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日本馬に過酷だったシャンティイの凱旋門賞

フランスの首都パリから北に約40キロ。シャンティイは森に囲まれている。19世紀にリゾート地として発展したこの街は、競馬と観光を主な産業としている。整えられた庭園と名だたる美術品で知られているシャンティイ城、今は馬の博物館として使われている大厩舎が見どころで、そのすぐ隣に競馬場があり、フランス最大の調教場が広がっている。

入場の様子。中央の緑の帽子がサトノダイヤモンド

秋の空を見上げると飛行機雲が幾重にも重なり、空の通り道であることがわかる。シャルル・ドゴール空港から車で30分もかからないシャンティイは、空港で働く人々が暮らす街でもある。

今年、このシャンティイで欧州最高峰のG1・凱旋門賞が行われた。芝2400メートルで争われる凱旋門賞は1920年創設。途中で戦争による中止を挟み、今年で96回目。毎年10月の第1日曜日に行われている。今年は総賞金500万ユーロ、1着賞金285万7000ユーロと賞金面でも欧州最高峰で、欧州各地から強豪が集い、頂点を目指す闘いを繰り広げている。

シャンティイ、仏最古の競馬場

例年はパリのロンシャン競馬場で行われるのだが、現在は改修工事の真っ最中。昨年と今年に限ってシャンティイ競馬場に舞台を移して開催された。3コーナー手前で大厩舎の眼前を通過し、シャンティイ城のすぐそばを抜けて第4コーナーに入るこの競馬場は、1834年に最初のレースが行われたフランス最古の競馬場で、臨時とはいえ、凱旋門賞を行うにふさわしい舞台だ。ちなみに、当時の開催を告知するポスターが馬の博物館に残されている。

凱旋門賞には今年も日本調教馬が挑戦した。遡ること約半世紀、凱旋門賞に日本調教馬が初めて挑んだのは1969年だった。野平祐二騎手(故人)を背に、天皇賞馬スピードシンボリが勇躍、渡仏し、競馬先進国に挑戦した。結果は着外(11着以下の公式記録を残さなかった)だったが、当時はまだ日本人の年間海外渡航者数が50万人にも満たない時代で、1600万人を超している現在と比べると、海外へ行くことだけでも大変な時代だった。ましてや競走馬を連れて、体調を維持して好成績を収めるのがどれほど困難なことかは想像に難くない。

15着に終わったサトノダイヤモンド(9)と、16着のサトノノブレス(10)=共同

しかし、その後の半世紀で日本の競馬は長足の進歩を遂げた。昨年まで凱旋門賞に出走した日本調教馬はスピードシンボリを含めて延べ20頭。99年にはエルコンドルパサーが2着になり、2010年にナカヤマフェスタ、12、13年にオルフェーヴルも2着。勝利まであと一歩のところに来たのだ。

今年、日本競馬界の悲願達成を目指してフランスに遠征したのは、昨年の最優秀3歳牡馬で、菊花賞と有馬記念を勝っているサトノダイヤモンド(牡4歳)、重賞を4勝もしている古豪サトノノブレス(牡7歳)の2頭。12、13年に2着に入ったオルフェーヴルを管理していた池江泰寿調教師の管理馬で、馬主はセガサミーホールディングス会長兼最高経営責任者(CEO)の里見治氏。サトノダイヤモンドに騎乗するのは、中央競馬の免許を取得したフランス出身のクリストフ・ルメール騎手。サトノノブレスに騎乗するのは、昨年の日本ダービーを勝った川田将雅騎手。役者はそろった。

ただ、レース前から指摘されていたのは「馬場」についてだった。日本の競馬場の芝コースは、路盤を含めて丁寧に管理されており、常に平らで生えそろった状態が維持されている。ところが、欧州の競馬場の芝は自然に任せている場合が多く、芝の密度は均一でなく、多少の凸凹は放置してあることが多い。そんな自然の馬場にひとたび雨が降ると、日本の競走馬が経験したことがないような、軟弱でパワーを必要とする馬場になってしまうのだ。

ペネトロメーターで馬場を測定。テレビカメラが間近で追う

もちろん、そうした馬場に合わせた調教を繰り返して挑むのだが、今年の2頭の場合は馬場適性に関する不安が払拭されないまま、本番を迎えることになってしまった。今秋のシャンティイは雨が多く、連日傘が必要だった。凱旋門賞の2日前の夜にまとまった雨が降り、前日は少し晴れ間もみえたが、レース当日の午前中は小雨。昼を過ぎて雨は上がったものの、軟らかくて重い馬場で本番を迎えてしまった。

フランスではペネトロメーターという機械を使って馬場の軟弱さを判定する。円すい形の重りを落として、地面に何センチ食い込んだかで判定するという、極めて原始的な方法なのだが、この数値が3.6。現地の表記は「Souple」。日本では重馬場に区別される値で、日本勢にとっては厳しい状況となってしまった。

さて、昨年から指定されたレースに限って、日本国内で海外の大レースの馬券を買えるようになった。今年も日本国内で凱旋門賞の馬券が発売され、もちろん注目を集めた。その公式実況の大役を背負ってフランス入りした私たちが与えられた実況席は、ゴールから相当に離れたプレハブ小屋。それでも現地の熱気や緊張感、レースの迫力を伝えられればと思い、双眼鏡と服色表を手に実況に臨んだ。

エネイブルの強さに圧倒される

レースは注目を集めた英国の3歳牝馬エネイブルが、すんなりと外目の3番手で運び、残り400メートル付近で抜け出して圧勝。残る17頭を全く寄せつけないレースぶりで、実況しながら圧倒されてしまった。サトノダイヤモンドは15着、サトノノブレスは16着。競馬はコースコンディションなどの環境によって結果は大きく左右されるので、同じ芝2400メートルのレースであっても、日本と欧州では違う競技であると考えるべきで、決してこの着順が実力ではない。

日本での馬券発売額は実に34億円余り。地元フランスの場外発売公社(PMU)の売り上げが20億円に満たないことを考えれば、驚きの数字だ。発走時刻が日本の午後11時すぎと遅かったにもかかわらず、日本のファンはインターネットを駆使して情報を集め、遠いフランス競馬の馬券を購入していた。日本の競馬ファンの分析力は既に凱旋門賞を制しているとも思える。その証拠に勝ったエネイブルの日本での単勝オッズは1.8倍。断然の1番人気だったのだ。

伝える側も走らせる側も、早く誇れる競馬ファンに追いつかなければ――。そんなことを考えさせられる凱旋門賞だった。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 舩山陽司)

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