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辻本流 撃つは巨砲のみ

カプコン「モンハン」リアル極める新作

カプコンは21日に千葉市で開幕した「東京ゲームショウ2017」で最新ゲーム「モンスターハンターワールド」を初公開した。累計4000万本を販売してきた人気シリーズだが、今回は最新技術を駆使し同社を世界屈指のソフト会社に育てた創業者の辻本憲三会長兼最高経営責任者(CEO)が理想とする「ハリウッド映画」のような大作に仕上げた。スマートフォン(スマホ)ゲームが世界を席巻するなか、あえて「本物」志向を貫く辻本経営に勝算はあるのか。

カプコンの「モンスターハンター:ワールド」のブース(21日、千葉市美浜区の幕張メッセ)

「ハンターたちが今まで以上に縦横無尽に動いてモンスターを倒せるから面白い」「水面(みなも)の揺らめきや泥のとびはねのような描写もリアルで現実にいるような感じだ」――。幕張メッセのゲームショウのカプコンブースで来年1月発売予定のモンハンワールドを遊んだ来場者の多くがため息をもらした。

恐竜のような多くのモンスターが飛び交う大自然の中を探検するモンハンは04年の発売以来、大ヒットが続く。仲間同士で一緒に遊んでモンスターを倒すために若者が屋外で集まる「モンハン現象」も起きた。ただ、最新作のモンハンワールドでは大きく進化したというのが業界関係者の一致した見方だ。

辻本会長が11年以降、自社の開発体制の抜本的な強化を進めてきた成果が表れた。100億円を投じて16年に開設した研究開発第2ビル(大阪市)などでは3DやVR(仮想現実)といった最新の映像・音響を制作できる設備を導入。それをフル活用した最初の大作がモンハンワールドだ。

現場には常に「もっとクオリティを上げろ」と叱咤激励する辻本会長も最新作には「とても満足のいくできになった」とし、社外の会合でも「すごいソフトができた」と紹介しているほどだ。

新開発棟の目玉は究極的な3D映像を作成できる「モーションキャプチャースタジオ」だ。幅12メートル、奥行き8メートルで、高さが7メートルという大きな空間を使える。体に36カ所の特殊マーカーをつけて、その動きを36台の赤外線カメラで撮影する。7メートルの高さからマット上に飛び降りたりすれば、手足の関節の動きなども完璧に捉えられる。

モンハンシリーズの総合プロデューサーである辻本良三氏は「(スタジオ活用で)銃を撃った後の体の反動の動きなどをリアルに再現できた」という。キャラクターのわずか0.5センチメートルぐらいの微妙な動きさえ、3D映像で容易に作れる。

辻本会長は最近5年間、自社の開発力の強化を進めた。開発者は年100人単位の新規採用で2000人を突破。21年度には2500人にする。開発費も売上高の3割以上だ。世界的なヒット作を抱えても連結売上高は900億円弱の企業だ。自社で開発を抱え込むリスクは大きい。それでも辻本会長が揺らがないのは「カプコンのゲームはハリウッドで人気のアクション映画のように」という強い思い入れからだ。

今年1月発売のホラーゲーム「バイオハザード7」も辻本イズムを象徴する商品だ。家庭用ゲーム機向けでは初めて全編でVRに対応した。暗闇にうごめくゾンビが連続して襲いかかり、登場キャラクターが次々に残虐に殺されていくシーンには賛否両論があるが、その世界観を忠実に実現するために大型投資をしている。

ゲームを制作する「エンジン」と呼ばれる開発ソフトを自社で作った。投資額は100億円規模とみられる。汎用ソフトと異なり暗闇の中の微妙な影などもクリアに映像化できるようにした。一部の開発者たちが将来を見据えて自発的にVR技術を長く開発していた成果を生かした。開発担当の竹内潤執行役員は「良いものを作りたいという開発者の意欲に応える経営の風土がある」と強調する。

開発体制も作品ごとに集まり突貫工事で作るやり方ではなく、3D映像制作など専門技術者一人ひとりに週単位で仕事を割り振る方式に切り替えた。「自動車メーカーの新車開発を参考にした」(竹内執行役員)。これも辻本会長の改革で、大作を連発できる強みとなっている。

辻本会長は本物志向のゲームを作るために体質強化を着実に進めてきた。90年代前半からストリートファイターの映画化など巧みにキャラクタービジネスを展開、収益源に育てた。バイオハザードも02年以降、ハリウッドで実写映画6作品が制作された。

創業家主導で長期的な視野に立った経営で、社員が長く安心して働けることを重視している。他社の優秀な人材の入社も多く、離職率が低い。最近は女性の採用も積極的で、本社に託児施設まで作った。2000人の開発者の2割が女性であり業界平均に比べて非常に高い。

カプコンの連結業績は15年3月期以降、売上高営業利益率が16%前後と好調だが、課題もある。スマホゲーム事業は失敗の連続だ。これまでも切り札としてモンハン系ゲームを投入してユーザー数は急増。それでも課金収入が伸びず、17年3月期のスマホ関連の売上高はたったの38億円。ソフト事業の6%に過ぎない。家庭用ゲームソフト大手なら2~3割とされる。

辻本春弘社長は18年度にも海外企業と提携して本格的な事業展開に動く。世界に通用するキャラクターや人気作が多いだけに巻き返しの可能性もあるが、数え切れない企業が参入する超激戦区ゆえ収益を確保できるかは不透明。辻本会長は「モバイル(スマホゲーム)のみの対応では世界から置いていかれる」と強調するが、この市場での成功を抜きに安定した経営は難しい。

社内で不安視されるのは後継問題だろう。07年には春弘氏が42歳の若さで社長に就任。憲三会長は健在だが、今年12月に77歳の喜寿を迎える。米国でワイン農家を営んでおり早期にセミリタイアするとの観測もあったが、経営の最前線で指揮を執っている。春弘社長はCEO就任が確実としてもカリスマ会長のような豪腕は簡単にふるえない。

ゲーム産業は一寸先は闇であり、天国と地獄が一瞬に入れ替わる。一つの判断ミスで会社が傾く。だから、任天堂の「中興の祖」である故山内溥氏ですら、京都大学卒で米国法人でも活躍した絶対的な後継候補の娘婿を外し、「天才プログラマー」の故岩田聡氏を引き抜いてトップに据え会社を飛躍させた。

春弘社長は今後のゲーム市場について「新たな技術が次々に登場して激動期を迎える」と強調する。年末には米マイクロソフトが新型ゲーム機を投入し、人工知能(AI)などの技術革新により世界のゲーム産業は新たな戦国時代に突入することになるのは必至だ。

カプコンが得意のアクションゲームにおけるキャラクターのように激しいストリートファイトでも勝ち続けられるのか。これからが本当の意味でゲームのスタートかもしれない。

(大阪経済部 上田志晃)

[日経産業新聞 9月22日付]

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