吉高由里子 「これ、ラスト1点なんです」に弱い私

10代で蜷川幸雄、園子温ら鬼才監督の映画に出演して脚光を浴び、20代はNHK朝ドラ『花子とアン』で国民的女優となった吉高由里子さん。モノに求めるのは「便利さ」という彼女が、少女時代によりどころとしていた、あるモノとは?
大事なモノは店で買いたい
「最近、買って良かったと思うのは掃除機。コードレスの掃除機にしたんですよ。そうしたらやっぱり違いましたね。すごく楽です。
まず部屋を移動するときに、コンセントを差し替えなくていい。あっちに挿したり、こっちに挿したりしなくていいので、一気に掃除ができるから、すごく便利です。コードが絡まって、モノがひっくり返ったりもしないし。コードレスだけど吸引力もけっこうある。これまでは、忙しいとつい『今日はいいや、クイックルワイパーで』となっちゃっていたんですけど、それが無くなって。手軽に掃除機をかけるようになりました。
もう一つ、最近の買い物で印象に残っているのは古着。(オレゴン州の)ポートランドに行ったとき、古着屋で服を買ったんです。
服を選ぶときにこだわるのは、丈や質感。特に古着だと、ボロく見える質感のものと、アンティークに見えるものとあるじゃないですか。ただほつれているだけにしか見えない服もあれば、そのほつれが味になる服もあるので、選ぶのが難しいですよね。それが楽しいんですけど。

ネットで買い物をすることもありますが、大事なモノは店で買いたい。古着に限らず実際にモノを見てみないとわからないことは多いし、ネットで買ったものって自分で足を運んで買ったものより大切にできないような気が私はするんです。だからお店で、そのときの気分で欲しいと思ったものを買うのが大切じゃないかって。
私、『これ、ラスト1点なんです』という言葉に弱いんです。買おうかどうか迷っているときに、そう言われたら、すぐに買っちゃう。嘘かもしれないけどね、ラスト1点っていうのは(笑)。
逆に、これを言われると買わなくなるというのが、『取り寄せますか?』。待てないです。取り寄せてまで欲しいとは思わない。だから展示会で洋服を買えないんです。そのときのテンションで買わないと、届いたときに『こんなの選んだっけ?』となっちゃうことが多いので」
久しぶりだった重いテイストの映画
9月23日に公開される主演映画は、沼田まほかる氏のミステリー小説を実写化した『ユリゴコロ』。吉高さんは、幼い頃から人の死にひきつけられ、数奇な人生をたどる殺人者・美紗子を演じている。
「(美紗子を)演じるにあたって準備したモノは、今回はほとんどありません。役作り自体もどうこうできるものじゃなかったので、衣装合わせや撮影現場で『こうしていこう』と方向性を決めるだけ。
この作品には過去パートと現代パートがあって、私が演じたのは、過去のほう。だから衣装は、昭和寄りのロングコートや、ちょっとレトロなワンピースです。メイクは、薄く塗れて、ほとんど化粧をしてないように見える、スプレータイプのファンデーションを使っています。あまり『生きたい』という性(サガ)を感じさせない雰囲気にしたかったから、髪もそのままのストレートです。
最近はテレビのお仕事が多かったこともあって、こういう重いテイストの映画は久しぶり。私はもともとこっちから始まったし、やったことのない役柄でもあったので、すごくひかれるというか、お話があったときはぜひ挑戦したいと思いました。

実際に演じてみて、昔と変わった部分も変わらない部分もありましたけど、やっぱり自分はこういう引きずられるようなテイストのもののほうが好きなのかなとは感じましたね。あと、ちょっとぬれ場みたいなシーンがあるんですけど、『ああ、何年たっても、いくらやっても、傷つくな』と。
美紗子がどういう人かというのは、説明が本当に難しい。それまで知らなかった愛情を知ってから、うれしいとか寂しいとか怖いとかを感じるようになって、自分の『生きたい』という性にも戸惑いながら過ごしていく。サスペンスでもミステリーでもありますけど、最後はラブストーリーに目を向けてもらえたらうれしいですね」
自分が死んでも作品は残るから
美紗子は、幼い頃に出会ったミルク飲み人形をよりどころとして成長していく。吉高さん自身にも、よりどころとしてきたモノはあるのだろうか。
「よりどころ、ですか。小さい時は、時計のネックレスをずっとしていたな。『お母さんの形見なの』と言いたくて……。お母さん? 生きていますよ。ただただそのセリフを言ってみたかっただけなんです(笑)。たぶんモノを大事にしている自分がうれしかったんでしょうね。それまではモノを粗末にして、いろいろなモノを足で蹴ったりしていた子どもでしたから。
この仕事を始めてからは、ずっと映画『魔女の宅急便』に出てくる黒ネコのジジの人形を持っていました。シブリの作品が大好きなんですよ。仕事にも持っていくんです。持っていると緊張が和らぐような気がして。本読み(キャストやスタッフが初めて一堂に会し、脚本の読み合わせを行う場)のときとか、緊張するので、ずっと膝の上で握っていた。本読みが終わったときは、ジジが手汗でびっしょりなんてこともよくありました。今はもちろん持っていかないですけど(笑)、相変わらず緊張はします。でも、それはもう仕方がないこと。乗り越えていくしかない。
ジジを持っていかなくなったのは、家に忘れたことがあったんです。そのときに『あ、なくても大丈夫か』と思ったのがきっかけ。でも、いまだに捨てられませんね。あれから3回くらい引っ越したんですけど、そのたびに連れてきています」
現在、29歳。今年は『東京タラレバ娘』で3年ぶりに連ドラに出演、『ユリゴコロ』で5年ぶりに映画主演するなど、精力的な活動を見せる。
「年齢とともにお芝居が難しくなってきた。『お芝居は難しい』という自覚がどんどん増している気がします。
今、大事にしているのは『きょうは1日しかない』という気持ち。『あした頑張ればいい』と思いたくなるときもあるんですけど、全然そんなことはなくて、あっという間に置いていかれるし、あっという間に人は死んでしまう。
でも自分が死んでも、自分が出た作品は残る。自分より長生きする。だから簡単に処分される作品じゃなく、自分より長く残って、自分より身近に手に取られるような作品になってほしい。作品に臨むとき、そう思うようになりました」

1988年生まれ、東京都出身。2006年に園子温監督作『紀子の食卓』で映画デビュー。08年、蜷川幸雄監督の『蛇にピアス』で初主演、日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞新人賞などを受賞。以降、『婚前特急』(11年)、『僕等がいた 前篇・後篇』(12年)、『横道世之介』(13年)などに出演。14年にはNHK連続テレビ小説『花子とアン』でヒロインを務めた。17年はドラマ『東京タラレバ娘』に出演。18年は『検察側の罪人』が公開予定。

『ユリゴコロ』
父親が余命わずかと知り、婚約者はこつ然と姿を消した。失意の日々を送っていた亮介は、実家の押し入れで『ユリゴコロ』と書かれたノートを見つける。そこに書かれていたのは「美紗子」と名乗る殺人者の衝撃の告白だった……。監督+脚本・熊澤尚人 原作・沼田まほかる(『ユリゴコロ』双葉文庫) 出演・吉高由里子、松坂桃李、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江、松山ケンイチ 9月23日(土)全国ロードショー
(ライター 泊貴洋、写真 藤本和史)
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