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「軽トラ市」街を笑顔に

2017/8/28 7:00
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「軽トラ市」といっても自動車を販売するのではない。農作業で活躍する軽トラックを道路のど真ん中に並べ、新鮮野菜や地元の特産品を売る「市」が全国に広がっている。舞台は人通りが少なくなったシャッター商店街。市が始まると人とモノであふれ、荷台をはさんで笑顔がはじける。小さな町を中心に今では100カ所近く。売り手と買い手が直接つながる軽トラ市には、地方を元気にするヒントが隠れている。

■にぎわうシャッター商店街

多くの人でにぎわう軽トラ市(愛知県新城市)

多くの人でにぎわう軽トラ市(愛知県新城市)

7月9日の日曜日。遠くに残雪の岩手山を望む岩手県雫石町の「よしゃれ通り」は、珍しく朝から活気づいていた。毎月恒例の軽トラ市の日。8時半すぎ、軽やかなエンジン音を響かせ軽トラックが次々と入場してきた。通行止めにした470メートルの車道の中央に63台が数珠つなぎに並んだ。

農作業の車は移動店舗に早変わり。とれたての野菜あり、山菜あり。雫石牛の煮込みやリンゴジュースも並んだ。南部鉄のアクセサリーや趣味の木工品を運んできた高齢者もいる。9時のスタートを待ち切れず、買い物客が続々と集まってきた。

売る人も買う人もほとんどは県内からで、顔なじみも多い。「元気かい」「いつもありがとう。これサービスだから入れとくよ」。気がつくと両側の歩道まで人でいっぱいになっていた。

水産加工の寅丸水産は、太平洋に面する岩手県山田町から内陸の雫石町まで車で3時間半かけて毎回やってくる。2011年の東日本大震災。津波で港の加工施設が流されると、雫石からすぐに支援が届いた。「『市』が後押ししてくれて、営業再開にこぎ着けられた」と上林禎久社長(52)。海産物を満載した軽トラにはこの日も、長蛇の列ができた。

毎月第4日曜日に開かれる軽トラ市(愛知県新城市)

毎月第4日曜日に開かれる軽トラ市(愛知県新城市)

雫石町の軽トラ市は2005年に始まった。郊外の大型店に客足が流れ、中心商店街の衰退が目立っていたころだ。活性化策を商工会などで議論する中で出た一言がきっかけになった。

「みんな軽トラを持ってるんだから、それを使おう」

荷台は腰ほどの高さで、販売にはちょうどいい。商品は自分で作っている農産物や手作りの品を持ち込もう。週末の道路はどうせ車が少なく空いている。手探りで始めた軽トラ市は評判を呼び、町の人口を上回る年間約2万人が集まる名物イベントに。農業と牧畜の町は今、軽トラ市の元祖を名乗る。

愛知県豊橋市から山沿いに入った奥三河の新城市。毎月第4日曜日になると地元の音楽好きが作った「軽トラ行進曲」が駅前商店街に流れ、80台近くが通りを埋める。

愛知県設楽町で高原野菜を栽培する村松敏仁さん(44)は赤、黄、紫と色とりどりのトマトを並べた。普段はレストランやホテルに出荷しているが、「ここではお客さんの声を直接聞き、栽培方法や品種選定の参考にしている」。とれたてのトマトを楽しみに通う常連客も多い。

軽トラ市で商品を販売する女子高生ら(愛知県新城市)

軽トラ市で商品を販売する女子高生ら(愛知県新城市)

出店は生産者だけではない。新城高校の女子高生グループはまだ車の運転免許がないので、テントでの特別出店。授業で手作りしたジャムやクッキーを並べ、市が終わる12時半を前に売り切った。「いろんなお客さんと接点ができるのが楽しいし、刺激になる」と情報会計科の松井来夏さん(18)。自分で作った商品を売り、消費者の反応を確かめる。それを参考に、次の商品を工夫する。物づくりや商いの原点を見ているようだ。

軽トラの列が人を呼び、町に活気が戻る。今週も、日本のどこかで同じような光景が見られるはずだ。

■肩肘張らない身軽なイベント

「地元の特産品をはさんで人と人のコミュニケーションが自然に生まれる。それが最大の魅力」。軽トラのメーカーであり、自らも軽トラ市に通うスズキの鈴木修会長はこう評価する。海、山、川の幸や商工業の製品がそろい、高齢者から子供までが集まり交流する光景には、「駄菓子屋のような、懐かしい雰囲気がある」。売り手と買い手を両輪に快走する軽トラ市は、地方創生のモデルになるとも話す。

雫石町、新城市に宮崎県川南町を加え3大軽トラ市と呼ばれる。「我が町でも」と導入を計画する地方の商店街や商工団体は多く、雫石町などの軽トラ市には毎回、複数の視察団が訪れる。2年前には「全国軽トラ市でまちづくり団体連絡協議会」も旗揚げした。略して「軽団連」だ。

軽トラ市人気の理由の一つは、肩肘張らず身軽なイベントである点。農作業で使っている軽トラを転用すれば店が出せるし、商品は身近にある。出店料は2000~3000円だから負担は小さく、高校生や高齢者も気楽に参加できる。1日の売り上げは1台2万~5万円程度でも、お金ではない収穫がある。

運営面での工夫も見逃せない。「必要な経費は出店料でまかなっている。行政の補助金はゼロ」と話すのは新城市商工会の森一洋理事(59)。商工会メンバーが手弁当で参加。PRの費用やボランティアへの謝礼などを差し引いても赤字にはならない。

新城市では1997年、中心市街地活性化のために行政と市民が出資する街づくり会社が発足したが、人件費や投資がのしかかり会社を清算した苦い経験がある。代わりに始めた軽トラ市は今月で90回目。「行政に頼らず、身の丈に合った運営をしているのが長続きの秘訣」と森さんは強調する。

軽トラ市を開く町は、郊外型店舗に押され中心商店街の衰退が目立つところが多い。軽トラ市を開くと一時的にかつてのにぎわいが戻る。課題はこの活気を日常の風景にできるかどうかだ。

「撤収完了です。ご苦労さまでした」。終了時間になり軽トラが一台一台引き揚げると、にぎわいは蜃気楼(しんきろう)のように消え、元のシャッター商店街に戻る。これも地方の現実だが、ヒト、モノ、カネは確実に動き始めている。(田辺省二)

■10月に全国軽トラ市サミット 磐田商工会議所・高木昭三会頭

磐田商工会議所の高木昭三会頭

磐田商工会議所の高木昭三会頭

静岡県磐田市では2011年から軽トラ市を開催しており、今年9月で27回を迎えます。約110台が参加し、駅前の商店街は多くの買い物客で埋まります。当市は繊維や輸送機械関連の企業が集まる工業都市として発展してきましたが、商業や農業の活性化が次の大きな課題です。地元の農産物の販路拡大はもちろん、人々が集い商店街の活性化にもつながる軽トラ市は、町を元気にする施策の一つだと考えています。

10月28日には磐田市で全国軽トラ市サミットを開きます。各地の関係者が参加してシンポジウムや交流会を開き、翌29日には軽トラが駅前に並んで特産品を販売します。これを機会に磐田市から地域活性化への熱い思いを全国発信したいと思います。

取材協力 スズキ

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