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セカオワ・藤崎彩織 メンバーにも秘密の創作ノート

人気バンド「SEKAI NO OWARI」の藤崎彩織さんが持ってきてくれたのは、「メンバーにも見せたことがない」というノートだった

『RPG』や『ドラゴンナイト』など数々のヒット曲で知られる人気バンド、SEKAI NO OWARI。バンドの紅一点で、ライブの演出も手がけるピアニストのSaoriさんが、作家・藤崎彩織として初めての小説『ふたご』(文芸春秋)を完成させた。多忙な音楽活動と並行して、5年を費やして書き上げた創作の原点とも言えるモノが、楽曲やライブ作りにも欠かせない、SEKAI NO OWARIのメンバーにも見せたことがないというノートだった。

失敗した痕跡も残したい

さまざまなノートを使ってみた結果、たどり着いたというLIFEのKAPPAN NOTE

バンドで楽曲制作やライブの演出などを担当しているので、思いついたアイデアはいつもノートにまとめています。簡単なメモだけならスマートフォンやタブレットでも事足りるかもしれませんが、下手くそながら絵を描いたり色分けして見やすくしたいので、ノートが一番頭を整理しやすいんです。今回の小説を執筆するときも使いました。

この方眼ノートを使い始めたのは3、4年ほど前から。日産スタジアムでの初ライブ(2015年)のメモも書いてあります。

それ以前も、けっこういろいろなノートを使いましたね。一般的な罫(けい)線のノートやルーズリーフ、リングノートなどなど、サイズも含めていろいろ試しました。使い続けるうちに、サイズはこのくらいがいいなとか、横罫線だと文字が斜めになったりラインからはみ出していたりすると後から見たときに「汚い」って気分が落ちるなとか(笑)。かといって、白紙は文字を羅列するときに書きにくいんですよね。その点、方眼ノートは絵を描くときもラインがあまり気にならないし、少しぐらい文字が斜めになっても乱雑に見えないので気に入っています。中とじよりリングノートのほうがすてきなんですが、性格的に気に入らないとそのページを破り捨ててしまいそうで(笑)。自分が失敗した痕跡も残したいんです。

使っているのは方眼タイプ。絵が描きやすく、文字が斜めになっても気にならないところがいいという

 以前は1冊になんでも詰め込んでいましたが、いざ「あのときはどう思っていたっけ?」と思い出したくても、なかなか見つけられなくて。今は「MUSIC」「LIVE」「BOOK」と目的別に使い分けているので、より振り返りやすくなりました。

ノートはあくまでも私の中で整理をつけるための、とても個人的なものです。ぐちゃぐちゃに書きなぐってあるので、とても恥ずかしくて人には見せられません。(パラパラめくって見せられるページを探すが)やっぱり無理です、ごめんなさい(苦笑)。メンバーにすら中身を見せたことはないし、今後も見せないでしょうね(笑)。

「何か書いてあるページを見せてもらえませんか」というリクエストに、ページを繰って確認する藤崎さん。しかし、本文にあるとおり、見せてもらえず

このノートもそうですが、同じものを買いそろえることは多いです。そのほうがすっきり見えるし、思考も整理されると感じますね。部屋がきれいに保たれているか否かは、その人の考え方にもつながると思うんです。中高生の頃は、「どうしてこんなにぐちゃぐちゃなんだろう」と部屋の汚さに悩んだことも(笑)。そこから少しずつ学んだことが、もの選びにも生かされているのかなと。

そもそも物欲はあまりないほうなんです。気になるものをお店に何度も見に行って「どうしようかな……」「やっぱり今日はやめよう」と思い悩むようなロマンチックなことができない(笑)。「ものを買う=快楽に時間を無駄にしている」というような罪悪感を覚えてしまうんです。買い物で悩むよりは、やるべきことに没頭するほうが気分がいいと考えてしまう。

同じ創作でも音楽と全く異なる小説

中学生のころからスケジュール帳に数行の日記のようなもの、その日の出来事や映画や音楽の感想などを書くようになりました。やりだすとどうしても書かなきゃいけない気持ちになり、何もない日でも「何もなかった」と書いたり(笑)。性格なんでしょうね。大学時代はバンドのPRも兼ねてブログなどもやっていて、そんな私を見てメンバーのFukaseが「小説を書いてみたら?」と薦めてくれた。それが5年前です。

