2017年12月16日(土)

塩野義製薬「手代木流」で10年先も勝つ
インフル革新薬 ペプチドに布石

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2017/9/23 6:30
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 世界で巨額買収が相次ぐ激動の製薬業界において、連結売上高が3000億円規模の塩野義製薬が屈指の好業績を続けている。すでに売上高営業利益率は30%を突破した。少し前まで「鳴かず飛ばず」とされた名門を復活させたのが手代木功社長だ。世界大手との巧みな提携などで自社開発の大型新薬を連発している。業界で「手代木マジック」と称される経営手腕を発揮し、小さくても勝ち続けられるのか。

 「独自の創薬技術を確立した企業でなければ、生き残れない。塩野義はこれからも全体の売上高に占める自社開発品の比率を50%以上に維持していく」――。手代木社長は周囲にこう宣言する。48歳の若さで社長に就任してから9年半、驚異的な利益率を上げても満足せず、将来を見据えて貪欲に手を打つ。

 新薬開発の成功確率は3万分の1とされる。自社開発品の比率は通常、業界大手でも2~3割程度とされるが、塩野義では共同開発品を含めて6割強と圧倒的に高い。それゆえ、塩野義は武田薬品工業の5分の1以下の規模でも売上高営業利益率は3倍以上。研究開発費は年500億円程度ながら独自開発の新薬を連発できるのは手代木社長の経営手腕が大きい。

 象徴的な事例が来年春に世界で販売するインフルエンザ治療薬だ。手代木社長が研究開発本部長に就任した04年以降に掲げた「選択と集中」戦略で、当時は業界大手も注力しない感染症分野に経営資源を投入した成果だ。手代木社長の先見性により画期的な新薬が生まれることになった。

 スイスのロシュの「タミフル」が有名だが、細胞内からウイルスが出るのを抑えるだけで増殖は止められない。塩野義の新薬は増殖に必要な酵素の動きを阻害して止める。服用回数はタミフルの半分の1日1回だ。7月には最終的な臨床試験(治験)が成功した。

 手代木社長は「従来の治療薬にない仕組みの新薬だ。新たな成長の柱になる」と胸を張る。インフルエンザ治療薬はタミフルを筆頭に競合が多いが、いずれも塩野義のような効能はない。手代木社長が酵素に着目して現場を駆り立ててリスクある開発に挑ませた。

 さらに業界を驚かせたのは新薬の海外での販売権を、最大のライバルのはずのロシュに与えたことだ。業界では塩野義と最も密接な関係にある英グラクソ・スミスクライン(GSK)で決まりとみられていた。現在の塩野義の最大の稼ぎ頭は抗エイズウイルス(HIV)薬だが、手代木社長主導でGSKとの提携で開発できたからだ。

 ただ、手代木社長は蜜月のGSKにとってライバルのロシュの販売力などを評価し、冷徹に判断を下した。年間売上高500億円以上を狙える大型薬として成功させるためだった。

 東京大学発ベンチャーのペプチドリームなどとの提携を仕掛けたことも業界関係者をうならせた。積水化学工業を含めて9月に共同出資で次世代医薬品の原薬製造会社「ペプチスター」を設立。ペプチドリームの技術は「特殊ペプチド」と呼ばれる化合物であり、高い効能と製造コストが割安な医薬品の原料となる。

 最大の課題は量産技術の確立で、激しい開発競争が続く。それでも手代木社長は「特許を押さえ、量産技術の開発で先行できる可能性がある」と強気だ。これまで原薬技術は欧米の医薬大手に主導権を握られ、日本の製薬業界の収益力や開発力の弱さにつながった。

 塩野義では大型新薬の食道がんワクチン向けにペプチドの原薬の量産技術を長く開発してノウハウを蓄積してきた。昨年末にはペプチド分野のベンチャーのファンペップ(大阪府茨木市)とも提携。開発リスクも認識しながら、いつも通り電光石火の早業で今回の提携をまとめた。業界関係者は「手代木さんは10年先、20年先を見据えながら足元で着実に妙手を打ってくる」と語る。

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