津田大介、eスポーツに興味津々 世界で花開く3要素

「eスポーツ」が世界的に盛り上がりをみせている。欧米や中国、韓国ではプロフェッショナルな競技として盛んで、ある世界大会では賞金総額が2000万ドル(約22億円)に上ったほどだ。ここに莫大な広告費や協賛金が流れ込み、2016年の市場規模は9億ドル(約1000億円)近くに達したというリポートもある。だが、日本にいるとその熱気はなかなか伝わってこない。そこで東京ゲームショウ2017を取材し、eスポーツが盛り上がっている理由を探ってみた。その結果、見えてきたのは、eスポーツを花咲かせた3つの要素だ。

見えてきたeスポーツ3つのトレンド
まずe(エレクトロニック)スポーツとは何かを簡単に説明しよう。
プレーヤーは1対1か、複数人のチームが格闘ゲームなどで対戦する。オンラインゲームだから物理的に同じ場所にいる必要は必ずしもないのだが、大会やイベントではプレーヤーと観客が一堂に会して盛り上がる。スキルを磨いたプレーヤー同士の対戦の模様はネットでも配信され、それを会場の観客と世界中の視聴者が見る。
つまり、ある競技場でハイレベルの試合が開催され、それを会場やテレビで見ている人が応援するという、実際のスポーツとまったく同じ構図が出来上がるわけだ。
今年の東京ゲームショウの基調講演は「日本におけるe-Sportsの可能性」だった。eスポーツの識者4人が登壇したが、興味深かったのはオランダのNEWZOOという会社でマーケットアナリストを務めるPieter van den Heuvel氏の話だ。同社はeスポーツの調査会社で、ゲームタイトルの開発も手掛けている。彼のスピーチのおかげで、eスポーツを巡って大きなトレンドがあることがわかった。

まず、ワーナーや騰訊控股(テンセント)などメディア企業がeスポーツ業界に参入する動きが続いていることだ。2014年にはゲーム実況配信のTwitchをAmazonが9億7000万ドル(約1000億円)で買収している。それだけeスポーツへの期待値が上がっているということだろう。
次に、ゲーム業界のマネタイズのチャンスが広がっていること。今まではゲームタイトルを売ってプレーヤーからお金を取るというモデルだったが、eスポーツが盛り上がることで、対戦を見ている人からも金を取れるようになった。これはビジネスチャンスが大きく広がったことになる。
3つ目のトレンドは、eスポーツにはパソコンだけでなくプレイステーションやXboxなどゲーム専用機(コンソールゲーム機)もどんどん参入してきているということだ。スマートフォン(スマホ)で対戦するというeスポーツも考えられるだろう。これらの動きもeスポーツをさらに盛り上げることになりそうだ。

日本でも伸びるPCゲーム
海外のゲーム事情をさらに探るために、ゲーミングパソコン最大手のデルにも話を聞いてみた。答えてくれたのは同社マーケティングマネージャーの柳沢真吾氏だ。
「海外ではPCゲームがすごく発展しています。日本では据え置きのプレイステーションなどゲーム専用機とパソコンゲームのシェアが7対3くらいなのに対し、海外では半々か、場合によってはパソコンのほうが多いくらいです。日本市場でも今、ゲーミングパソコンの動きが良くなってきました。パソコンの市場が緩やかに縮小しているなかで、ゲーミングパソコンは成長率こそ1桁台ですがここ2~3年で伸びています。そこで我々も、10年前から展開しているハイエンドのプレミアムブランド『ALIENWARE』に加え、昨年からはミドルエンドやカジュアルゲーマー向けにデルブランドのゲーミングパソコンを出して、二面態勢で幅広いゲーマーに対してアプローチしています」
確かに、パソコンならネットにつながっているのが当たり前なので、eスポーツに対する親和性はコンソールより高いのかもしれない。ゲーミングパソコンはビジネス用パソコンより高価だが、eスポーツのような対戦ゲームにハイスペック機が求められるのはよく理解できる。柳沢氏はまた、ゲームメーカーの戦略の変化もあると指摘する。
「一つのタイトルをコンソールゲーム機向けだけ出すというのが、これまでの日本メーカーの特徴でした。一方、海外のゲームメーカーはマーケットが大きいパソコンを取らないとまったく意味がないので、みんな最初からコンソール版とパソコン版を同時発売します。そんな海外タイトルのやり方が日本にもだんだんなじんできたんです。日本でも、スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーシリーズ』みたいに、海外を取りたいタイトルはパソコン版が同時発売になっている。最近はそういう流れがだんだん増えていて、コナミの『メタルギアソリッド』やカプコンの『ストリートファイター』など、ワールドワイドに通用するタイトルはパソコン版の同時発売が欠かせなくなってきています」
スマホを除くと頭打ちになっているゲーム市場で、日本のメーカーもパソコンゲームに活路を見いだしているということだろう。

