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常勝ドジャース 土台に将来見据えたチーム編成

スポーツライター 丹羽政善

22日午後10時20分すぎ、5年連続でナ・リーグ西地区優勝を決めたドジャースのシャンパンファイトがスタート。1本100ドル近いシャンパンが、次々と空になっていく。10分ほど遅れてメディアに開放されると、クラブハウスの奥の方で奇声が聞こえた。

ひょっとしたらそれは、前田健太の声だったのかもしれない。

取材に応じた前田によると、"こっそり"近づいて先輩のダルビッシュ有にシャンパンをかけたものの、それがばれて「倍返しされた」のだという。

「次から、バレないようにやらないと」

前田はそう言って笑ったが、彼はその次を疑っていなかった。

いや、もっと先を見ている。今年のドジャースはそれほどまでに圧倒的だった。6月半ばすぎから独走でシーズンを駆け抜け、50戦で43勝(6月7日~8月5日)をマークするなど記録的な勝ちを重ねた。

では、これほどまでのチームがどうつくられたのか。それをたどっていくと、「負の遺産」に苦しめられながらも、埋もれた人材の発掘に力を注ぎ、さらには育成を重視する姿勢を貫いた我慢強さが透ける。チーム体質をその血から入れ替えようと試み、リストラと優勝を同時に成し遂げた背景には、相当な信念があったのではないか。

総年俸の半分が"不良債権"

まず、主にレッドソックスとのトレードによる負の遺産について触れるが、本来なら再建の大きな足かせになるはずだった。なにしろ、開幕時の総年俸(約2億4200万ドル=約271億円)の約半分――1億2000万ドルあまりがほぼ"不良債権"なのである。

チーム年俸2位のエイドリアン・ゴンザレス(約2234万ドル=約25億円)は故障もあり、途中で戦列を離れた。だがそれ以上に力の衰えが深刻で、新人で38本塁打を放っているコディ・ベリンジャーにポジションを奪われた。プレーオフではロースターから外れる可能性さえある。同4位のアンドレ・イーシア(1750万ドル)は9月1日にようやく復帰したが、出場機会が限られたまま。昨年も16試合の出場にとどまり、今年と合わせて3650万ドルが無駄になった。ゴンザレスがプレーオフのロースターに残れば、彼が外れるのではないか。

ほかにも今季は、昨年6月に戦力外としたカール・クロフォードに約2186万ドル、やはり契約途中で解雇したアレックス・ゲレーロ(現中日)にも750万ドルを払うなど、無駄な支出が少なくない。

ただ、そうした一方で、格安で獲得した選手がレギュラーに成長した。

例えば今季、開幕から11連勝を飾り、15勝(3敗)をマークしているアレックス・ウッドの年俸はわずか280万ドル。2015年7月にトレードで獲得後、その年は5勝6敗、防御率4.35に終わった。昨年は肘の故障もあって10試合にしか先発できず1勝4敗、防御率3.73と低迷したが、そんな投手が今季、開幕から11連勝を飾り、オールスターゲームにも選ばれた。

不動の「1番・中堅」となったクリス・テーラーは、14年にマリナーズでメジャーデビュー。当時は控え選手だったが、そんな選手のどこをドジャースが評価したのか、16年6月に獲得。今年になってレギュラーに定着すると、22日現在で134試合に出場し、打率2割9分1厘、出塁率3割5分8厘、21本塁打、69打点、84得点と目覚ましい活躍をしている。その彼の年俸は53万5000ドル(約6000万円)。大リーグの最低年俸である。

無論、それらは偶然ではないのだろう。

ドジャースは毎年のようにプレーオフに出場していたレイズのゼネラルマネジャー(GM)だったアンドリュー・フリードマン氏を14年オフに編成部門のトップとして引き抜き、その彼がアスレチックスでセイバーメトリクス(統計学アプローチによる選手評価)の分析を手掛けていたファーハン・ザイディ氏をGMとして起用。いずれも資金力のない中で好選手を見つけ出してきた実績を持つだけに、当然、それなりの狙いがあったはず。その基準に沿ってウッドやテーラーのほかにも、リリーフとして活躍しているジョシュ・フィールズやブランドン・モローらを獲得したと考えられる。

お金使う方が慣れていない?

