山下智久VS新垣結衣 ついていきたいリーダー像は?
山下智久さんが主演を務めたドラマ『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』の最終回の平均視聴率が16.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今シリーズの最高を記録して終了しました。

『コード・ブルー』は、2008年7月にスタートし、翌09年1月にスペシャル版、10年1月に「SECOND SEAZON」が放送された人気シリーズ。ドクターヘリで救助に向かうフライトドクターたちが、目の前の命と真摯に向き合う姿を描いた物語です。
誰もが憂鬱になりがちな週初の月曜日。「今日を頑張れば、夜にはコード・ブルーを見ることができる!」と自分を鼓舞し、ドラマを見た後の火曜日の朝からは「自分もいろいろあるけれど前進していこう!」と、励まされながら一週間を過ごしていた方も少なからずいたことでしょう。
『コード・ブルー』の舞台は翔陽大学附属北部病院救命救急センター。主な登場人物は、フライトドクターのフェロー(後期臨床研修医)課程を卒業後、同病院の脳外科でスキルアップしてきた藍沢耕作(山下智久)、救命救急センターのスタッフリーダーとして勤務している白石恵(新垣結衣)、青南周産期医療センターの産婦人科から再び救命救急センターに戻ってきた緋山美帆子(戸田恵梨香)、臆病な性格を克服しフライトドクターとして活躍する藤川一男(浅利陽介)、エースのフライトナースとして責務を全うする冴島はるか(比嘉愛未)ら5人となります。
THIRD SEASONからは、これらのメンバーに新人のフェロー3人と看護師が加わりました。
指導医としての葛藤を描く
SECOND SEASONまでは、フライトドクターとフライトナースを目指す若い医師と看護師が、もがき苦しみながらも命の大切さと人の愛に触れ、一歩ずつ成長していく姿を中心に描いていました。THIRD SEASONでは、フェローを育てる指導医としての苦悩や葛藤、学びなどが加味され、より複合的なストーリー展開となっています。
私が特に注目したのは、様々なリーダー像が描かれている点でした。なかでも、常にクールで冷静、的確な判断力のもとに、自主性に任せた指導をする藍沢と、穏やかで優しく他人の心に寄り添いながら丁寧に部下を育てようとする白石の2人は、相反するリーダー像といえます。
例えば、冷凍倉庫内で荷崩れ事故が発生し、停電した暗闇の冷凍室内にフェローたちが閉じ込められながらも、麻酔なしで緊急オペをすることになったシーンでのこと。患者がうめき声をあげるなか、麻酔なしでメスを入れることにちゅうちょし、「自分にはできない」と叫ぶフェローに対し、カメラを通して指示を出していた白石は、フェローの立場と心情を鑑み、停電の復旧とともに藍沢らが加わることで対処できないだろうか……と考えます。
一方、藍沢はフェローに対し無線を通して「また、後になって病院に戻って嘆くのか、それともここでその患者を救うのか、決めるのはお前だ」と毅然とした口調で伝え、その場の判断をフェロー自身に委ね、プロ意識を呼び起こさせます。
このように、フェローに対して厳しい指導を行う藍沢と、手取り足取り丁寧に優しい指導を行う白石との間では、しばしば指導方法で対立する場面も出てきます。
しかし、白石は次第に「なんだかんだ、藍沢先生のほうが指導医に向いてるのかもね。何かあったら、俺がなんとかしてやるから。あなたのやり方には、ハッとさせられるわ」と語り、藍沢の決断力あふれる指導方法に尊敬の念を抱きます。
一方、藍沢も根底ではリーダーとしての白石に厚い信頼を寄せています。それは、最終話の地下鉄開通前の線路内で発生した崩落事故の場面で明かされます。
自分の指示のせいで藤川が被害にあってしまったことを悔い、司令塔の役目を別の人間に任せて現場に向かおうとする白石に対し、藍沢は「医者が二次災害にあっちゃいけない。これ以上被害を出さないために、情報をすべて集約して医療スタッフ、警察、消防に指示を出せ。この混乱だ。誰にでもできることじゃない。お前だから信じて任せられるんだ。指示を出すという形で、俺たちを守ってくれ」と、説得します。
私なりの救命をつくるしかない
さらにこの相反する2人のリーダーは、最終話のクライマックスで本当の気持ちを通わせ合います。
臨床医としてトロント大に行くことを決めた藍沢は白石に、「9年前、ここに来た理由は難しい症例が集まるからだった。あの頃の俺は自分のために医者をやってた。今は、誰かのために医者になりたいと思う。俺はそれを、お前たちから教わった。俺は出会いに恵まれた。お前との出会いも含めて。どうだ? 黒田先生の救命は超えられそうか」と尋ねます。
それに対し白石は「あー、たぶん無理ね。絶対無理。でも、落ち込まないことにした。どうせ無理だから。他の誰かのように仕事をしようと思っても。(中略)私は私なりの救命をつくってくしかないんだってわかった。強いリーダーシップもない、すぐへこむ。いつも迷ってばかり。そんなリーダーがつくる救命。それをやってくしかないって思った」と答えます。
その答えを聞いた藍沢が「そうか、なるべく早く見せてくれ」とエールを送り、それに白石が笑顔で応えるシーンは、おのおののプロ意識に裏打ちされたリーダー像と、互いに信頼し合う関係性が描かれ、多くの視聴者の反響を呼びました。
メンバー全員それぞれが成長
医師としての経験が10年を超えたとはいえ、組織のリーダーとしてはまだまだ未熟な2人。それでも藍沢は他の人の価値観を受け入れることで人間的に成長し、白石はフェローと一緒に悩みつつ、リーダーとしての自分を見いだしていきます。シリーズを通しての成長を感じたシーンでもありました。
藍沢と白石だけではありません。主要メンバーも、それぞれキャラクターの違うリーダー像やサブリーダー像として描かれています。
熱い使命感のもとにプロフェッショナルに仕事をこなす緋山の場合は、その真摯で熱意あふれる姿勢を近くで見てきた1人のフェローに、フライトドクターを一途に目指す決意を抱かせます。
常にチーム全体の雰囲気を意識し、ムードムーカーとしての役割を担う藤川は、患者に寄り添う優しさを持ちながら、いざというときには頼りになるサブリーダー的な存在です。
また、フライトナースのエースとして活躍する冴島は、一瞬ドクターが戸惑ってしまう場面などで、即座に的確なサポートをする実力と包容力を持っており、リーダーの参謀としての有能さは別格でした。
『コード・ブルー』は医療現場が舞台であり、医療ドラマとしての重厚さが支持されているドラマではありますが、このドラマの中で描かれている様々なリーダー像は、どのような業界や職種であっても共通する「組織におけるリーダーとしての在り方」を示してくれたような気がします。
自分が目指したいリーダー、もしくは自分がついていきたいリーダーはどのタイプなのか……? 自分をそんな視点でドラマの人物に置き換えてみると、何か違ったものが見えてくるかもしれません。
そんな視点からも楽しめた奥行きのあるドラマだったように思います。
ドラマが好評だったことを受け、18年には映画化されることも決まりました。映画ではフライトドクターとしてさらに厳しい試練が課され、医療シーンもより厚みを増すことでしょう。メンバー5人のさらに成長したリーダー像も楽しみ。今から公開が待ち遠しいです。

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