「深く考えることで心が成長」 石黒マリーローズさん
大学講師・エッセイスト(折れないキャリア)
祖国レバノンを離れ来日して45年。大学などで英語やフランス語を教える一方、キリスト教文化に関する本を多数執筆。語学にとどまらない異文化理解、国際理解の大切さを説いてきた。「生きた言葉、生きた文化を伝えたい。教えることは喜びであり、私の人生そのもの」と熱く語る。

首都ベイルートに4人きょうだいの長女として生まれた。大学の図書館に勤める父の影響で幼い頃から大の本好き。文学と哲学を学び、大学卒業後はクウェート王室付き教師として活躍した。在レバノンの外国企業幹部に語学を教えていた20代後半、日本の銀行の駐在員だった夫と出会う。故郷を離れる寂しさと不安もあったが、父に背を押され結婚を決意。1972年に日本に移り住んだ。
日本でも教えることへの情熱は変わらなかった。夫の知人に頼まれ語学を教え始めると、言葉の背景にある文化や価値観を丁寧に説明し、深い理解を促す教え方が評判を呼んだ。知人の紹介で大阪大学などで教べんを執るように。現在は神戸学院大学の非常勤講師と、ソフトバンクグループの通信大であるサイバー大学の客員教授を務める。
意識するのは「考えさせる教え方」だ。海外メディアで報じられた様々なトピックについて意見を交わし、文化の違いや相互理解に必要なことを話し合う。「深く考えることで彼らの心が成長する。『先生ありがとう』と感謝されることで、私の心も成長している」
異国の地でエネルギッシュにキャリアを切り開く過程では、心ない噂話やねたみに傷つくこともあった。「自信をなくすことはあったが、夫や家族、友人の支えがあったから強くなれた」。日本の女性には、「信頼できる人と悩みを分かち合い、励まし合いながら、一歩前へと行動してほしい」とエールを送る。
思いやりや寛容の精神、四季の美しさや治安の良さ。日本の良さにもっと気づいてほしいと、『日本だから感じる88の幸せ』と題した書籍を今春出版した。「こんな素晴らしい国はない」と思うからこそ、頻発するいじめや自殺、ハラスメントなどの問題に胸を痛める。「ものづくりだけでなく、人々の幸せという意味でも、日本は世界のモデルになれるはず」。その思いを胸に、異なる価値観を理解し合い、認め合うことの大切さを発信し続ける。
[日本経済新聞朝刊2017年8月28日付]
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