2017年11月22日(水)

がん克服、政策の後押し力不足

The Economist
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2017/9/19 18:42
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The Economist

 厳しい数字がある。2015年にがんで死亡した人は世界全体で880万人に上った。がんは心臓病に次いで死因の2位だった。米国人の約4割は生涯に一度はがんと診断される。アフリカでは現在、マラリアよりがんで死亡する人の方が多い。

 ところが統計をいくら眺めても、細胞の静かだが止めることのできない反乱によって引き起こされるがんの恐怖はわからない。似たような恐怖や不安をかき立てるのはアルツハイマー病だけだ。

 この種の脅威に直面すると人は当然ながら、科学の飛躍的進歩が新たな治療法をもたらしてくれることに期待を寄せる。これはあながち的外れではない。

技術面から見れば、科学の力で将来、ほとんどのがんが慢性疾患か治癒可能な病気に変わると期待されるが…(英オックスフォード大学のがん研究室)=ロイター

技術面から見れば、科学の力で将来、ほとんどのがんが慢性疾患か治癒可能な病気に変わると期待されるが…(英オックスフォード大学のがん研究室)=ロイター

 この数十年、遺伝子の塩基配列の解読や、分子標的治療など数多くの技術進歩のおかげで、がんで亡くなる人は減少が続いている。米国の白血病患者の5年生存率は1970年代半ばまでは34%だったが、2006~12年にはほぼ倍の63%に上昇した。がんを克服した米国人も現在の1550万人から、向こう10年間で2000万人に増えるとみられている。

 発展途上国も大きな成果を上げている。中南米諸国の一部では、前立腺がんと乳がんの生存率がわずか10年間で2割も上昇した。

■続く治療技術の進歩

 純粋に技術面から見れば将来、ほとんどのがんは科学の力で慢性疾患か治癒可能な病気に変わっていくと考えられる。だが、がんと闘っているのは研究室だけではない。病院の手術室や学校、公的医療制度や政府機関などもそうだ。そうした現場の“戦況”は芳しいものではない。

 まずは喜ばしい話から紹介しよう。多くのがんは現在、早期に発見すれば治療できる。前立腺がんと診断された英国人男性の10年生存率は1970年代前半には25%だったが、今は8割だ。

 肺がんや膵臓(すいぞう)がん、脳腫瘍などは発見や治療が難しいが、技術は着実に進歩している。早期診断には呼気からがんを発見する機器などが使われているし、腫瘍から放出されたDNAを血液検査で検出することも可能だ。ゲノム(全遺伝情報)解析技術を用いれば、新薬がどの細胞を標的にすればいいか特定しやすくなる。

 がんの3大療法である手術、放射線、化学療法も20世紀に確立したとはいえ、すべてで技術の向上が続いている。放射線技師は腫瘍殺傷のため、病巣にはガンマ線を多方向から当てて線量を高め、周りの正常細胞にはあまりダメージを与えないように少なく照射することができるようになった。

 腫瘍に栄養を運ぶ血管の成長を止めたり、がん細胞の持つDNA修復機能が働かないようにしたりする新薬も登場した。がんは冷酷非情に増殖するかもしれないが、科学も容赦なくがんと闘っている。

■免疫療法で症状消えるケースも

 今、最も期待を集めているのが免疫療法と呼ばれる、ここ数年で生まれた新たな治療法だ。がん細胞には人間の免疫システムに備わっているブレーキ機能を作動する力がある。免疫療法では初めにこのブレーキが事実上、作動しないようにしてしまい、白血球に腫瘍を攻撃させる。

 まだ初期段階だが、臨床試験に参加した被験者の一部は長期間の「寛解」に達した。完治したとまではいえないが、症状がほとんどなくなる状態だ。

 こうした治療法では、様々な種類のがんを対象に千件を優に超える臨床試験が行われている。今や免疫細胞のゲノムを編集し直し、より効果的にがんと闘えるようにすることも可能だ。8月には米国で初めてこの遺伝子療法が承認された。

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