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もっと関西 有馬の湯、火山ないのに高温で湧出(とことんサーチ)
太古の海水、地下もぐる

2017/8/29 17:00
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日本最古の温泉の一つ、神戸の有馬温泉は周りに火山が見当たらないにもかかわらず、太古の昔からこんこんとお湯が湧き出る。100度近い高温で海水よりも塩分が濃いなど泉質にも謎が多いこの湯、600万年以上前の海水が地下深くで熱せられたことが分かってきた。地球観測など最新の科学技術が解き明かしつつある有馬の湯の「正体」に迫った。

有馬には鉄分や塩分を多く含む褐色の「金泉」、炭酸とラジウムが主成分の「銀泉」がある。金泉は高濃度の塩分が肌に薄い膜を作るため保湿効果が持続し、冷え症や関節痛への効能が知られる。銀泉は炭酸ガスによる毛細血管の拡張で血流が増えるため高血圧症によいそうだ。温泉全体で「療養泉」として環境省が指定する9つの主成分のうち二酸化炭素泉や塩化物泉など7つが認定されている。

温泉の多くは山肌に染み込んだ雨水や雪が火山活動で熱せられ地表に湧き出たもので、有馬のように火山から離れれば通常は湧出温度は下がる。ところが、神戸市が所有する7つの泉源の1つ「有明泉源」を訪れるとパイプから100度近い高温で無色透明の湯が飛び出していた。空気に触れると酸化し赤くなり、金泉として湯船に届く。

「金泉」には豊富な鉄分や塩分が含まれている(神戸市)

「金泉」には豊富な鉄分や塩分が含まれている(神戸市)

こうした有馬の湯からは海水の1.5~2倍の塩分や、リチウムなどのレアメタル、マントルに存在するヘリウムガスの同位体「ヘリウム3」が検出されている。全国的に見ても多様で特異な泉質だ。

有馬温泉観光協会会長で旅館「御所坊」主人の金井啓修氏によれば有馬は「湧くはずのない所に湧くはずのない湯が湧く温泉」。最新の地球科学の目が、有馬の湯がプレートテクトニクスと関連があることを突き止めた。

有馬の湯の特異性が宝塚温泉(兵庫県宝塚市)や長野県大鹿村の鹿塩温泉などにも通じることは1970年代頃から知られており、「有馬型温泉」と呼ばれてきた。産業技術総合研究所の風早康平・上級主任研究員は2003年、有馬温泉が「太平洋から日本列島の下に沈み込むフィリピン海プレート(岩板)から生まれた」との説を発表した。

海底近くでフィリピン海プレートが陸側のプレートに沈み込んだときに、海水を一緒に巻き込んでいく。岩石の一部となり地下60キロメートルの地中まで沈み込むと、マントルに熱せられ、温泉となって地表に向かって熱水が上部に湧き出す。その場所が有馬だ。

「銀泉」には炭酸ガスが多い(神戸市)

「銀泉」には炭酸ガスが多い(神戸市)

地下100キロメートル近くであればマグマを作り火山ができるが、それより浅いためマグマを作らず熱水のまま上昇しているという。「有馬の湯の性質が雨水や海水を主成分とする地下水ではなく、火山のマグマから出る火山ガスの水蒸気と一致する」と風早研究員は話す。13年、京都大学の川本竜彦助教などはフィリピンのピナツボ火山噴火に関する論文でこの説を裏付けた。

有馬の湯は「約600万年前に沈み込んだ海水」と風早研究員。和歌山県白浜町の白浜温泉も有馬型で大分平野(大分市)の地下には「有馬型熱水」があるとの説もあるが、有馬は「地下水と混ざって薄まっていないため、塩分や炭酸ガスなどの濃度が非常に高い」と教えてくれた。

「有馬は歴史だけでなく泉質も生かすべきだ」と話す有馬ビューホテルの入谷泰正社長は広い庭園を生かして森林セラピーに取り組み、温泉の力と掛け合わせた長期滞在型の健康増進プログラムを計画している。温泉街では身近に泉質を味わえるようにと、炭酸を応用して作った「有馬サイダー」や、クレープのような柔らかい食感が数秒でせんべいの固さになる「炭酸せんべい」などが売られている。

あの豊臣秀吉も愛したといわれる有馬温泉。地下深くから600万年かけて湧き出る有馬の湯が持つ神秘の力に魅せられたのだろう。なめると塩辛くほのかに鉄の香りがする湯につかり、炭酸せんべいを食べながらしみじみと思った。

(神戸支社 杉浦恵里)

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