2018年4月21日(土)

美しき黒子 服飾彩る 吉忠マネキンの工房(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
2017/10/16 17:00
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 何人もの美男美女が並ぶなか、端正な女性の顔に華やかな化粧が施されていく――。ファッションショーの舞台裏のようだが、マネキンの仕上げ作業だ。京都府亀岡市の山あいにある吉忠マネキンの工房。一体ずつ、手作業で命がふき込まれていく。

日本画の筆でマネキンの顔を魅力的に描く

日本画の筆でマネキンの顔を魅力的に描く

 メーキャップアーティストさながらの職人が手にするのは、日本画用の筆とアクリル絵の具だ。アパレルメーカーや小売店の注文に応じて顔のつくりを決め、眉や口を描いていく。人間の化粧より2~3割濃く、派手めに仕上げるが、「目力」はあえて控えめにする。メークを14年間担当する中原珠美さん(43)は「目がリアルすぎるとお客さんの視線が目に集中してしまい、ファッションが目立たなくなる。マネキンはあくまで黒子」と話す。黒目は黒色ではなく青と茶を混ぜ、白目も淡い色でぼかす。視線は少し上向きに。マネキンが客を見つめて威圧感を与えないための工夫だ。

 マネキン作りは原型となる人形のデザインから始まる。粘土で作った人形から型をとり、強化プラスチックで成型する。女性用マネキンの多くは身長約180センチと大柄だが、合わせる服はMサイズが一般的。現実の人間より首や手足を長くし、腰を細くするなどして見た目のバランスを整える。洋服をすらりと着こなす姿を醸し出す。

 国産マネキンは京都が発祥だ。人体模型を手掛けていた島津製作所が1925年に第1号を作り、30年には京人形の技法を生かした紙製マネキンを開発した。軽くて美しいマネキンは国内外で人気を博したが、太平洋戦争で途絶えてしまう。終戦直後に職人が独立して、吉忠マネキンなど3社を創業。ファッションとともに流行を彩ってきた。

 時代に合わせて容姿も移り変わる。近年では、性的少数者(LGBT)を意識した中性的なメークやデザインも増えてきた。同社のマネキンは国内ほぼ全ての百貨店だけでなく、海外を含めて多くの高級ファッションブランドでも用いられている。約40年以上前から採用している高島屋の担当者は「目の色やヘアスタイルなど全身でトレンドを訴える。ショーウインドーには欠かせない」と信頼を寄せる。

 アパレル業界はインターネット通販が活気づく一方で店頭販売の縮小が続く。同社では従来より大型で目立つマネキンや、自動で首を左右に振るタイプも開発し、存在感をアピールする。原型作りに長く携わってきた岡田茂樹総合企画部長(56)は「マネキンは店を華やかにして街に人を集める役割も持つ。世の中を元気にするマネキンを送り出していきたい」と意気込んでいる。

文・写真 大阪写真部 浦田晃之介

 〈カメラマンひとこと〉マネキンの化粧は、わずかでも描き損じたら地肌の塗装からやり直しだ。緊張感とともに顔の上を筆が走る。一筆ごとに唇が潤い、目に光が宿っていく。鮮やかな筆遣いに見とれながらシャッターを切ると、無機質だったマネキンの顔が生き生きと輝き始めた。

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