荏原 ごみ処理受託へ「+α」メニュー
荏原は海外のポンプ市場と同じように国内のごみ処理ビジネスも収益源になると期待している。拡大していく公設民営方式の需要を囲い込もうと自治体の要望にこたえるサービス精神は旺盛で、「プラント+α」のメニューは広報から電力小売りまで広がっている。

100%出資の廃棄物処理子会社、荏原環境プラント(東京・大田、市原昭社長)が東京都武蔵野市から195億円で受注し、春に稼働した武蔵野クリーンセンターを訪れた。企業が設計や建設、運営を担うDBO(デザイン・ビルド・オペレート)方式の施設で、20年間運営する。
JFEエンジニアリングと入札で争い、荏原環境が選ばれた。同市の担当者は、価格面で若干優位だったうえ、臨場感のある見学コースやイベント・ワークショップの提案などサービスが優れていたと語っている。
全国にごみ処理施設は1100カ所あり、荏原環境は民営となっている400カ所のなかで2割程度のシェアを持つ。武蔵野市でもその経験が生かされていた。
まず、ごみ処理施設には見えない。3階建ての施設は雑木林をイメージした茶や緑の細長い板で囲われている。従来と同等の処理能力を保ちながら面積を4割小さくし、高さは数メートル低くして街に溶け込ませている。
焼却炉の燃焼データなどは神奈川県藤沢市の拠点に送られ、分析して適切なメンテナンスの時期を見極めることに使う。これも、公設民営の案件をとるために磨いてきた技術だ。
ほかにもコスト削減の工夫があり、武蔵野市の試算では、多摩地域の自治体に処理を委託する場合と比べ費用を24%抑えられるという。

同社は武蔵野クリーンセンターの広報機能も担っており、プラントの付加価値としてのサービスメニューの広がりを感じさせる。「こんにちは。ごみ処理の仕組みを勉強しようよ」。受付では人型ロボット「ペッパー」が出迎えてくれた。
武蔵野市が開かれたごみ処理施設を求め、入札で具体的なメニューを示したという荏原環境。施設に30人近い同社従業員がいるうち3人が広報や施設案内を担い、予約なしで自由に訪問できるという珍しい運営体制を整えている。
中央制御室の様子やごみをつかむクレーン作業がガラス越しに見える。環境をテーマとしたワークショップを市民のために年4回開くきめ細かさもある。
佐藤誉司営業本部長は「人口10万~30万人の中規模自治体で民間委託が始まっていく。当社にとって追い風」と話す。荏原環境はもともと1日あたり100~300トンのごみを処理する中規模の焼却炉に強みを持つ。
荏原環境は荏原のエンジニアリング部門を担う。直近の売上高は680億円で、荏原全体の1割を超えている。
施設の更新需要で公設民営市場の伸びが見込まれるなか、同社はごみ処理プラント首位の日立造船と2強の位置にあるようだ。だが、大規模プラントに実績があるJFEエンジや、新日鉄住金エンジニアリング、三菱重工環境・化学エンジニアリングもある。
荏原環境は自治体の要望もあり2016年4月に電力小売りを始めた。地元の生ごみなど家庭ごみを燃やした廃熱でタービンを回す。こうした電力は再生可能エネルギーとして認められている。同社はこの電力を販売したい自治体の代理役だ。
佐藤氏は「発電機能を持たせて防災拠点として活用したいという話も多い」と話す。その運営も荏原環境の仕事になる。
公設民営方式で請け負えば、プラントを1回納めて終わる場合と比べ長く安定した収入が入る。プラント販売だけのビジネスは素材の価格次第で利益がぶれるリスクがある点でも、運営まで担う意味は大きい。
このため佐藤氏は「案件獲得に備えて、今まで以上のペースで採用を進めたい」と語っている。同社は過去10年で約500人を採用し、現在2000人の従業員がいる。ごみ処理施設の運転員を育てようと16年、疑似体験できる研修施設を藤沢市に設けた。労働災害を防ぐ安全対策を学べる装置がある。プラント内で滑りやすい場所を確認する設備や、ベルトに巻き込まれた際の危険性を体感する装置などで、新人の運転員らが随時研修している。
(企業報道部 大平祐嗣)
[日経産業新聞9月20日付]
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