産学連携、溶ける壁 京都・大阪・神戸3大学シンポ
関西経済人・エコノミスト会議 関西発イノベーションと人材育成

2017/10/17 2:00
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討論する(左から)高崎・日東電工社長、武田・神戸大学長、山極・京大総長、西尾・阪大総長(9月28日、大阪市北区)

討論する(左から)高崎・日東電工社長、武田・神戸大学長、山極・京大総長、西尾・阪大総長(9月28日、大阪市北区)

日本経済新聞社と日本経済研究センターは9月28日、「関西経済人・エコノミスト会議」を開いた。京都大学の山極寿一総長、大阪大学の西尾章治郎総長、神戸大学の武田広学長、日東電工の高崎秀雄社長が、「関西発イノベーションと人材育成」をテーマに、産学連携のあり方や課題などを議論した。司会は日本経済新聞社大阪本社編集局長・品田卓。

研究を企業の論理で 山極氏

司会 産学連携ではどんなテーマで取り組み、何が大事か。

高崎 会社としてどの方向に行くのか。事業戦略の中でコラボレーションできるパートナーとして、足りないものを一緒に補うという方向で一致できれば可能性が出てくる。トップ同士が信頼関係を結んでおかないと、下の人が安心して進めることができない。

西尾 阪大は企業との共同講座を開設している。研究の最後の一歩ではなく、もう少し根源的なところで何を、どういうサービスを一緒にやるかを考えていく。基礎レベルの段階から世の中にどういうイノベーションを起こすのか、社会にどういう変革を及ぼすためにどういう技術開発をするのかが大切になる。

京都大学総長・山極寿一氏(やまぎわ・じゅいち) 1952年生まれ。75年京都大学理学部卒。京大教授などを経て、2014年から現職。

京都大学総長・山極寿一氏(やまぎわ・じゅいち) 1952年生まれ。75年京都大学理学部卒。京大教授などを経て、2014年から現職。

山極 京大が来年4月に設けるホールディングスという組織では企業の目で、企業の方に大学に入ってもらい、大学のルールではなく企業のルールを入れながらシーズ(種)を早く形にする。企業はお客さんではなくて、大学の一員ですという考え方だ。

武田 神戸大も企業と包括連携協定を結んでいる。社会系のところは社員の教育、研修を担っているところもある。スタートはかなり個別なところから入る。まず企業側がどこに何を聞けばいいかがわかるワンストップサービスみたいなものを整備する。役割分担も大切で、企業と同じような発想をするなら利用価値がないとの指摘がある。お互いのいいところを産学連携でも伸ばしていけばいい。

高崎 これほど大学の中でいろんな会社を立ち上げていることはあまり知らなかった。まずはどういうものをやるのかを幅広く、グローバルにそれをお互い知り合うことが大切だ。

司会 産学連携はスピード感をもってやらなければいけないとの指摘があるが。

山極 スピード感という概念が企業と大学とでは違う。研究者はスピード感を持っている。競争の中にいるので成果を早く出さないといけない。どのようにものにすべきかという点では企業の世界とは多少ずれがある。研究者のスピード感と企業のスピード感をマッチングさせる落としどころが必要なわけで、それは両者が手を組まないと生まれない。まず顔を合わせることで引き出していく。

武田 運営費交付金が下がっている。下げ止まったといっても競争的な資金がメインであることは変わりない。国だけに頼るのはだめで、企業との共同研究のお金や寄付金も含めて収入の多様化を図らないといけない。企業からの資金やベンチャーの立ち上げなど実際にお金もうけすることを念頭にやっている。20年前とは全く違う。

西尾 スピード感というところは大きなイノベーションを考えるとすこしきつい。大学は自由な発想でやれることを確保してないといけない。従来は成果が出ているものを提案し、これがいけそうなら共同研究へ進む形だったが、そういうルートができて基礎の段階から一気通貫でいけばスピード感が出る。ルートができていれば商品化することもできる。

高崎 大学と連携する目的は、企業ではできない基礎的な研究、専門性など我々では手が届かない領域がある。大学は企業と目のつけどころが違う。こうした互いの違いを知ることで連携が始められる。

■技術つなぐ人材必要 西尾氏

大阪大学総長・西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう) 1951年生まれ。75年京都大学工学部卒、大阪大学工学部教授を経て2015年から現職。

大阪大学総長・西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう) 1951年生まれ。75年京都大学工学部卒、大阪大学工学部教授を経て2015年から現職。

司会 日本のイノベーションはシリコンバレーと違って、いいものを持っていながら生かせていないのではないか。

西尾 関西ではベンチャーを興そうとする動きはあり、シーズは多い。さらに成長著しいアジアに近く地理的に有利な面もある。結局、大学の持つ研究力と企業の持つ技術力、応用力を掘り起こしてまずマッチングできる人材が大学で必要だ。大学ではピュアな研究者ではない、ピュアな大学職員でもないその中間的な観点で活躍する方が重要だ。基礎から実装までをつなぐワンストップでできる人材を持つことが大事だ。

