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三井物産 クルマどっぷり

「CASE」に商機 脱・資源商社へ

「資源商社」と言われてきた三井物産が「CASE」にのめり込んでいる。CASEは「コネクテッド(つながる)」「オートノマス(自動運転)」「シェアリング(共同所有)」「エレクトリシティー(電動化)」の頭文字で、自動車産業の変革を象徴する。次世代のモビリティー(移動手段)とともに「物産自動車」という言葉が登場するかもしれない。

9月8日朝、三井物産は米ゼネラル・エレクトリックから米トラックリース会社の株式を取得すると発表した。出資比率を2割から3割に引き上げるという内容だが、ここに三井物産の自動車ビジネスのキーワードの1つ「コネクテッド」に大きくかかわる肝がある。

車体にいくつものセンサーを取り付けて自動車の稼働状況を把握、故障の可能性を予知して保守点検を適切なタイミングで行えるようにする。出資率引き上げに約480億円を投じた、米ペンスキー・トラック・リーシング(PTL)は、こんな工夫を凝らしているリース会社だ。

すべてのモノがネットにつながるIoT。PTLはこの技術を駆使している。25万7000台のトラックを保有。全米に700の拠点をもち、顧客や車の状況など物流に関する様々な情報を持つ。独自のデータベースを構築して、位置データや車両の状況といったデータを共有している。

こうしたノウハウを持つリース会社との関係を深めておけば「自動車にかかわる様々なビジネスを拡大できる余地が膨らむ」(安永竜夫社長)。PTLへの追加出資にはこんな狙いがある。

三井物産は2016年3月期に約830億円の最終赤字計上を余儀なくされた。原油や鉄鉱石といった資源の価格が下落し、資源権益の評価額を引き下げなければならなかったからだ。

その後、資源価格は持ち直して最終損益も17年3月期は黒字転換した。だが、資源偏重では市況次第で赤字に転落するリスクを抱える。18年3月期も連結純利益の6割強は資源事業となる見通しで、「資源商社」の看板返上に向けて非資源事業の強化は待ったなしだ。

「自動車産業にどのような未来像があるのか、そこに存在するビジネスチャンスの中から、我々はどこを攻めるのかを導き出してほしい」

5月に立ち上げた社内横断組織(タスクフォース)の会議の狙いを佐藤真吾執行役員は語った。

非資源事業強化の糸口の1つとして三井物産が着目したのが自動車ビジネス。様々なイノベーションの芽が出て、産業のありさまが変わろうとしている自動車ビジネスに商機を見いだしたのだ。

タスクフォースのメンバーはいずれも将来を期待されている中堅・若手社員だ。完成車メーカーや部品メーカーと取引のある部門だけでなく、エネルギーや金属資源、ICT(情報通信技術)など、自動車とは直接の関係はない部門からも人が来ている。

タスクフォースは18年4月にも結論を出す。だが、PTLへの追加出資のように、いくつかのプロジェクトはすでに走り出している。

米国西海岸のシリコンバレー。高速道路を使って大型トラックが至近距離で隊列走行する実験が繰り返し行われている。手がけるのはペロトン(カリフォルニア州)。三井物産が3月に出資したスタートアップだ。ここでのキーワードはオートノマスだ。

トラックにはセンサーが搭載されており、ソフトウエアがアクセルとブレーキを自動制御する。人間の運転では不可能な9~15メートルの車間距離で2台のトラックを走らせることができる。

大型のトラックは走行時に受ける空気抵抗も大きい。2台が至近距離で走れば、後ろのトラックが受ける空気抵抗が減るので、燃費もおよそ10%改善する。前を走るトラックも車体の後ろの気流が変わるため、5%近く燃費がよくなる。

ペロトンは年末にも大手運送会社にこの技術を使ったサービスを提供する。当面はトラブルに備えてドライバーが乗車することを前提とするが、将来は完全自動運転も視野に入れている。運送業の3大コストといわれる燃費、人件費、事故関連費の削減を目指す。

オートノマスへの取り組みは日本でも行われている。秋田県仙北市のリゾート施設「あきた芸術村」。この周辺の公道で自動運転車を走らせたり、駐車させたりしているのがAZAPA(名古屋市)だ。リコーと共同でこの実験をしているスタートアップに、三井物産は7月に約8億円を出資した。

AZAPAはエンジンを制御するソフトウエアを開発し、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーに納入している。三井物産は完全自動運転の実現が近づけば、AZAPAのソフトの重要性が高まると判断した。

3つめのキーワードのシェアリングでもプロジェクトが進んでいる。

シンガポールでカーシェアリングの60%のシェアを持つカークラブに10年に出資し、16年には完全子会社化した。カークラブはシンガポールで100を超える数のステーションを持ち、約250台の自動車をシェアリング向けに運用している。

電気自動車(EV)では、米ルーシッドモーターズ(カリフォルニア州)に出資した。蓄電池からモーター、ソフトウエアまでEVのコア技術すべてを内製しているスタートアップだ。

ルーシッドはスーパーカー並みの加速性能を持ち、航続距離が640キロメートルに達する高級EVを19年にも量産化する計画。三井物産は部材供給や販売などで協業の可能性を探る。

(企業報道部 堤正治)

[日経産業新聞 2017年10月17日付]

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