むしろ彼らにしてみればお金を使う方が慣れていないため、その点では失敗もしている。

14年12月、ブランドン・マッカーシーと4年総額4800万ドル、15年12月にはスコット・カズミアーと3年総額4800万ドルで契約。今季前半のマッカーシーは悪くはなかったが、故障をきっかけに制球難に陥った。彼は契約初年度にトミー・ジョン手術(靱帯修復手術)を受けており、契約以来3シーズンで11勝を挙げているのみだ。カズミアーは昨年こそ10勝をマークしたが、今季はメジャーでの登板がなく、来季の復活も疑われている。もちろんいずれも、プレーオフのロースターから漏れるだろう。

ただ、彼らにも一応、保険はかけてある。チームを引き継いだとき、フリードマン編成本部長はゴンザレスやイーシアの長期契約に縛られたが、カズミアーらの契約は短いため、"不良債権"になっても影響は限定的なのだ。昨年のオフ、クローザーのケンリー・ジャンセンと5年総額8000万ドルで契約したが、これは異例中の異例。フリードマン編成本部長とザイディGMのコンビで手がけた契約としては最大で、昨オフに再契約した主軸のジャスティン・ターナーとの総額も4年6400万ドルにとどまった。

この流れで考えれば、来季終了後に契約を破棄してフリーエージェント(FA)になる権利を持つエースのクレイトン・カーショーとも5年、7年といった長期契約を求められれば再契約を見送るのだろう。ダルビッシュ有との再契約に関しても、同様の方針を持つとみられる。

フリードマン編成本部長らはこれまで多くのイニング数を投げてきた、30歳を超える先発投手との長期契約に慎重だ。カーショーに移籍されればもちろん短期的には戦力ダウンになるが、マイナーにウォーカー・ビューラー、ヤディア・アルバレスといった将来有望な選手がおり、流出への備えもできている。だからこそ、ダルビッシュを獲得したとき、レンジャーズからビューラーもしくはアルバレスを求められても、絶対に首を縦に振らなかったのである。

実はそこにも、フリードマン編成本部長とザイディGMの強い意向が働いている。

これまでもナ・リーグの新人記録本塁打記録に並んでいるベリンジャーや昨季の新人王で最優秀選手(MVP)の投票でも3位に入ったコリー・シーガーにしても、トレードのオファーが何度もあった。しかし、これはと見定めた選手は絶対にトレードの駒としない。今や、そのシーガーもベリンジャーもチームの攻撃の柱となり、ともに6000万円程度の年俸で、大きく貢献している。

独自基準で埋もれた人材発掘

結局、その場しのぎではなく、将来を見据えた編成に徹し、さらにはデータを駆使し、彼らなりの基準で埋もれた人材を見つけ出してきたからこそ、総年俸の半分が"不良債権"になっているハンディを克服できたといえるのかもしれない。

ちなみに、イーシアの契約は今季限りだ。ゴンザレス、カズミアー、マッカーシーらの契約は来年まで。おそらくそこから本当の意味でのフリードマン編成本部長、ザイディGMコンビによるチームづくりがそこから始まるのだろう。では、その彼らがどんな編成をすることになるのか。ドジャースの評価手法については、オフに改めて分析したい。

さて、午後10時20分ころ始まったシャンパンファイトは1時間ほどでお開きとなり、シャンパンの香りに代わって、今度は葉巻の匂いがクラブハウスに充満し始めた。

誰の顔にも安堵感が漂っていたが、かといって長く喜びに浸ってもいられない。9月には11連敗を喫するなど、後半は明らかに前半の勢いを欠いている。これまで投手が点を取られれば野手が、野手が点を取れなければ投手がそれぞれカバーしてきたが、連敗中はそろって不振に陥った。

プレーオフまであと2週間ほど。その短い時間で、どこまで立て直せるか。優勝の陰で、不安要素が見え隠れする。果たして、次はあるのか。

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