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記者がトライ カジノディーラーになってみた

昨年末に統合型リゾート(IR)整備推進法が成立し、カジノ誘致に自治体や企業が動き出した。「働き手はどうなっているの」とキャップ。カジノの主役、ディーラーをどう育てるのか調べると東京に養成学校があり、体験入学も実施中。カジノって怖そう。もの怖じしていると「記者生活を賭けてやってね」とキャップのつれない一言。私も意を決してベット(賭け)だ。

ルーレットに挑戦、頭もぐるぐる

9月上旬。東京都新宿区のビルの2階にある日本カジノスクールに恐る恐る足を踏み入れた。黒いじゅうたんにカジノゲームのテーブル8台。「地下」とか「賭場」といった暗いイメージを持っていたけど、意外にも明るいムード。体験ではブラックジャックやルーレットを遊びながら学ぶ。

私が的を絞ったのは、ディーラーの動きに目を奪われたルーレット。盤で玉をさっと回し、チップをさっそうと回収していく。映画でよく見る、あれだ。スマートな私が頭に浮かぶ。

講師は本場の米ラスベガスでのディーラー経験がある内田貴子さん。「記者さんのお仕事柄から申し上げます。ディーラーは締め切りなし、ノルマも残業もなし」と機先を制された。手玉に取られながら、なすがままに衣替え。ワイシャツに蝶(ちょう)ネクタイを着け、ベストをまとう。

まずは玉を放つ練習。直径2センチメートルほどの小さな白い玉を中指の第1関節と親指で挟む。盤に中指を押しつけて、玉を手前に引っ張るように回す。「ほこりをとるような感覚でやってみて」「力まずに、するっと」

見よう見まねでやってみると、玉が盤をとりあえず回った。案外できるのね、と思っていると「15周くらい回らないとゲームが成立しません」。10周もせず力なくコロコロ落ちていく。

がっかりしていると、先生がコツを教えてくれた。「ご飯、何食べようかなって考えながらやると肩の力が抜けますよ」。「ご飯何食べよう」とつぶやいてみると、玉が回らないどころか盤の外に飛び出してしまった。

それなりに慣れてきたところで「玉の動きは見てはいけません」とぴしゃり。ディーラーが玉を見ていると、どこかの数字を狙っていると怪しまれるという。「でも、プロは狙えばできるんじゃないですか」と質問すると、「盤上に金具があって跳ねるので無理。そもそも、そんなこと考えません」とたしなめられた。

次はチップの配当。配当の倍率は賭け方によってまったく違う。加えて「サイジング」という技術が必要。お客さんが置いたチップの隣に、勝ち分のチップを間違いなく配るため、人さし指をスライドさせて高さをそろえる技術だ。ディーラーは1枚ずつ数えるような不格好なことはしない。

配当の計算に混乱、でも「80点」

「独り立ちしてみましょう」。ついにデビューの時が来た。

カジノはディーラーの「プレイスユアベット」の合図でスタート。お客さんがチップを置いた頃合いで、盤を回して、玉を放つ。玉の回る速度が落ちてきたら「ノーモアベット」で締め切りを告げる。「カラン」と玉が落ちた音がしたら、チラッと数字を確認。はずれチップを回収して、当たったチップの配当を計算して積み上げる。

悩ましいのが配当計算。2倍、3倍、6倍……。置いた場所によって違う配当を一瞬で計算して、テーブルのプレーをスムーズに運ばないといけない。チップはお金だと思うと緊張してしまう。

先生に評価を聞いてみると「初心者にしてはいいですよ。80点」。お世辞に違いないが、とりあえず合格点よね。マイナスの理由を聞くと、「チップを配ることに集中しすぎて、周りを見ていない」。計算とサイジングで頭がいっぱいだった。

「もう一回やってみましょう」。玉が順調に回り、あとは配当の計算だけだと思っていると「カチッ」という音。お客さん役の先輩記者が何かチップをいじっている気がする。だけど、どう注意すればいいのかわからない。気づかなかったことにしておこう……。

「できました」。先生に言うと、配当の間違いを指摘された。3倍になるところに、2倍のチップしか置いてなかった。

それに意地悪な先輩記者は、当たりの数字が決まってから賭けていたチップをこっそり積み増したらしい。やっぱり周りに気を配る余裕がなかったか。でも実際に怖そうなお客さんが目の前で不正をしたら、どうすればいいんだろう。

「カジノはセキュリティーがしっかりしていることをお客さんも熟知しているので、変なことはまずしませんよ」。海外で紳士の遊びといわれるゆえん。万が一のトラブルにも上司が対応するので、ディーラーは何もしなくて大丈夫だという。

ディーラーの働き方を聞いてみると、「1時間勤務したら15分休みで、8時間以上働くことはないですね」。子育てしながらディーラーとして活躍する女性も多い。給料は通常のホテルマンの1.2倍以上もらえるという。究極のホワイト職場かもしれない。あれ? 何か心が揺れてる。

カジノ開業後はディーラー不足も

日本カジノスクールの入学者の平均年齢は30歳。約8割が仕事をしながら通っている。短期集中コースの場合、3カ月間週6日の授業で技術や知識を学ぶ。約600人の卒業生のうち2割がマカオやラスベガスなど海外のカジノでディーラーとして働いている。

一緒に体験に参加した加藤美佳さん(37)はラスベガスに毎年行くほどカジノ好き。「客船でも働きたいし、将来は海外に行きたい」と目標もしっかりしている。卒業生の宮沢敬大さん(23)は早稲田大学卒業後に日本カジノスクールに入学した。大学の先生に心配されたと言うが、「英語を使いたいし、日本にできるカジノの運営や経営に興味がある」と力強い。

さて、カジノを中心とする統合型リゾートについては賛否両論があるのも事実。「健全なカジノ文化を生むにも、不正を嫌うディーラーをしっかり育てることが欠かせない」(大岩根成悦校長)。将来、全国で施設が稼働すれば数千人単位でディーラーが必要になる。雇用増の期待どころか、早々に手をつけなければ人手不足の問題の方が深刻になるという。

「日本は最後発カジノ国だが、指先も器用で、おもてなしの精神もありディーラーに向いている」(大岩根校長)。負けても次に来てもらえるようなホスピタリティーが勝負のカギを握るという。なんだかすてきだな。ディーラー転職もいいかも。入学案内をもらって家へ帰った。人生を賭けてみようかな。

(大阪経済部 淡海美帆)

[日経産業新聞 2017年9月8日付]

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