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パナソニック、「教授社員」がAI研究

パナソニックが人工知能(AI)の研究に外部人材を活用している。4月に立命館大学情報理工学部教授の谷口忠大氏(39)を社員に迎え入れた。研究者が大学などに籍を置いたまま兼業できる「クロスアポイントメント制度」を同社で初めて採用。従来の組織のあり方を見直し、最先端分野での製品開発を加速する。

谷口教授(右奥)を社員として採用したことで社内の議論が活発化した

谷口氏は現在、毎週月曜日に大阪府門真市の先端研究本部構内に出社している。所属はAIやあらゆるものがネットにつながる「IoT」を駆使して新規事業を興すビジネスイノベーション本部で、肩書は客員総括主幹技師だ。

もともとの専門は、ロボットが経験に応じて学習するAIの計算技術など。パナソニックでは目下、家電や自動車など様々な事業領域で、AIを組み込むやり方を模索している。

「日本のAI研究は欧米より遅れており、産学の連携不足が一因だ。それを自ら変えていきたい」。谷口氏はこんな問題意識を持っている。

パナソニックはAIを、今後10年で最も重要な研究開発テーマのひとつと位置付けている。AIを巡る技術革新は日進月歩。メーカーにとっては最新技術を取り込んだ製品開発が生命線となる。そこで第一線の研究者である谷口氏に白羽の矢を立てた。

企業と大学の協業では、共同研究が一般的だ。個別の研究テーマを決め、両者が契約を結ぶ。

共同研究以外では、研究者が企業の要請を受けて助言するような関わり方もあるが、双方が対等な立場で議論を深めるような取り組みは十分にできていなかった。

谷口氏とパナソニックは16年7月からAIの共同研究に着手した。しかし、共同研究の枠組みでは、谷口氏は社内の情報に自由にアクセスできず、敷地内での移動もままならない。

そこで、パナソニックと立命館大が協議し、クロスアポイントメント制度で研究開発の環境を整備することを決めた。

クロスアポイントメント制度は大学や公的研究機関、企業などの研究者が、複数の組織に籍を置きながら働けるようにする制度だ。成長分野で技術革新を促すことを目的に、政府が14年12月にルールを決めた。

大学側にとっても、大学教員が企業に籍を置くのは未知の取り組みとなる。今回の協業でも、まず産学双方の理解と制度作りに時間を要した。

パナソニック側で仕組み作りを担当したインタラクティブAI研究部の仙田圭一部長は「まずは大学教員個人との信頼関係の構築が重要」と指摘する。企業側の機密情報に幅広く触れるのに加え、配属された部署に深く関わってもらわなければクロスアポイントメント制度の本当の効果を得られないためだ。

仙田氏は実は14年ごろにも同制度を活用した大学教員の採用を検討をしたが、適任者が見つからなかったという。

今回のケースでは谷口氏が意欲を持っていたことも実現につながった。かねて日本のAI研究の出遅れに危機感を抱き、「両者の膠着した関係に風穴を開けたい」と考えていたためだ。

パナソニックと立命館大は、谷口氏の業務量や勤務時間について、パナソニック側が2割、立命館大側が8割と定めた。パナソニック側は業務に応じた給与相当額を立命館大に支払う。谷口氏は、パナソニックでの業務分も含めた給与を、立命館大から支給されることになる。

 効果はすでに表れつつある。仙田氏は「谷口教授が来て意思決定のスピードが上がった」と話す。

谷口氏の「社内の研究者の顔が見えるように」という発案で、AI研究のために社外に公開する専用サイトを設けた。メッセージアプリを活用し、とにかく関係者間での迅速な情報共有も徹底している。

大学の研究者でしか触れられない情報に基づき、学会とパナソニックの研究者を結びつける取り組みも増えている。

今秋には社内向け展示会で、ロボットとAIを組み合わせた研究成果の中間発表を実施した。

12月に開かれる機械学習の国際学会では、初めて発表も予定している。「研究者のモチベーションも上がっている」(仙田氏)

パナソニックは今後、AI関連で技術者の新規採用を増やし、AV(音響・映像)機器や白物家電のソフトウエア開発者にも積極的にAI技術を習得させる考えだ。

自社のAI技術者を18年度に16年度比5倍の300人程度、21年度には1000人程度に引き上げる計画を掲げる。その実現に向けても、谷口氏の採用が重要なモデルケースとなりそうだ。

産業界ではクロスアポイントメント制度の活用はまだ進んでいない。15年度は54大学が制度を利用したが、大学同士や大学と研究機関など「学学」連携が中心。企業が大学教員を採用した例はなかった。

逆に大学が企業関係者を採用した例では、大阪大学がダイキン工業の研究職の社員を工学研究科で受け入れている。

今後は比較的若い研究者が活躍している情報系やソーシャルイノベーションなどの研究領域で、企業が同制度を活用するケースが増える可能性がある。

(大阪経済部 上田志晃)

[日経産業新聞 2017年10月23日付]

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