2017年11月20日(月)

米ハリケーン被害は人災の面も 教訓新たに

The Economist
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2017/9/5 18:41
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The Economist

 米国を8月下旬に直撃した大型ハリケーン「ハービー」。被害の全容は洪水の水が引き、動かなくなった車や汚泥が流れ込んだ家々、多くの溺死体を目にするまで把握できないだろう。ただ本誌エコノミストが印刷に回された時点ですでにテキサス州南部の降雨が6日目に入り、米国史上、最悪の大洪水をもたらしたことは明らかだった。

 同州ヒューストンでは、ハリス郡がわずか100時間で4.5兆リットル超の水につかった。8歳児をすっぽりのみ込むほどの雨量だ。

米テキサス州南部を直撃したハリケーン「ハービー」による洪水被害は、稚拙な都市計画が拡大を招いた面がある=ロイター

米テキサス州南部を直撃したハリケーン「ハービー」による洪水被害は、稚拙な都市計画が拡大を招いた面がある=ロイター

 世界の耳目はこの米国第4の都市の惨状に集まっているが、自然災害の被災地はヒューストンだけではない。インドやバングラデシュ、ネパールでは今年、モンスーンによる洪水で少なくとも1200人が死亡し、数百万人が家を失った。8月には西アフリカのシエラレオネで起きたゲリラ豪雨による土砂崩れで、正確な数は不明だが1000人以上が命を落とした。

 世界の国々は洪水の脅威に立ち向かおうとしている。これは突き詰めれば、気候変動にどう対処するかという問題になる。同時に、洪水被害を悪化させる近視眼的な政策や誤った政策誘導の手段を見直すことも重要だ。

■頻発する嵐と洪水

 警報システムの改善や堤防、排水路、防災シェルターなどの設置により、嵐や洪水による死亡者がこの数十年で激減したのは喜ばしいことだ。1970年にバングラデシュを襲ったサイクロンでは30万~50万人が亡くなったのに対し、2007年の直近の大型サイクロンでは4234人にとどまった。

 反対に頭が痛いのは嵐と洪水が依然、気象関連災害のほぼ4分の3を占め、頻発していることだ。独ミュンヘン再保険のまとめでは、世界の嵐と洪水の発生件数は1980年には約200件だったが、昨年は600件を超えた。ヒューストンがハービーのような500年に1度とされる規模の暴風雨に見舞われたのは79年以降、これで3度目だ。

 被害も甚大になっている。ハリケーン被害を受けるとみられる地域の住民の数は70年から2010年の40年間で3倍に増えたという推計もある。沿岸部の都市への人口流入は続いており今後、この数はさらに増えるはずだ。

 国連では、15年までの20年間に嵐と洪水の被害額が1.7兆ドル(約186兆円)に上ったと見積もっている。世界保健機関(WHO)はハリケーンによる世界全体の被害総額が、実質ベースで年間6%ずつ増えていると推定する。欧州の洪水被害額も50年には5倍に膨らむ見通しだ。

■被害拡大の要因は温暖化だけでない

 被害拡大の一因は地球温暖化だ。ハリケーンの発生頻度や勢力は当然、一様ではない。この10年間は米国への上陸数が非常に少なかった。とはいえ、世界的な基調は気候変動から予測できる。海水温が上昇すると海水の蒸発速度が上がる。大気は温度上昇で大量の水蒸気を含むようになる。水蒸気は上空で凝結され、多量の凝結熱を放出する。こうして嵐や洪水の勢力が増していく。

 特にメキシコ湾で顕著になるとみられる海面上昇も高潮の潮位を上げ、洪水被害を拡大する。ハービーの被害が大きくなったのは8月25日の米国への上陸直前、急速に勢力を増したからだ。上陸後はテキサス州南部に停滞してヒューストンに大量の雨を降らせ、その後メキシコ湾へ戻った。この迷走ぶりも地球温暖化に伴う気候の変化によるものと考えられる。

 だが、温暖化以上に問題なのが稚拙な都市計画だ。土地の利用制限がないに等しいヒューストンは、そのいい例だ。同市は00年以降、住民が180万人増えた。緩い規制のおかげで不動産デベロッパーは容易に住宅を建てることができた。一方、雨水を吸収していた沿岸部の広大な草地はコンクリートで固められてしまった。

 地元紙テキサス・トリビューンや非営利の調査報道機関「プロパブリカ」は、ハリス郡では10年以降、100年に1度の確率で洪水が発生するとされた平野に8600棟以上のビルが建設されたと報じている。デベロッパーは河川から流れ出た雨水を受ける貯水池を、開発していない土地に設置することにはなっているが、そうした規制はあってなきがごとしだ。

■政策の失敗も拡大に拍車

 洪水が発生しやすい場所を示す地図にも最新情報が反映されていないため、浸水の恐れがないはずの土地に建っている建物が何度も洪水に見舞われている。

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