ホールフーズ買収は序章 アマゾンがAIで販路改革
米アマゾン・ドット・コムは食品スーパーの未来について壮大なプランを持っている。同社が米食品スーパーのホールフーズ・マーケットを買収したのは、消費者の食品の買い方をネット通販においても変える準備を進めている証拠だ。最近始めたコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」のように、将来はホールフーズやアマゾンのサービス全般に人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」が導入されるだろう。
アマゾンが目標にしているとみられる完全無人スーパーでは、同社の得意技である「実店舗のみだった商取引のデジタル化」が活用されている。アマゾンが食品スーパーのイノベーション(技術革新)を進めるのなら、この分野の可能性は無限に広がりそうだ。

AIとIoTの融合
アマゾン・ゴーではIoTセンサーとバックエンド技術を使い、貴重な顧客データを大量に生み出す。このデータを処理し、有効活用するにはAIが必要になる。AIのアルゴリズムはデータを検索し、一般的な消費者が牛乳1パックをどのくらいで飲み終えるかといった知見を引き出す。天候で消費者の行動がどれくらい変わるかといった曖昧な洞察も可能だ。こうした知見に基づき、アマゾンはボットなどの自動システムを使って顧客にもっと効果的なサービスを提供できるようになる。
「アレクサ(音声アシスタント)」「エコー(AIスピーカー)」「ダッシュ(食品などを注文できる小型端末)」といったアマゾンの家庭用IoT製品とも緊密に連携するだろう。アマゾンが確立したエコシステム(生態系)はますます拡大しており、今回の買収でも有効活用される。アレクサにおいしいパスタ料理のレシピを尋ねると、アレクサのAIはこの情報を保存する。こうしてスマートホーム機器はホールフーズの商品の販路になる。アマゾンは今回の買収をきっかけに、AIで個人や集団の行動の理解を深める他のハイテク販路への投資を進めるだろう。
商品に基づく知見
AIを使えば生鮮食品の新たなサービスや収益源も開拓できる。AIを生かした興味深いサービスの一つは、生産地や輸送時間、配送温度など、購入した食品のより詳細な履歴の提供だ。
こうした問いに答えることは、健康志向が強い買い物客にとってメリットになる上に、アマゾンにとってさらに価値がある。AIが賞味期限を弾力的に定めたり、買い物客の履歴に応じて商品の価格を決めたりできるようになるからだ。賞味期限が近づけば価格を変えることもできる。
顧客の行動を追跡
AIの導入で顧客の行動も追跡できるようになる。これは既にポイントカードで実施されているが、データ収集のプロセスが大きく変わる可能性がある。さらに、正確な追跡により、ビーコンや仮想フェンス(境界)を設定する「ジオフェンス」、画像認識などのIoT技術を使って店内や店の近くにいる顧客に個別のオススメ情報を提供できるようになる。
様々な外部データを駆使して実店舗が完全にネットにつながるなか、ライバルも生き残りをかけた技術革新を迫られる。2~3年後には、食品スーパーでのIoT機器やデータ収集、ボット活用、データ分析はますます盛んになるだろう。
食品購入の未来
アマゾンは様々な業界を根底から覆してきた。書籍から始まってクラウドサービスに移り、今度は食品購入の未来を変えようとしている。同社が変革した業界の大半は、実店舗しかない分野だった。だが、今後はあらゆる業界でデジタルとリアルの融合が進むだろう。
これは始まりにすぎない。AIはIoT機器で集めたデータを使って進化を促し、ビジネス手法や働き方、暮らしぶりを変える。業界は瞬く間に激変するだろう。アマゾンのホールフーズ買収は最新の一例にすぎない。
By Phis Dawsey (法人向けIoTプラットフォーム、米インフィスイフトのマーケティング部門トップ)
(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)