スイス 490キロ結ぶ地下物流網 CST社
スイスで都市間を結ぶ全長490キロメートルの貨物用の地下トンネル構想が動き出した。同国の小売りや物流などの主要企業で構成するカーゴ・スー・テラン(CST)社が、2030年の営業開始を目指す。スイスでもネット通販の普及で貨物量が増え、渋滞が深刻化している。実現に向けてはハードルが高いが、都市の姿を変える可能性を秘める。

地下トンネルは、チューリヒやジュネーブなどスイス北部の主要都市を結ぶ計画だ。28年までにチューリヒと、西に約70キロメートル離れた都市ヘルキンゲン・ニーダービップの間で完成させ、テストを経たうえで30年に営業を開始する。
45年までにネットワークを広げる。総工費は330億スイスフラン(約3兆7500億円)を見込んでおり、まず認可取得に必要な1億フランは一部がすでに集まっているという。
フランス語の社名は直訳すれば「地下の貨物」。その仕組みはこうだ。まず地下20~50メートルの深さに直径6メートルのトンネルを掘る。トンネルの中には電動ベルトコンベヤーが3レーン走っており、パレットに載せた荷物を時速30キロメートルで運ぶ。
急を要する荷物のために、時速60キロメートルの輸送レーンを別に設ける。CSTのダニエル・ヴィーナー取締役は「この速度でも渋滞がないため、早く正確に届けられる」と説明する。
全長490キロメートルのうち主要都市や中間地点に地上と結ぶハブ(中継基地)を80カ所設け、荷物の搬出入をする。ハブの出口まではすべて全自動で24時間365日、荷物を運ぶことが可能だ。届け先に応じてパレットがレーンを乗り換えるなど、最も効率よく流れるように自動制御する。「既存の技術の組み合わせで実現が可能」(同取締役)という。
何より環境面での貢献が大きい。現在のトラック輸送などに比べると、二酸化炭素(CO2)の排出量は約8割減少し、交通量は4割減ると見積もる。そして鉄道以上に正確な時間管理だ。物流システムと商品管理システムを連動させることで、消費者にとっては、ネット通販で品物を買った瞬間に、10分単位で荷物がいつ届くかがわかるようになる。
CSTの株主にはスイス国鉄やスイス郵便、通信大手のスイスコム、小売り大手のコープ、ドイツのSAPなどが名を連ね、それぞれ取締役を出している。例えばSAPは自社のクラウドサービスを通じて物流の全自動化の技術を提供する。
スイスでは40年に貨物輸送が10年比で37%増えるとみられている。同取締役は「ネットワークが大きくなるほど事業で得られる利益も増える」と話す。スイスでの事業化と合わせて、アジアの物流にも関心を示しており、シンガポールや中国などでの事業化を検討するという。
■独は自動運転試験
今後も増える欧州の物流をどう担うか。スイスの地下トンネルに対し、ドイツ企業は自動運転トラックの隊列走行で最適化を図る。
ドイツ鉄道傘下の物流大手であるDBシェンカーは、2018年春から日常的な運用試験を始める。ハブとなる2地点を結ぶ定期路線化し、貨物の量を調節したり、運転手の負荷を軽減したりすることを目指している。
隊列走行は、複数のトラックを互いに車車間通信で結び、車間距離を15メートル以下に詰めて先頭車両に追随する。後続車は空気抵抗が減り、燃料消費を1割近く減らせる。
シェンカーの実験は、独南部のミュンヘンとニュルンベルク間の高速道路で19年1月まで実施する。車車間通信と連動して、自動で追従やブレーキ操作をする機能を搭載した半自動運転トラックを独商用車大手のMANが開発している。
当初は荷物を積まずに交通条件の分析や運転手の訓練にあて、順次実際の貨物を運ぶ。実用に近い形での実証は世界で初めてという。
単発の実験ではなく、1日3回程度を継続的に走行。ドイツの運輸デジタルインフラ省はこの実証に2億ユーロ(約260億円)を拠出する。
欧州では16年にMANのほか、独ダイムラーやボルボ(スウェーデン)など6社の自動運転トラックが、隊列走行で欧州を横断する実験を成功させている。
(フランクフルト=深尾幸生)
[日経産業新聞 2017年8月28日付]