山極 研究者自身がイノベーターとして掘り起こしていくことが必要だ。学会で発表して止まってしまっている。研究者自身が産業の主役になることが見える時代になっているわけで、これは日本の大きな可能性を開いていくと思う。研究は成果を発表した後では遅い。研究に企業の論理を入れるべきだ。

高崎 若い研究者がこの技術いいでしょと言うことがあるが、いい技術だから売れるものではない。大学、企業の間を橋渡しする人材がいる。最終的に世の中に受け入れられるものに仕上げていく理解がお互いに必要になる。

司会 日本の研究者、学生はハングリー精神が足りないという指摘がある。イノベーションを起こすうえで課題はあるのか。

武田 ハングリー精神が研究者に足りないと言うことはないと思う。ノーベル賞を狙っている人はたくさんいる。若い人はそんなに悲観したものではない。ただ講義の後に質問する学生が少なくなった。個別に質問はくるが、人前で質問はしない風潮がある。背中を押してやらないと学生は動かないという印象はある。

■トップ同士の信頼不可欠 高崎氏

司会 人材育成には、インターンシップが短いとの指摘があるが。

高崎 当社の場合は3週間やっている。どの期間がいいかは会社によって違う。短すぎてもよくない。逆に長いと学生に負担がかかり、単位取得の問題が出てくる。

西尾 インターンシップでは阪大は単位化している。学部生は企業を知り、修士や博士は意思決定を理解する。特に博士は長期でやってもらい、開発や研究のリーダーになってもらいたい。

武田 文部科学省の政策でポストドクター1万人計画があり、ドクターを増やしてきた。みんな研究者になれるわけではなく、企業に頼らざるを得ない。企業の方も博士は使いにくいところがある一方、博士は専門性を高めたいと思い、ミスマッチが起きている。博士のインターンシップを充実させることが大切だ。

司会 クロスアポイント制も大切だと思うが。

山極 クロスアポイントをどう増やせるかが課題だ。大学との橋渡し役になる。重要なのは企業の実務経験がある方に講義してもらうことを浸透させ、模範になる仕組みをつくることだ。

西尾 阪大は共同研究講座や共同研究所を使い民間とのクロスアポイントを進める。理工系の女性研究者が少ないので、クロスアポイントで企業の女性社員が大学に来て学生を教育してもらう。クロスアポイントはいろんな観点から重要だ。

高崎 クロスアポイントは目的をしっかり定めないと長続きしない。続けるためにはトップ同士の信頼が不可欠だ。

司会 留学生をもっと採用してほしいという意見もあるが。

高崎 弊社は採っている。外国籍の方を積極的に採用し、お互いを高めていく文化を醸成していくことは大事だ。もっと活用していきたい。

武田 神戸大の留学生は1200人。神戸は国際都市だが、大学が国際的かというと割合でみるとそうでもない。課題は留学生の宿舎などインフラが足りない。グローバル化で海外へ出るのはいいが、海外から受け入れた場合に受け入れる教員が足りず走り回らないといけない。インフラの面で追いつかないところがある。

■データサイエンス、3校連携を 武田氏

神戸大学長・武田広氏(たけだ・ひろし) 1949年生まれ。78年東京大学理学系博士課程修了。神戸大学理学部教授などを経て、2015年から現職。

神戸大学長・武田広氏(たけだ・ひろし) 1949年生まれ。78年東京大学理学系博士課程修了。神戸大学理学部教授などを経て、2015年から現職。

司会 関西の強みを生かせるイノベーションとはどういう分野があるのか。

武田 医療とデータサイエンス。医療は研究機関をポートアイランドに集めている。データサイエンスは(理化学研究所の)スーパーコンピュータ「京」がある。関西でまとまってできる。企業や社会の動き全体がデータサイエンスの対象になっているので3大学で連携して進めたい。

山極 関東と比べると、関西は官主導ではなくて民主導。地域にも支えられている。それが東京と違うところで民と結びついて様々な事業を展開している。大学はそれを利用しながら特色ある企業と組みながらやっていく。強みを生かしながら個性を磨き、関西にしかできないことをやる。いろんな個性を利用しながらオープンイノベーションをしていくことが関西の大きな力になる。

司会 3大学は連携できるのか。

西尾 データ、数理では3大学にセンターができている。特にデータサイエンスはオープンでやったほうが可能性が広がる。民をベースにした産官学の連携のイノベーションを起こすことが重要だ。

