配することはないのだが、「いい顔」になりつつある日本人監督たちを見ていると、今、積んでいる彼らの経験はクラブの財産、ひいては日本サッカーの未来につながるように思え、ショートリリーフに終わらせるのは惜しい気がするのである。

(サッカー解説者 山本昌邦)

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