「不安定な時代に文学の力を」 カズオ・イシグロ氏
【ロンドン=小滝麻理子】2017年のノーベル文学賞の受賞が決まった英国人作家、カズオ・イシグロ氏(62)は5日、ロンドン市内で記者会見した。イシグロ氏は「価値観や(政治などの)指導力が不安定な時代。文学が少しでも何か道を探すことにつながればと思っている」と語った。
受賞決定は自宅の台所の机でメールを書いているときに知ったという。「はやっているのでフェイクニュース(偽のニュース)なのかと思った。BBCからの連絡を受けて本当だと思った」と話し、笑いを誘った。12月にストックホルムで開かれる授与式には「ぜひ参加したい」とほほ笑んだ。
昨年6月に決まった英国の欧州連合(EU)離脱については、移民や多様性を否定しかねない面を批判していた。「自由民主主義が揺らぐような出来事が増えている。作家として私の役割は、一歩引いて、普通の人々と権力の関係、個人間の責任などについて考察することだ」と語った。
イシグロ氏は「誰もが忙しい日常を送っている。自分の小さな生活における責任がどう始まり、どう終わるのか。考えることを全くしなくなれば、いつか大きな事故が起きてしまう」と語った。
長崎市で生まれ、5歳まで日本で育った。自身のアイデンティティーについては「明確な答えはない。英国の作家や日本の作家であることがどういう意味かもわからない。いつもただのひとりの個人として書こうとつとめてきた」と語った。
その上で「日本の読者、そして日本の社会全体に感謝している。書き方やものの見方など多くの部分で日本文化の影響を受けた」と発言。作家の川端康成や大江健三郎の名を挙げ、「彼らの足跡に続くことができることを感謝している」と述べた。