/

課題も多い夏競馬 出走馬の質低下、膨らむ開催費用

中央競馬の7、8月は四大場(首都圏の東京、中山、関西圏の京都、阪神)でのレースがなく、福島や新潟、小倉、北海道と全国各地に開催が散らばる。G1レースもなく、有力馬の多くは秋の大一番に向けて夏休みに入っている。競馬記者にとっては、いつもの土地を離れ、のどかな雰囲気で仕事ができる楽しい時期である。だが、ひとたび目の前のレースをみると、ローカル開催には多くの課題や問題点があることに気付いてしまう。

距離のバリエーション少なく

のどかな雰囲気が楽しい夏競馬だが、開催の費用対効果は悪い(北九州市の小倉競馬場)

まず、レースの施行条件の問題がある。夏に開催がある競馬場のうち、中京と新潟を除く、4競馬場(福島、小倉、函館、札幌)は小回りで、設定できる距離に限りがある。この4つの競馬場では、競馬で最も重要な距離といえる芝の1600メートル戦が組めない。その代わり、札幌では第1コーナーに設けられた引き込み線からスタートする芝1500メートルを設定し、ほかの3つも芝1700メートルのレースが施行できるようにはなっている。とはいえ、いずれもスタートしてすぐにコーナーを迎える形状で、使いやすいコースではない。特に芝1700メートルのレースは現在、1年を通して小倉の1競走しか組まれていない。

ダートはさらに深刻だ。小倉、函館、札幌は設定できる距離が1000、1700、2400メートルの3つしかない。ダートコースは小回りの芝コースのさらに内側に設置されているため、細かい距離設定が難しい。春秋に西日本の競馬の主場となる京都、阪神では1200、1400、1800メートルを中心にレースが行われる。京都では1900メートル、阪神では2000メートルのレースも常時設定されることを考えると、ローカル場は距離のバリエーションが少ない。特に1000メートルと1700メートルの中間の距離がない点は、大きな問題である。

設定される距離が少ないことに加え、「能力のある馬ほど、不利が少なく、実力をストレートに発揮できる広いコースのレースに使いたい。逆に能力が足りない馬は、レースが紛れやすい小回りを狙う」(栗東の有力調教師)ため、小回りの競馬場では出走馬の質が低くなる。

実際、この言葉の通り、夏の小回りの競馬場では四大場とは違った流れのレースが展開される。例えば、ダートの1700メートル戦は、普段は1400メートルを主戦場にするスピードのある馬も参戦するため、流れが速くなることがよくある。最後の直線も短いので、早いタイミングでの仕掛けも増える。頭数が多ければ、小回りの分、スムーズに進路を確保できない可能性も増し、実力を発揮しきれない馬も出てくる。広いコースの1800メートル戦では、道中はエネルギーを温存し、最後にスパートするといった、メリハリの利いたレースをしようとする馬も多いことを考えると、100メートル違うだけでレースの「質」が全く違ってくる。

一本調子のスピードだけでも押し切れることがあるダートの1000メートルと、多少のメリハリが必要になる1200メートルの比較でも同じことがいえる。だから、各陣営とも、夏競馬でのレース選択には、いつも以上に頭を悩ませることになる。もともとレベルの高い馬の出走が少なくなる時期とはいえ、これらの理由から下級条件でも出走馬の質が低くなる傾向が強い。その結果、魅力に乏しいレースが増える。

同じ時期のローカル場同士で出走馬のレベルに格差が生じる問題もある。7月は東日本が福島、西日本が中京、8月は新潟と小倉でレースが開催される。夏の最大の見どころは2歳新馬戦だが、広くて設定距離が豊富な中京、新潟と小回りの福島、小倉の組み合わせとなるため、素質のある期待馬は中京、新潟でデビューする傾向が強い。小回りでも馬産地が近く、牧場からの移動に便利な北海道の競馬場には素質馬が出走する一方で、暑さが厳しい小倉の新馬戦は、他の競馬場の開催と比べ、特にメンバーが小粒になる。これではファンの興味も引きづらい。

馬券の売り上げ規模も小さく

首都圏などと比べると、人口規模の小さい地方都市での開催となるうえ、低調な顔ぶれでレースが行われるため、必然的に馬券の売り上げ規模は小さくなる。そうしたことから日本中央競馬会(JRA)はここ数年、ローカルの開催を短くし、その分を春秋の祝日を利用した四大場での開催に振り向けることで馬券売り上げの増大を図ってきた。例えば、12年までは東日本の6月半ば以降の開催は福島で行われていたが、13年からは福島の前の東京開催を6月下旬にまで延ばし、ローカル競馬の期間を短縮した。西日本でも、以前は16日だった夏の小倉の開催日数が現在は12日に減った。

6月の半ば以降の開催4日間の1日平均の馬券売り上げで比較すると、福島だった12年と比べ、13年の東京の売り上げは3割ほど増えた。東京に移ってから、期間中に実力馬が集まる重賞レースを組む日ができた影響もあるが、メインレースが同じ1600万条件戦だった12年6月16日(60億3820万7100円)と13年6月15日(71億9166万1300円)を比較しても、東京が19.1%多かった。

ローカル場での開催は、売り上げ規模が小さくなる割にコストもかかる。出走馬の輸送費用はJRAが負担するが、遠隔地での競馬となるため、調教拠点である美浦(茨城県)、栗東(滋賀県)の両トレーニングセンターから競馬場への競走馬の輸送にかかる費用は増す。昨夏の小倉開催(12日間)の輸送関連の費用は、同じく12日間で行われた4、5月の京都と比べ、2.36倍に膨らんだという。夏のローカル開催はコストパフォーマンスが悪い。

北海道の開催を中心に、一部では夏のローカル開催の延長を望む声もくすぶる。記者個人もローカル開催を増やし、地方のファンが生のレースに接する機会を多くつくってほしいという願望がある。ただ、企業経営的な観点から考えれば、ローカル開催を縮小させるというここまでのJRAの判断は当然で、賢明なものであると考える。6月26日に大阪市内で行われたJRAの定例会見でも北海道の開催延長に関連する質問が出たが、「輸送がしやすく、いろんな距離のレースができる四大場、中京、新潟を活用すべきだ。当面は今のパターンで開催していきたい」というのが答えだった。ローカル競馬のコストパフォーマンスの悪さを改善するのは、現実問題としてかなり難しい。たとえ一部の望みがかない、夏のローカル開催の延長が実現したとしても、その日程が長続きする可能性は限りなく低いだろう。

(関根慶太郎)

 野元賢一記者、関根慶太郎記者がそれぞれ出演するラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック!  http://www.radionikkei.jp/keibaradio1/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連キーワード

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン