チケット高額転売、不正対策いたちごっこ
電子化でもスマホ渡す抜け道 抽選販売、プログラムで大量購入も
音楽ライブやスポーツ観戦などのチケットを大量に購入し、高額で転売する行為に主催者側が頭を痛めている。販売側が他人への譲渡を防ぐ電子チケットを導入しても、システムの隙を突く転売者が出てきていたちごっこが続く。入場時の本人確認を厳しくするのは来場者に不評のうえ、開演時間との関係で徹底が難しい。音楽業界は大量購入や営利目的転売の規制を要請する。

「高値で売れた時はギャンブルをやっているような高揚感があった」。人気バンドのライブチケットを転売目的で取得したとして詐欺罪に問われた男(44)=有罪確定=は9月、神戸地裁の公判でこう述べた。チケット転売にのめり込み、約3年間で約6千万円を稼いでいたという。
男が扱ったチケットには、紙に比べて不正が難しいとされる電子チケットもあった。購入者のスマートフォン(スマホ)に届き、第三者に転送できない仕組みだが、男はインターネットで買い手を募り、コンサート会場周辺でスマホを貸し出すという単純な方法で転売しようとした。販売会社側は「スマホの手渡しとは想定外だった」と驚きを隠さない。
このケースは電子チケットが定価の5倍で売り出されていることに気付いた販売会社社員が客を装って男に接触し、警察に通報。電子チケットの不正転売の初の摘発につながった。
顔認証、開演遅れも
転売防止のため、購入者がスマホなどに顔写真を登録し、会場で係員が照合する「顔認証」も一部で導入が進む。ただ、急に会場に行けなくなった購入者が友人にチケットを譲ることが難しく、会場での係員のチェックに時間がかかり開演が遅れた例もある。
転売目的の人がチケットを大量購入する手段も進化している。
ネットでのチケット販売が普及した結果、「ボット」というプログラムを使った大量購入が頻発している。抽選販売サイトを狙い、1秒間に数百回のアクセスを集中させて応募口数を増やし、当選確率を上げるという手口だ。
販売側は特定の人による大量購入を防ぐためシステム強化で対抗するが、「ブロックを破る新たなプログラムが後を絶たない」と嘆く。
「将来のファン離れ懸念」
高額転売に危機感を強める音楽業界4団体は4月、国会議員にチケットの大量購入や営利目的の転売を禁じる法律制定を要請した。団体によると、米国は昨年、不正プログラムによるチケット大量購入を禁止する法律を制定。英国も同様の規制を検討中という。
音楽事業者の団体は6月、コンサートに急に行けなくなったファンのため、チケットを定価で買い取り転売するサイトを立ち上げるなど、高額転売の防止に努める。業界関係者は「中高生は高額なチケットには手が出せない。高額転売を野放しにすれば、将来的なファン離れにもつながりかねない」と懸念する。
専門家「主催者が価格差設定、有効」
会場周辺などで不特定多数の人にチケットを売るダフ屋行為は都道府県が条例で禁じているが、インターネット上でのチケット転売を禁止する法律や条例はない。
ネットでチケット売買を仲介する専門サイトも登場し、利用が増えている。大手「チケットキャンプ」の2016年12月の売約額は約58億円と2年前の7倍超に拡大。サイト運営会社によると、ネット転売の市場規模は16年度の500億~600億円から18年度には800億円まで膨らむ見通しという。
転売問題に詳しい田上嘉一弁護士は「価値を見いだすファンが高額でもチケットを購入するのはある意味で当然だ」と指摘。法規制の議論については、ネット上ではチケット以外にも高額転売される商品は多く「チケット転売に特化した法規制の導入には慎重な議論が必要だ」と話す。
高額な転売を防ぐ方法として、主催者側が会場の座席に応じて柔軟に価格差を設けることも有効という。「海外の著名アーティストのチケットに主催者側が10万円の値段を付けることもある。もともと高額なら転売者の利ざやを薄くできる」と説明する。