もともと小説を読むのは好きでしたが、「自分なんかが挑戦してもいいんだろうか」という気持ちもあり、Fukaseに言われるまで小説を書こうなんて考えもしませんでした。

いざ書き始めてみるとがくぜんとしましたね。日記は備忘録で、学生時代のブログもその延長上にあったんです。でも、小説は人に読まれる文章であるのが大前提。しかも、自分に起きたことばかりでなく、想像して言葉を作っていく作業なので、今までとは全然違う経験にすごく苦労しました。

そもそも、小説は私の想像しうる時間軸を超えていました。

音楽、特にポップスは約5分で完結するので、作る際も口ずさみながら容易に確認できます。コンサートは私がいちばん楽しめると思う長さの2時間15分の中に、どの曲をどう並べるかを考えるのが軸で、ゼロから組み立てるわけではありません。でも、小説は登場人物の細かなキャラクター設定やストーリーの展開など、すべて自分一人で考えなければいけない。

それに私は小説の書き方、プロットを立てることすら知らず、いきなり冒頭から書き始めてしまった。着地点が見えないまま走り出したせいか、100ページを書いたあたりで「自己嫌悪」という負のスパイラルから抜け出せなくなりました。あとがきにも寄せましたが、「なんて才能がないんだろう。こんなダメな文章を世に出すなんて」と思うと思考がストップしてしまった。実際に、担当してくれた編集者に幾度か「これは世に出す価値がない」とこぼしたこともあります。その度に「そんなことはない。これは人の心に届くものだよ」と励ましてくれたから完成できた。感謝していますし、こうやって今晴れやかな気分で話せるのは気持ちがいいものですね(笑)。

「約5分で完結するポップスと違い、小説は私の想像しうる時間軸を超えていました」と笑う

音楽と異なる小説の魅力

今年は国内のドームツアー後に海外ツアーもあり、私事ですが、妊娠も分かりました。今年の初めに編集者から「今年こそ出しましょう」と言われていたので、「やることだらけで、どうしよう」ってパニックになるほど(笑)。

でも、帰国後はずっと『ふたご』にかかりきりになれた。バンドには本当にたくさんの時間をもらいました。最後の1カ月はとくに。私1人のプロジェクトにそこまで時間をもらうのは、デビューして初めてだったんです。考えてみると、『ふたご』はバンドメンバーがいないところで作り上げた、初めての作品なんですよ。今までは自分で作詞作曲しても、そこには必ずメンバーも参加していましたから。

小説は、自分一人でゼロから書き上げた、プロジェクト。少し自分に自信が持てるようになりましたし、文章を書くことで私自身も救われている部分があると感じます。

音楽は5分間で確認でき、それが魅力でもありますが、小説は読んでくれる人の時間をたくさんもらいます。この『ふたご』を少なくとも100回は読み返しましたが、最低でも3~4時間かかった。それに責任を感じつつ、同時に音楽とは違った魅力だなとも思いました。

次作ですか? 機会があれば書いてみたいですね。方眼ノートのストックはたくさんあるので、そういう意味では準備万全です(笑)。

藤崎彩織
 1986年8月13日、大阪生まれの東京育ち。2011年に4人組バンド、SEKAI NO OWARIのメンバーSaoriとしてメジャーデビュー。担当楽器はピアノ。ヒット曲『RPG』の作詞をはじめ、作詞作曲を手がけるほか、ライブの演出も担当。2017年1月に俳優の池田大と結婚、8月には妊娠を発表した。SEKAI NO OWARIとして2018年4月7日の熊本県農業公園カントリーパークを皮切りに野外ツアー「INSOMNIA TRAIN」を開催する。
文芸春秋 本体価格1450円+税

『ふたご』

いつも独りぼっちでピアノだけが友達だった中学生の夏子と、不良っぽく見えるけれども人一倍感受性の強い、高校生の月島。いつもめちゃくちゃな行動で困惑させる月島に引かれる夏子は、誘われるままにバンドに入り、彼の仲間と共同生活を行うことになるが……。

(文 橘川有子、写真 藤本和史)

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