山極 若手研究者の連携は昔からあり、今後成果を出していく。数理、データサイエンスを進めていく上で3大学の連携は大事だ。

高崎 心強い。強いもの同士がつながらないと独創的なイノベーションが生まれない。

日東電工社長・高崎秀雄氏(たかさき・ひでお) 1953年生まれ。78年明治大学商学部卒、日東電工入社。2013年専務執行役員。14年から現職。

日東電工社長・高崎秀雄氏(たかさき・ひでお) 1953年生まれ。78年明治大学商学部卒、日東電工入社。2013年専務執行役員。14年から現職。

課題発見こそ必要 問題提起、産業界の立場から 日東電工社長・高崎秀雄氏
 我が社は来年100周年を迎え、常にイノベーションを起こしてきた。スマートフォン(スマホ)では液晶や有機ELが話題になるが、部品を供給している。指が触れる最外層の部分や偏光板などだ。これから有機ELの需要が増えると、お客様にはなくてはならない材料を、イノベーションを起こしながら提供していく必要がある。
 昨年3月には大阪府茨木市にイノベーションセンターをオープンした。名前は「イノバス」。イノベーションと、ラテン語で新生の星を意味するノバを組み合わせた造語だ。広さは2万4000平方メートルあり、左側半分はR&Dセンターのオフィス、センターの右側半分は人材育成の場所になる。その真ん中がイノベーションの拠点になる。人が交わり共創を実現する場になる。これまで1年半になるが、研究開発を続けて実績が上がってきたと考えている。
 産学連携は共通の目的を持つことが大切。ただ企業と大学では時間軸が大きく違う。シーズ(種)の発掘や技術の深掘り、新手法の採用は当たり前だ。どうスピードを上げて成果物の精度を上げるか。資源の活用が大切だ。
 ヒト・モノ・カネ・時間のうちリソースをどこに集中するか。どうやって事業化につなげて社会貢献を実現するのか。アウトプットを出すのが株主への還元にもなる。大学と企業が手をしっかりと握れるかどうかは信頼関係が大事だ。
 これまで取り組んできた産学連携はまだ事業化にはつながっていないが、北海道大学と肝硬変の治療薬開発を進めている。昨年には米ブリストル・マイヤーズスクイブとも提携し、商品化を進めている。慶応大学とはプラスチック光ファイバーで大容量の通信を実現。自動車、医療分野などを進めていく。慶応大の新川崎キャンパス(川崎市)に研究所を設けた。
 京大と阪大、神戸大ともエネルギーや脳科学、分離膜など様々なテーマで共同研究を進めている。阪大とは協働研究所を設置して取り組んでいる。まだ事業化にはつながっていないが、これから成果が生まれてくるだろう。
 人材育成について「What」を見つけ出せるリーダーが欲しい。課題を与えて解決するものは誰でもできる。何もないところから何を見いだすことができるのか。真っ白な紙から何を見いだせるのか。そうした人材を育てたい。
 ビジネスに正解はない。今日の正解が明日の正解とはかぎらない。これについては入社した新入社員だけでなく中堅でもピンとこない人がいる。1カ月後、2カ月後はどうなるのか。エレクトロニクスの分野は変化が激しい。情報の賞味期限は1カ月を切っている。今日打った手は1カ月後には通じない。
 じっとしてはいられない。「成功したことが正解だ」といえる。強い精神力を持った人材を育てなければいけない。最近の学生さんは答えを早く欲しがる。会社に入って変化に対応できる人材に育てたい。弊社の経営幹部育成は外国人と並んで進めている。
 どうやって大学と企業が産学連携して社会に貢献するのか。それが大切なことだ。

■産学の信頼、革新の原動力 シンポを聞いて

昨年に続いて開かれた京都・大阪・神戸の3大学学長によるシンポジウム。前回に続いて産学連携によるイノベーションの実現に向けた方策を探った。今回は昨年の成果を踏まえて人材育成を中心に議論。焦点となったのは産学の垣根を越える仕組みづくりだ。

国立大学の独立行政法人化が始まってから10年超。国立大は「国」という枠を超えた活動が急速に広がりつつある。その1つが大学法人によるベンチャー企業への出資。すでに京大は14社、阪大10社、神戸大も力を入れる。殻に閉じこもりがちな大学自らがリスクを取りながら事業化を後押しする仕組み。新規株式公開(IPO)が間近なベンチャーも生まれ始めた。

人材面でも動きがある。大学と企業の両者に肩書を持つクロスアポイント制度だ。阪大はダイキン工業などと連携して企業の研究者を雇用し始めた。手続きが複雑という課題は残るが、産学の懸け橋となる人材が生まれるとの期待は大きい。

科学研究のスピードは加速し、「基礎」「応用」という研究の区分けは消えつつある。大学で生まれた研究成果を素早く産業界につながなければイノベーションは生まれない。そのためにも大学と企業のトップ同士が問題を共有して課題を解決する。シンポでも強調された「信頼」というキーワードが革新を生む原動力になるだろう。

(竹下敦宣)

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