2017年11月22日(水)

欧州改革 旗振るフランス;マクロン氏を過小評価するな

コラム(国際・アジア)
ヨーロッパ
The Economist
(1/2ページ)
2017/10/4 6:30
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The Economist

 欧州のリーダーは誰か。年初は答えが明らかだった。英国は欧州連合(EU)からの離脱を決めていた。イタリアは銀行の多額の不良債権にあえいでいた。フランスも経済が停滞していた。加えて、トランプ氏のような排外主義の大統領が米国だけでなく自分たちの国にも誕生するのではという不安も広がっていた。そうしたなか、着実に4選への道を歩み続けていたのがドイツのメルケル首相だった。

 ところが、ここにきて状況が一変した。メルケル氏率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は9月24日の連邦議会選挙で勝利したものの、得票数と議席数を大幅に減らし、同氏の影響力は弱まった。直面するのは自由民主党(FDP)、緑の党との連立を探る何カ月もかかる困難な交渉だ。

 難民やイスラムの排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」には約600万票が集まった。社会の混乱や分断をもたらすAfDは選挙前は議席がなかったが、今や第3党だ。

マクロン氏がEU改革で主導的役割を果たせるかどうかは国内改革の成否にもかかっている=ロイター

マクロン氏がEU改革で主導的役割を果たせるかどうかは国内改革の成否にもかかっている=ロイター

 一方、ライン川をはさみドイツの西に位置するフランスでは、自ら立ち上げた新党「共和国前進」が国民議会で過半数を押さえ、マクロン大統領が野心に燃えている。9月26日にはEU統合深化策を発表し、脚光を浴びた。ここ10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否かは同氏の欧州政策次第といえるし、長年、不可能と思われてきたフランスの国内改革の成否にもかかっている。

■仁義なき闘いをやめさせたい

 欧州政策に関しては、マクロン氏は26日の演説で、各国共通の防衛予算や急進的な技術革新を担う専門機関の創設などを主張し、ユーロ圏強化に向けて熱弁を振るった。同氏が欧州の変革を担う知的指導者の役割を果たそうとしているのは、ある意味でフランスの伝統に合致する。

 これに加え、マクロン氏は域内への輸入品に炭素税を課すことや、域外IT(情報技術)企業のタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れを阻止するため、利益を上げた国で課税する必要性を力説。法人税率を統一し、低賃金や劣悪な労働条件で生産された商品を安く輸出するソーシャルダンピングの徹底した取り締まりも訴えた。これらも長年、加盟国同士の「仁義なき闘い」をやめさせようとしてきたフランスの行動原理に沿うものだ。

 とはいえ、マクロン氏は旧来の規制の多いディリジズム(統制経済)を大きく変えようとしている。それを証明するかのように9月下旬、高速鉄道車両で高い技術力を持つ仏アルストムが同業の独シーメンスと鉄道事業を統合することを認めた。統合後はアルストムに政府の影響が及ばなくなりそうなことも考慮に入れているはずだ。

 マクロン氏の狙いはポピュリズム(大衆迎合主義)の抑え込みだ。雇用の安定に力を入れることで労働者に技術革新を受け入れても仕事がなくならないことを示し、失業不安を和らげようとしている。

■独首相の隣に立つ脇役

 演説でマクロン氏は、IT分野での技術革新の重要性に言及すると同時に、各国の規制を取り除いてデジタル経済の潜在成長力の向上を狙う「デジタル市場の完全統合」も掲げた。ユーロ圏改革が実現すれば、欧州は新たな金融危機への備えをより確かなものにできるはずだ。

 マクロン氏の提案が真価を発揮するかは欧州が今より野心的で外に開かれ、自信にあふれた共同体になるか、保護主義の要塞のようになるかで決まる。もっとも同氏が国内改革で成功しなければ、提案は一顧だにされないだろう。フランスがEUの力の源泉ではなく経済の安定を脅かす存在であり続ければ、大統領はドイツの首相の隣に立つ脇役にしかなれないからだ。

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