「衆院解散」とFOMCにざわめく市場
円相場は日本が三連休の間に1ドル=111円台半ばまで円安・ドル高に振れた。今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)での資産圧縮の開始決定や12月の米利上げの可能性を意識し、市場が先走っている印象がある。
12月の米利上げ確率は先週に40%台から50%台に上昇。18日には58%台と60%をうかがう水準までじわりと切り上がってきた。こうなると、市場に「サプライズ」をもたらすケースはFOMCに利上げに慎重なハト派色がにじんだ場合だろう。具体的には、FOMC声明文と同時に発表される経済見通しの中で示される「ドットチャート」が注目だ。
ドットチャートはFOMC参加者の金利見通しを示した分布で、2017年の利上げ回数を1回ないし2回と見込む参加者の数は前回6月時点で12人だった。今回12人を上回れば、12月の利上げを支持する勢力(タカ派)が増えたと解釈され、ドル高・円安となろう。逆に、12人を下回れば、12月利上げ慎重派(ハト派)が増え、ドル安・円高に振れそうだ。
数字は蓋を開けるまで分からないが、市場はタカ派有利と見ている。とはいえ、構造的な物価上昇率の伸び悩みや、まだら模様の米国経済指標、北朝鮮を巡る地政学的リスクなど、今後の利上げペースを緩やかにする要因には事欠かない。円相場は北朝鮮情勢の緊迫化で107円台まで円高に振れた後、111円台まで急速に戻したところだ。「サプライズ」となれば、108~109円台となっても不思議はない。
一方、安倍晋三首相が衆院を解散する意向を固めたことについて、米ニューヨークのヘッジファンドたちはあっけにとられていた。外国人投資家の日本株売りが一巡して、政権支持率がやや改善したところで日本株へ再度目が向き始めたかというタイミングだ。ニューヨークで来月に日本株レクチャーをとの打診があった直後だったが、「様子見」との結論となった。
日本株の注目点は政権の安定度なので、総選挙で与党議席数が維持もしくは増えれば、外国人投資家に安心感を与えることになりそうだ。ただ、首相は教育の大義名分で消費税増税を争点にするもようで、「いかなる理由でも、増税を旗印に選挙で勝てたためしはない」との意見も聞かれる。英国のメイ首相が慢心して解散に踏み切って大敗した事例も引き合いに出されるが、日本の場合は英国と異なり野党の受け皿が脆弱だ。
いずれにしろ選挙だけは結果が出るまで分からないから、日本株への資産配分も当面棚上げの様相である。市場の目線がFOMCに注がれる状況に変わりはない。

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
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