米・トルコ亀裂深まる 地域安保の火種に
米職員拘束でビザ停止応酬

2017/10/10 21:00 (2017/10/11 1:02更新)
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【イスタンブール=佐野彰洋】米国とトルコの亀裂が深まっている。在トルコ米総領事館職員の拘束をきっかけに両国は8日、ビザ(査証)発給を相互に停止。シリア情勢などを巡る相互不信の蓄積がビジネスや観光の往来を制限する異例の事態に発展した。トルコの対米強硬姿勢は経済の混乱を招くばかりか、中東の安全保障にも影を落とす。

「米大使をもはや米国代表とはみなさない」。トルコのエルドアン大統領は10日、外遊先のベオグラードで米外交当局への不満を爆発させた。アフガニスタン大使に転じるバス大使の離任に際し、自身や閣僚が面会要請に応じていないことも明らかにした。

9日のトルコ市場では、米とのビザ発給相互停止の悪影響懸念から、通貨リラ、株式、債券がそろって売られトリプル安となった。航空大手ターキッシュエアラインズの株価は6日終値に比べ約9%安と急落。10日は通貨などがやや値を戻したが、9日の下げを埋められていない。

今回の外交危機の直接の引き金は4日、昨夏にトルコで起きたクーデター未遂事件に関連した捜査で、在イスタンブール米総領事館のトルコ人職員が拘束されたことだ。

これを受け、在トルコ米大使館は8日「米国公館と職員の安全に対するトルコ政府の責務の見直しを余儀なくされた」として、トルコ国内での永住目的の移住を除く全てのビザ発給業務の停止を発表した。

同日、在米トルコ大使館も米側の声明をほぼ一語一句なぞる形で同様の対抗措置を発表した。過去に発給され、現在も有効なビザの保持者を除く両国民は観光、商用、留学目的などでの往来ができない事態に陥った。

両国は相互に不信を募らせ、関係が険悪になっていた。トルコは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討でシリアのクルド人勢力を支援する米国に猛反発。クーデター未遂事件の首謀者とみる在米イスラム教指導者ギュレン師の送還が実現しないことへの反発もくすぶっていた。

クーデター未遂事件後、トルコ当局は南部アダナの米領事館のトルコ人職員、米国人牧師らを相次ぎ拘束しており、エルドアン氏は9月、牧師とギュレン師の交換に言及した。

こうした言動は米政府には自国民や領事館職員が「人質」にとられていると映る。さらに今年5月のエルドアン氏訪米時に随行の護衛が反エルドアンデモの参加者に暴行を加えた事件が広く報道され、米議会の対トルコ感情が大幅に悪化していた。米側は忍耐が限界に達していたとの見方もある。

米国との対立深刻化によるトルコの通貨安は、物価上昇や経常赤字の拡大に直結し、国民生活にも悪影響を及ぼす。それでもエルドアン氏が対米強硬姿勢を貫くのは2019年の次期大統領選に向けた再選戦略のためだ。

支持基盤の保守層や票の上積みのため無視できないナショナリスト票は反米色が濃い。「米国はギュレン師をかくまっている」と考える有権者も多い。イスタンブールのカディル・ハス大学のアフメット・カスム・ハン准教授は「世論の手前、弱腰とみられる譲歩は難しい」と指摘する。

シリア内戦への対応など地域の安全保障の火種になる可能性もある。米とトルコは北大西洋条約機構(NATO)同盟国だが、関係悪化はトルコのロシアやイランへの接近を後押しする要因となる。トルコはロシアから最新鋭対空ミサイルシステムS400の購入を推進、米国は懸念を表明している。

対立が一段と深まれば、米を含むNATO各国の軍隊が駐留し、対IS空爆の拠点ともなっているトルコ南部インジルリク空軍基地の使用継続の是非が持ち上がる可能性もある。

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