2019年6月21日(金)

苦節15年で大ヒット、シワ取り元年 ポーラ拓く

2017/10/14 6:30
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ポーラ・オルビスホールディングス(HD)が1月に売り出した美容液が売れ続けている。研究開始から約15年。独自成分を配合し、国内で初めて「シワ改善」をはっきりアピールできるようになった。化粧品に多い「情緒」ではなく「機能」が中高年女性の心をつかむ。強力な販売力を背景に国内4位となったポーラHDが、技術という新たなキーワードでも成長を目指す。

「いまは2本目を使っているけど、やはりシワが浅くなったみたい。気分も明るくなるわ」――。6日、東京・銀座の「ポーラ ザ ビューティー 銀座店」を訪れた70代の女性は満足げだ。同店の美容部員も「曖昧な言い方ではなく、しっかりと機能を伝えられるので自信を持って接客できる」と話す。

「シワを改善する効果のある薬用美容液」。ポーラHD傘下のポーラが販売する「リンクルショット メディカル セラム」の外箱には商品の機能がはっきりと書かれている。シワは中高年女性の典型的な肌の悩み。しかし、これまでの化粧品は「乾燥による小ジワを目立たなくする」といった表現までしか許されていなかった。

これに対してリンクルショットは厚生労働省の承認を得た医薬部外品。改善効果を明確に訴えられる。価格は1本1万6200円。美容液としても安くはないが、発売から6カ月間の売り上げは約87億円。初年度目標も100億円から125億円に上方修正した。

リンクルショットは20グラム入りで、普通に使えば2カ月程度で使い切る。新製品は試し買いも多いが、「効果を実感して継続的に購入してくれている顧客が多く、好調なペースが続いている」。利益貢献度も高い。ポーラHDの2017年12月期の連結純利益は前期比36%増の238億円と過去最高を見込んでいる。

今年の化粧品業界の最大のヒット商品となりつつあるリンクルショットだが、誕生までの道は平たんでは無かった。

■「もうダメかもしれない」

「もうダメかもしれない」。ポーラがシワ改善化粧品の開発に着手したのは02年。研究チームを率いるポーラ化成工業の末延則子さんは何度も挫折しかけた。4人のチーム員がまず手掛けたのはシワがある肌とない肌は何が違うのかをつきとめることだった。「2年半、顕微鏡をのぞき続けた」

わかったのが紫外線などで微弱な炎症が起きた場所で分泌される酵素である「好中球エラスターゼ」の存在だった。これが肌のハリに必要な「コラーゲン」や「エラスチン」などの真皮成分を分解していたのだ。年を取ると肌が生まれ変わるスピードが遅くなるため、生まれたシワが定着しやすくなる。

この働きを抑えればシワを減らせると考えた末延さんらは、食品や医薬品に使われている約5400種類の素材を収集。1年かけてリンクルショットの成分である「ニールワン」を見つけ出した。ニールワンは好中球エラスターゼと合体して真皮成分の分解を抑制する。

試験では12週間の使用で目尻などのシワの深さが7割の人で浅くなった。一般的にシワは深い状態で100~200マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの深さがあるとされるが、12週間使うと平均で約13マイクロメートル浅くなったという。

ただ、ニールワンは水となじみやすく、水をベースにつくるスキンケアでは分解して溶けてしまう。溶けない処方を見つけるために研究所や医師らを訪ねる日々が始まった。開発を始めてから4年。社内の一部からは「もうやめるときだ」といった声もあがってきた。

■突破口はミントアイス

突破口は研究チームのメンバーが食べていたチョコミントアイスだった。チョコチップが溶けていない状態でアイスのなかに練り込まれていた。「このチョコとアイスのように、水分を含んでいない基剤にニールワンを練り込めばいいのではないか」。クリーム状になるように混ぜると、驚くほどうまくいった。

ところが、技術的なメドがついても、厚労省の承認という壁が立ちはだかる。まったく新しい成分だけにもともと審査には慎重さが求められるうえ、13年に起きたカネボウ化粧品の「白斑問題」で一段と厳しくなったと関係者は話す。

チームは安全性を示すデータの収集に奔走。結局、医薬部外品としての申請から認可までに「通常の2倍の8年かかった」(末延さん)。発売当初から高い支持を集めたことには「チーム全員で泣いた」という。

ただ、他社も黙ってはいない。資生堂も6月、リンクルショットと同様に「シワ改善」を明記できる商品を主力ブランドの「エリクシール」から発売した。長く基礎研究を続けてきた「純粋レチノール」を配合。15グラム入りで価格は6000円前後とポーラの約半額だ。

こちらも発売1カ月で約68万個を出荷。年内の販売目標は100万個だが、120万個以上に達する見通し。薬用化粧品の分野ではコーセーなども開発を進めているもようだ。

ライバルと比べてポーラの研究開発体制は見劣りする。1000人規模の研究人員を抱える資生堂に対して、ポーラ化成は100人強に過ぎない。それでも、ポーラの横手喜一社長は「積極的に研究開発に投資し、売上高比率も2%以上に高める」と意気込む。

ポーラHDは20年までの経営計画で「スキンケア領域にリソースを集中した研究開発力」を生かすとする。「シワ改善」の分野で競合が激しくなっても、ポーラにはニールワンが独自素材だという強みがある。

今後もニールワンを活用して新たな医薬部外品の商品を開発していく計画。横手社長は「化粧品だけでなくサプリメントなどに使える可能性もある」と期待を込める。

■海外展開の切り札にも

ポーラHDの強みの一つは顧客と直接結びついているという販売力だとされてきた。現在も全国に約4600の販売店を展開し、「ビューティーディレクター」と呼ぶ4万人超の委託販売員のネットワークを持つ。ポーラ=訪販というイメージは現在も強い。

しかし、女性の社会進出に伴う在宅率の低下などで訪販というビジネスモデルそのものを取り巻く環境は厳しい。ドラッグストアやネット通販など化粧品の販路も様変わりした。1990年代前半には売り上げの8~9割を占めていた従来型の訪販比率は現在では1割強に低下している。

それでは資生堂やコーセー、花王といったライバルとどう戦うのか。リンクルショットはまさにポーラが抱える悩みに応えた商品だ。ポーラの横手社長も「機能をアピールできるようになったことで、これまで我々に接点がなかった顧客にもアプローチできる」と強調する。

少子高齢化で国内市場の伸びが見込みにくいなか、大手化粧品各社は争うように海外市場の開拓に力を入れている。ポーラHDも現在は8%台にとどまる海外売上高比率を20年に20%にする目標を掲げる。海外ブランドの買収にも積極的だが、中国事業の不振などから思うような成果は上がっていない。

一方、シワは万国共通の女性の悩み。東京・銀座の店舗ではリンクルショットを手に取る中国人らの姿も目立つ。海外でも効果をアピールできように準備を進めており、19年にはアジアで販売を始めたい考え。「シワ改善」を国内販売に偏った自らの「体質改善」にもつなげようとしている。

(企業報道部 柴田奈々)

[日経産業新聞 2017年10月9日付]

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