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予想超える成長 しぶとさ武器 DeNA宮崎敏郎(下)

誰もいなくなった山あいのグラウンドに、マシン相手の打球音が延々と響いていた。「おーい、閉めるぞ」。いら立つマネジャーにせかされた泥だらけの右打者は、我に返ったように慌てて帰り支度を始める。

スポーツライターの安倍昌彦(62)はセガサミー時代の宮崎敏郎を覚えている。帰りのバスに先輩を待たせて打ち込む姿に「頭がおかしくなっちゃったんじゃないかと思った。狂気を感じた」。

エリート街道とほど遠い野球人生だった

宮崎ほど土のにおいがする選手もそういない。ぽっちゃり体形にひげ面、飾らない語り口。麦わら帽子をかぶってランニングでも着たら、畑仕事をしていても違和感がない。小学6年で始まった野球人生もエリート街道とはほど遠かった。

佐賀県の出身。県立厳木(きゅうらぎ)高に進んだが、甲子園は遠かった。田中将大(ヤンキース)や斎藤佑樹(日本ハム)ら同学年の「ハンカチ世代」は「全くの別世界」だった。

大分・日本文理大では1年生からレギュラーになり、九州大学リーグの首位打者やMVPも獲得した。全国大会に出場して主将も務めたが、プロには見向きもされず、社会人も不合格ばかり。何とか入ったのがセガサミー。都市対抗野球で逆転満塁弾を放った2012年、ドラフト6位でDeNAから指名され「まさか自分が? と驚いた」。

「諦めのつくまで野球やりたい」

宮崎の球歴からは「しぶとさ」や「たくましさ」が浮かび上がる。行き止まりに見える地点は何度もあった。「行けるところまで、諦めのつくまで野球をやりたいという気持ちだけでしたね」

打席でもしぶとさを発揮している。2ストライク後の打率はリーグの規定打席到達者でトップクラスの2割5分弱。決して当てにいくわけではないが、三振は46(18日時点)と最少だ。

「同じ打席は戻ってこない。中途半端はダメ。積極的に自分のスイングをして、悔いを残さないようにしている」。独走していた首位打者争いは追いかける側になり、優位に立っていたチームのAクラス争いも暗雲が垂れこめてきた。だがこんな局面こそ、宮崎は力を出すのかもしれない。

アマ時代の宮崎をスカウトとして見ていた内野守備走塁コーチの万永貴司(45)は獲得の経緯を振り返る。「勝負強かったが打撃という一芸しかない。残っていたら取ろうということだった」。いわば「当たればもうけもの」ぐらいの期待値。

しかしその成長曲線は予想を超えた。「守備は格段にうまくなった。いちばん最初に出てきてノックを受ける向上心、助言を糧にする吸収力をもっている。定位置を与えられたのではなく、つかみ取った選手。スカウトとして幸せです」

日の当たらない場所からプロを夢見る若者は、エリートよりもはるかに多いだろう。「遅れてきたハンカチ世代」の台頭は彼らの励みにもなるはずだ。=敬称略

〔日本経済新聞夕刊9月20日掲載〕

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