eスポーツがブレークした3つの要素
取材を進めてきて、次第に像を結んできたイメージがある。
1980年代や90年代にもゲームのうまい人を集めた大会があった。でもそれは一部のゲーム好き向けで、クローズドなものだった。
それが大きく変わってオープンになった潮目は、やはりインターネットの普及なのではないか。以前と違って、ライブストリーミングで中継すれば、その場にいなくても世界中の人たちが見ることができる。その結果、プレーヤーたちは大きな注目を集めることになり、人気プレーヤーが生まれる。ファンになった人たちがTwitterやFacebookのようなソーシャルメディアを使い応援することで、プレーヤーの人気はさらに大きくなる。
「ゲーム」「ライブストリーミング」、そして「ソーシャルメディア」という3つが重なったことによって、今のeスポーツの活況につながったと考えれば納得がいく。
前出・NEWZOOのCEO兼共同創業者であるPeter Warman氏にもインタビューできたので、この認識が正しいかどうかを聞いてみた。
「そうですね、それらが一つになってゲームの発展を助けています。かつてプレーヤーと視聴者はバラバラに離れていましたが、ライブストリーミングによってすべてがつながり、その最上位にeスポーツのプロフェッショナルのレイヤー(階層)がある。これは完全に新しいエコシステムです」
Warman氏は、eスポーツはゲームの世界にとどまらない可能性を持つとも語る。
「eスポーツやゲームは、将来のメディアの可能性を私たちに示しています。それはインタラクティブなメディアです。マインクラフトのようなゲームなら自分自身のコンテンツを簡単に作ることができます。彼らが作ったものはインターネットを通じてほかの消費者が簡単に見ることができる。プロフェッショナルのレイヤーには、さらにライブイベントもあります。ビューイング、クリエーション、インタラクティブ――このエンタテインメントのフルパッケージは、他のメディアが太刀打ちできるものではありません。若い世代にとって、eスポーツやゲームはメディアのあるべき姿だ、ということになるでしょう」

プレーを録画して配信するという機能がゲームに組み込まれたことで、ゲームをプレーすることがコンテンツになった。うまいプレーを名人芸として見せる「eスポーツ」や、エンタメとしてゲームを楽しませる「ゲーム実況」が成立するようになったのだ。さらに、それを見ている人がソーシャルメディアなどを通じて横方向でもつながって、コミュニティーが出来上がっていく。それこそがWarman氏の言う「エコシステム」なのだと思う。
これと同じ構図は、インターネットの普及に伴い、音楽やテレビなどの世界でも生まれているが、ゲーム業界は、この仕組みをかなり意識的に取り込んだ印象がある。芸術、娯楽としては後発のゲームだからこそ、柔軟に対応できたということなのだろう。その結果として、現在のeスポーツの世界的な盛り上がりが生まれたというわけだ。
eスポーツとオリンピック、異なる2つの意見
基調講演の質疑応答で気になったトピックについても、Warman氏に尋ねてみた。「eスポーツが認知されていったら、いずれリアルなスポーツの大会のようにオリンピックに組み込まれるのではないか」というテーマだ。しかし、eスポーツのオリンピック参加について、パネリストたちは意外にも消極的のように見えた。それはなぜなのだろう。
「ビジネスピープルはオリンピック参加について100%積極的です。eスポーツの信頼感を高め、スポンサー企業を見つけやすくなりますからね。一方、ゲーマーの側からすると、オリンピックは商業主義すぎるという見方をしていて、自分たちの世界ではないと感じるのです。ビジネスピープルとゲーマー双方の好みがバランスするところが見つかれば理想的ですが、それは難しいかもしれません」
eスポーツだけの世界的なオリンピックが開かれて、それが実際のオリンピックと1年ずれて4年ごとに開催されても面白いと思ったのだが、どうだろう。
「おそらく、その通りですね。特に最初はそのほうがより良いフォーマットです。それでうまくいくかどうか、eスポーツとオリンピックがどう一緒に機能するかを見てみる。とてもいいアイデアだと思います」
今回は東京ゲームショウ2017を取材し、eスポーツが海外でブレークした理由を探った。ゲームを取り巻く世界の変化を象徴する、その最先端がeスポーツなのだと強く感じた。次回は日本国内のeスポーツの状況について、eスポーツのプロフェッショナルチームであるDeToNator代表の江尻勝氏に話を聞く。そこから日本におけるeスポーツの問題と未来が見えてきた。[記事「津田大介 eスポーツ、飛躍の鍵は『成功の逆輸入』」参照]
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
(編集協力 島田恵寿=コンテクスト、写真 吉村永)
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