2017年12月11日(月)

ここまで来た顔認証技術、光とともに影も

The Economist
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2017/9/12 18:42
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The Economist

 人間の顔というのは見事な作品だ。驚異的なほど多様な顔立ちが存在するから、お互いに見分けがつくのであり、それにより複雑な社会が築き上げられている。しかも顔は、感情を伝達することもできる。無意識にほほを赤らめることもあれば、策略として偽の笑顔を見せることもある。人間は、起きている時間のほとんどを相手の顔を読み取ることに費やしている。オフィスや法廷、バーや寝室などで、相手の好意や敵意、信頼や偽りを表情から判断している。一方、自分の本心を偽ることにも多くの時間を費やしている。

 顔の表情を読み取る能力では、今や機械が急速に人間に近づきつつある。米国の教会では礼拝の出席者を把握するために、英国の小売りは過去の万引き犯を見つけるために顔認証を利用している。ウェールズでは今年、顔認証を使いサッカーの試合中のスタジアム近くで容疑者を逮捕するのに成功した。中国では、配車サービスの運転手の身元を確認したり、観光客の娯楽施設への入場を認めたり、笑顔を画面に見せるだけで代金を支払えるようになっている。

中国では画面を見るだけで代金を支払える飲食店が登場した=ロイター

中国では画面を見るだけで代金を支払える飲食店が登場した=ロイター

 米アップルが12日に発表する新型「iPhone(アイフォーン)」は、顔認証でホーム画面のロックを解除できるという。

 人間が顔を認識する能力に比べれば、こうした進歩は微々たるものに思えるかもしれない。確かに有人飛行やインターネットといった画期的な発明の方が、人間の能力を劇的に変える。顔認証は、人間が持つ能力をデジタル化しているだけのようにも思える。

 人間の顔は個々人で異なるが、公開されているものなので、顔認証は一見、プライバシーを侵害するものとは感じられない。だが、あまりコストをかけずに膨大な数の顔の画像を瞬時に記録し、保存し、分析できるようになれば、いずれプライバシーや公平性、信頼性などの概念を根本的に覆すことになる。

■本人特定の精度は70%

 まずプライバシーの問題を考えよう。顔認証が、指紋などの生体認証データと大きく違うのは、遠くからでも認識できる点だ。携帯電話を持つ人なら誰でも、相手の写真を撮って顔認証プログラムに読み込ませられる。ロシアの「ファインドフェイス」というアプリは、見知らぬ人の写真をSNS(交流サイト)「VKontakte(フ・コンタクテ)」に上がっている写真と比べ、70%の精度で本人を特定できるという。

 米フェイスブック(FB)が持つ膨大な写真データは誰でもアクセスできるわけではないが、例えばFBは自動車のショールームを訪れた客の写真を入手し、顔認証で特定した本人のページにクルマの広告を流すこともできる。

 民間企業が画像と身元を結び付けることができなくても、多くの場合、国家なら可能だ。中国政府は、国民の顔写真のデータを保有しているし、米国では成人の半数の写真がデータベース化されており、米連邦捜査局(FBI)はこれらを利用することが許されている。今や法執行機関は犯罪者を追うのに役立つ強力な武器を手にしているが、そのことは同時に市民のプライバシーに重大な危機が訪れていることを意味する。

 顔は、単なる名札ではない。名前以外にも膨大な情報を示しており、機械はそれらも読み取ることができる。このことには利点もある。例えば、アイドゥー・チェイニー症候群などのまれな遺伝的疾患を自動的に診断するために顔を分析している企業もある。顔認証技術を使えば、通常よりもずっと早く疾患を見つけられるという。また、人の感情を測定するシステムがあれば、自閉症の人にとって、認識しづらい社会的なシグナルが理解しやすくなるかもしれない。

■差別が日常化する可能性

 だが、この技術は脅威にもなりうる。米スタンフォード大学が実施した研究によると、同性愛者の男性と異性愛者の男性の写真を見せたところ、アルゴリズムは本人の性的指向を81%の精度で言い当てたが、人間の判断による場合は61%にとどまったという。同性愛が犯罪とされる国で、ソフトウエアで性的指向を顔から推測できるとなれば重大な問題をはらむ。

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