今年のノーベル物理学賞、重力波観測 新しい天文学切り開く

2017/10/7 19:00
共有
保存
印刷
その他

 2017年のノーベル物理学賞はアインシュタインが予言した重力波を初めて直接観測した国際チームを率いた3人の米国人研究者に贈られる。観測成功から2年、成果発表から1年半あまりのスピード受賞だ。生理学・医学賞は体内時計を生み出す遺伝子の発見、化学賞はたんぱく質など生体分子の構造を高解像度で観察できる極低温(クライオ)電子顕微鏡の開発が受賞テーマになった。日本人研究者の4年連続受賞はならなかった。

 「まったく新しく、これまで見たことのない世界を切り開いた」。ノーベル物理学賞の選考委員会は授賞業績である米国の観測施設「LIGO(ライゴ)」による重力波の初観測の意義についてこうコメントした。「世界」は「宇宙」と言い換えられる。夜空にはたくさんの星々が輝いているが、それは光で見た宇宙の姿だ。重力波を観測できたら、まったく違った光景が立ち現れてくる。

 重力波で宇宙を見ることは天文学者の長年の夢だった。それがLIGOによって実現し、「重力波天文学」という新領域が切り開かれた。

 重力波はアインシュタインが1916年、一般相対性理論に基づいて予言した。同理論によれば、重い天体の近くでは光がまっすぐに進まず、時間がゆっくりと進む。強烈な重力のため、周囲の空間がゆがみ、時間の進み方が遅くなるからだ。天体が揺れ動けば空間のゆがみもつられて揺れ動き、周囲に波のように伝わる。これが重力波だ。

 ただ重力波の観測は困難を極めた。重力波がもたらす空間の伸び縮みは地球と太陽の距離(約1億5000万キロメートル)が水素原子1個分変化する程度だからだ。それがアインシュタインの予言から100年間の技術進歩と研究者の創意工夫により実現した。

 LIGOの施設は米ワシントン州とルイジアナ州の2カ所にあり、一辺4キロメートルの長大なパイプをL字形に組み合わせた構造。重力波が到来すると、約3000キロメートル離れた両施設でほぼ同時に、同じ振動パターンでパイプが伸び縮みするので、レーザー光で精度よく検出する。

 この仕組みを考案したのが、米マサチューセッツ工科大学のレイナー・ワイス名誉教授だ。物理学賞の授賞が発表された直後の記者会見で「アインシュタインが生きていたらきっと喜んでくれただろう」と語った。

 ワイス氏の基本プランをもとに、1000人を超える研究チームを率い、この巨大施設を完成に導いたのが共同受賞者の米カリフォルニア工科大学のバリー・バリッシュ名誉教授だ。かつて、米テキサス州の地下に一周約90キロメートルのリング状トンネルを掘り、加速器という実験装置を建設する巨大プロジェクトを率いていた。ところが米政府の財政難で計画が中止、請われてLIGOのリーダーとなった。

 もう1人の共同受賞者で、カリフォルニア工科大学のキップ・ソーン名誉教授は重力理論の大家だ。どんな天体現象でどのような重力波が放出されるのか深く研究し、LIGOを理論面で支えた。最初に捉えた重力波が約13億年前に2つのブラックホールが合体する際に生じたものであることがすぐにわかったのも、ソーン氏を中心とする理論グループの成果だ。

 LIGOはこれまで4回、重力波を観測しており、いずれもブラックホール同士の合体で生じたものだ。中性子星という超高密度の星同士の合体や、中性子星とブラックホールの合体、星の大爆発などの際に生じる重力波も捉えることができる。いずれも宇宙の進化を解明するうえで重要な天体現象だ。

 重力波観測装置の整備は日欧でも進む。今夏、イタリアのピサ近郊で「Virgo(バーゴ)」が本格稼働した。LIGOと同じ構造でパイプの長さは3キロメートル。LIGOが捉えた4回目の重力波を同時観測した。

 日本の施設は神岡鉱山(岐阜県飛騨市)にある「KAGRA(かぐら)」。規模はVirgoと同じだが、地下にあるので、重力波検出の邪魔になる車や工場などによる人工的な振動がない。2019年にも本格稼働する。米欧の施設と連携することで、初めて全天をカバーする重力波の観測体制が完成する。

 次世代プロジェクトの準備も各国で始まっている。人工衛星を使って宇宙で重力波を観測する構想だ。地上では捉えることができない宇宙誕生直後に生じた「原始重力波」の検出が最終目標だ。重力波天文学は今後、大きく発展すると期待されている。(中島林彦)

科学&新技術をMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップ

【PR】

【PR】



日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報