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繊維から事業転換、強いコア技術が成長の鍵 日清紡

CTO30会議(13)

日経BPクリーンテック研究所

1907年に設立された日清紡。1960年には繊維が売上の9割を占めたが、現在はエレクトロニクス事業と自動車のブレーキが約7割を占める。ポートフォリオが大きく変わったのは、その時代の市場ニーズに対応してきたからだ。これからさらに成長していくには、新しい価値を生み出していく必要がある。そのための鍵は事業の融合にある。日清紡ホールディングスの木島利裕常務執行役員新規事業開発本部長に、成長を見据えた事業の融合と技術戦略について聞いた。

――繊維から自動車用ブレーキやエレクトロニクスへと事業ポートフォリオを大きく変えたのはなぜですか。

木島 戦後の復興と高度経済成長といった時代の流れに対応してきたことで大きくポートフォリオが変わりました。戦時中に取り組んだブレーキや精密機械が、戦後の需要増加で大きく伸びました。戦後取り組んだ製紙事業は、既に譲渡してしまいましたが、これも戦後の需要増加に対応して大きく売り上げを伸ばしました。多角化してきた結果、今のような事業ポートフォリオになりました。

――市場ニーズがあったとはいえ、繊維の会社が自動車のブレーキを生産するのはとても唐突に思えるのですが、なぜ自動車のブレーキだったのでしょうか。

木島 繊維と自動車用のブレーキは、まったく関係がないように見えると思います。でも、要素技術の軸で見ると共通点があったのです。今は使われていませんが、繊維状のアスベストをシートに加工して、ブレーキの摩擦材にしていました。当時は、綿紡績を事業にしている企業にブレーキ製造が好都合だったのでしょう。

戦後に始めた製紙業は、戦時中に空襲を恐れて東京から静岡へ工場を移そうと考えたことがきっかけです。アスベストをシートにするのに抄紙機を使用することから、抄紙機のある製紙工場を買収しました。しかし工場を移転する前に終戦を迎え、東京の工場でそのままブレーキを生産できることになったので、買収した工場ではそのまま製紙業を続けることにしました。紙の原料は綿と同じセルロースで、技術的な共通点が多かったことが幸いしました。

――市場ニーズに対応して多角化したのは分かりましたが、シーズである技術についてはどのように考えてきたのでしょうか。

木島 上(企業上層部)からは常に「マーケットを見ていない。もっとマーケットを見ろ」と言われてきました。持っているコア技術が市場ニーズに合ってないと事業はうまくいきません。コア技術を持つことは大事ですが、それがニーズに合っているのかを常に確認してきました。それが合致すれば、新しい事業が生まれます。そうやって多角化を進めてきたわけですが、マーケットを見ることに気を取られ、最近では技術戦略をおろそかにしてきたのではと反省することが多いです。

――今後の事業の成長はどのように考えていますか。

木島 私たちは今、売り上げを1兆円まで伸ばすという目標を掲げています。現在の売上額がおよそ5000億円ですから、5000億円の上乗せが必要になります。その規模から考えると、自動車産業のような大きな産業で成長しなければなりません。この分野が将来どうなるのか。どのような商品機能が求められるのか。判断できるだけの目利きが必要になるということです。しかし、そのための専門組織は社内になく、新規事業開発本部と経営戦略センターに頼っているのが現状です。

上乗せのうちの半分はM&A(合併・買収)で増やす予定ですが、実践するのは大変です。買収しても、すぐに成果を出すことはできません。ルクセンブルクのブレーキ摩擦材メーカーであるTMD Frictionグループを2011年に買収しましたが、のれんの償却に時間がかかりました。2017年度から利益に貢献できる見通しです。企業にはそれぞれ文化がありますから、その文化を尊重しつつ協力して事業の成果を出し続けることは大変な作業になります。

――M&A以外の残り半分は、どのようにして生み出しますか。

木島 先ずは既存事業の成長です。しかし、各事業セグメント単独では自分たちの事業領域の外へ拡大展開するのはなかなか難しいものです。それでは成長が限られてしまいます。各事業部の間の周辺領域に新しいニーズが潜んでいるので、そこを狙います。世間で異業種連携が盛んに叫ばれていますが、日清紡は異業種連携がグループ内でできます。わざわざ外に求めなくても、まずは社内で連携しようということです。

とはいえ、事業領域が異なると、言葉も文化も違いすぎて、お互い理解できません。最初は何を言っているのか分からないほどです。それを一つずつ実施することで、見えてくることがあります。一緒に動くことで理解できることがあります。最近は、それぞれの強みを生かせば、結果がついてくることも分かってきました。

例えば、日本無線のレーダー技術は船舶で培った実力があります。これを自動車向けにADAS(先進運転支援システム)に展開して新しい商品を開発しつつあります。市場の台数は船舶より自動車のほうが多いので、潜在市場は一気に拡大します。ここで重要なことは、コア技術に強みがあることです。弱い者同士が融合しても強くなりません。ですから、強いコア技術を育てる必要があります。

――事業の融合領域の成功の秘訣があれば教えてください。

木島 事業の融合は一品料理と言ってもいいでしょう。一つひとつ作り上げていくことが求められます。お互いの事業部の状況、市場の状況、そうしたことの詳細を理解して、進めていきます。「この事業のことなら"あいつ"に聞こう」と担当者の顔が浮かぶようにならなければ、成功しません。そうなるまで作り込むのです。

素材系の事業とエレクトロニクス事業ではスピード感がまったく違います。素材系の開発はもっとスピードを上げなければいけません。そういう意味でも、融合事業を立ち上げながら、他の事業部の良いところは謙虚に取り込むことも大事です。そのため人の交流を活発にして、時には人事異動もした方がいいと考えています。

――弱い者同士が融合しても駄目だから強いコア技術を育てると言われましたが、その背景にはどういうことがあったのでしょうか。

木島 私が若いころ、社内でよく「事業は人なり」ということを言われました。そのため一つの事業に固執することはなく、人を育てることに重きを置いてきました。結果的に多角化が実現しました。最初に始めた繊維事業が労働集約型だったので労務管理が競争力につながったことが、人を育てる社内文化を作ったのだと思います。半面、技術を育てることを優先してきませんでした。

今後は、グループ全体の将来を見据えて技術戦略を練り上げる予定です。強いコア技術を持つべきであることは以前から分かっていました。しかし、これまでは各事業セグメント単位の取組みで、グループ全体の連動があまり取れていませんでした。シナジー効果が生まれていなかったのです。このため、日清紡は株式市場で充分な評価を得られてこなかったのが実情です。今後は、グループ全体を俯瞰(ふかん)して、技術開発に優先順位をつける予定です。そして、グループの総合的な力を上げて、多くの事業を手掛けていることが強みになるようにします。

――「事業は人なり」という文化がベースにはあるようですが、人材を育てるための取り組みを教えてください。

木島 研究者であっても、市場を知っていなければいけません。他の事業部と一緒に行動し、客先を訪問すると意外なことに気がついたりします。さらには事業部を超えた人事も実施する必要があるでしょう。横串人事には抵抗する意見もありますが、少しずつ理解を得て行く必要があります。

2016年から社長の肝いりで若手のワークショップを始めました。30歳前後の社員を集めて1年間交流する研修活動です。メンバーは技術分野に限らず、営業担当や事務職も含めていろんな立場の人が参加しています。会社の長期目標は2025年を見据えていますが、「長期目標の先を考える」をテーマにアイデアを出し合っています。30歳前後の社員は、会社のことも分かってきているし、頭も柔らかいのでいいアイデアが出てきます。前向きのいい意見が交わされて、聞いていて素直に面白いです。

(聞き手=日経BP総研 クリーンテック研究所 菊池珠夫)

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